第666話 「親睦」
「さっきの話にもあったけど、手に入れて日が浅いんで聖剣の扱いに関してはそっちに比べればまだまださ。 そう言う訳で、聖剣の扱い的な面でも頼りにしてるよ!」
場所は変わって砦内にある食堂。
その奥にある部屋の一室。 ここは階級や身分の高い人や客人用の個室だ。
話が終わった後、ヤドヴィガさんに誘われて僕達はこうして一緒に食事を取る事となった。
流石に彼女一人に対して僕だけ皆を連れて行くのは信用していないと言外に伝えているようで座りが悪く、自由行動と言ったのだけどエイデンさんとリリーゼさんは一緒に行くと聞かなかったのでヤドヴィガさんに許可を取って同席して貰った。
ちなみに異邦人の二人は了解と頷いて、ジャスミナさんは用事があると何処かへ行ってしまった。 ミナミさん達には宛がわれた部屋の場所は事前に伝えているので大丈夫だろう。
早々に姿を消したミナミさん達にリリーゼさんが露骨に嫌な顔をしていたけど、異邦人の二人にも考える時間は必要だと思ったので、必要な時以外は自由にして貰うつもりだ。
「分かりました。 私で役に立てればよいのですが……」
「ま、本格的に攻めるのは少し先になるから焦らずにやろうじゃないか」
そう言えば攻める事に関しては聞いていたけど具体的にいつかは聞いていなかったか。
ヤドヴィガさんは小さく肩を竦める。
「あんたが来てくれただけでも充分だとは思うんだけどね。 戦力が揃うまでは待機だとさ」
それを聞いて納得した。 話題に出ていたグノーシス教団本国からの戦力が揃うのを待っているのだろう。
「本国の戦力と言うのはそれほどまでなのですか?」
「うーん? 良く知らないのだが、アタルアーダルから来た連中曰く「格が違う」らしい。 聖剣使いって訳じゃなさそうだけど、グノーシスの連中がえらく自信満々だったから期待はしているよ」
話していると扉が軽く叩かれる。 注文した料理が来たようだ。
机に料理が並び運んで来た人達が退出した所で食事を始める事になったのだけど――
「あ、ちょっと待った!」
兜を脱ごうとした僕をリリーゼさんが押さえつけ、エイデンさんが魔法道具を使用して何かを確認していた。
エイデンさんが頷くのを見てリリーゼさんが僕から手を放す。
「脱ぐのは良いですけど、安全確認ぐらいはさせてください」
「あはは、ごめんね?」
エイデンさんの咎めるような言葉に苦笑で頷く。 どうやら盗聴や魔法的な監視を警戒していたようだ。
問題なさそうなので兜を脱いで足元に置く。 ヤドヴィガさんが少し驚いたように目を丸くする。
「隠しているから傷でもあるのかと思ったけど、随分とべっぴんさんじゃないか」
「一応、隠しているので素顔に関しては内緒にしておいてください」
僕がそう言って笑みを浮かべるとヤドヴィガさんも笑みで頷く。
「信用されたって事かい。 悪い気分じゃないね」
その後はお互い目の前の料理に舌鼓を打ち、雑談へと移行する。
ヤドヴィガさんはあまり静かにしているのは苦手のようで、色々と質問してくるので答えつつ僕も色々と尋ねるといった流れになった。
「人員もそうだったんだけど、装備の損耗が激しくてね。 補給に戻った時にちょうど聖剣の選定が始まっていたから物は試しにと挑んでみたらご覧の有様さ」
腰の聖剣を鞘ごと持ち上げて見せる。 鞘を見れば形状が分かるけど、随分と大きい。
両手持ちの大剣だ。
「気になるかい? 最初はあんたの剣と似た感じだったんだけど使おうとしたら勝手に形が変わったんだよ」
使い手に合わせて形を変えるのかな?
僕の時は初めて見た時から既にこの形だったからどうなんだろう。
実際、使ってみると凄く手に馴染んだので、驚いた記憶がある。
もしかしたら元々は違う形だったのかな?
「その後はこいつを使って大暴れさ。 最初はどんな奴にも負ける気がしないって気持ちがしたけど、それだけじゃ勝てないって周りに諭されてね。 こうして大人しくお仲間が来るのを待っていたって訳さ」
ヤドヴィガさんは豪快に笑っていたけど、不意に表情が消える。
「話を聞いただけでまだ出くわしていないんだけど、その「在りし日の英雄」ってのはそんなに危ない相手なのかい?」
「――はい。 少なくとも一対一ではとてもじゃないけど敵わない相手でした」
あの時はマーベリックさん達、グノーシスの皆とクリステラさんやエルマンさん達、アイオーンの仲間達が居なければ確実に負けていただろう。
「同じ聖剣持ちのアンタが言うのなら、思い留まって正解だったって訳かい」
「実力の差もありますが、聖剣の力は辺獄では完全に発揮できません。 勝つ為にはあらゆる手段を以ってして挑むべきです」
「発揮できない?」
「はい、固有の能力等は問題なく扱えるのですが、魔力の供給に制限がかかるので力の使い過ぎには注意した方がいいと思います」
ヤドヴィガさんは僕の話に興味が出た――というよりは自分と同じ聖剣使いが現れて嬉しいのか質問内容は聖剣の扱いや辺獄での事が多かった。
僕も何かの役に立てばと覚えて居る限り、詳細にバラルフラームでの戦いについてを話す。
「――はー、そんな凄い剣の使い手だったのかい?」
「はい、グノーシスの聖堂騎士の方とも一緒に戦ったのですが、まともに打ち合ったら数合も保たないでしょう。 近接する場合はとにかく手数で畳みかけるしかありませんでした」
「なるほど、やたらと数に拘るのはその辺が理由かい?」
「そこまでは分かりません。 同格と言うだけで同じ相手ではないので、戦い方も変わって来ると思います」
あの辺獄種に限れば一対一で戦うのは無謀を通り越して自殺行為と言ってもいい。
とにかく手を出させない事が重要だ。
思い返せばあの戦いは犠牲が多く出た事もあって、反省点が多すぎる。
クリステラさんですら軽くあしらわれる程の圧倒的とも言える剣技。
彼女は純然たる技量だと評していたけど、その点は僕も同じ意見だ。
あれ程の剣の冴え、そこに至るまでどれほど長い道を歩んだのか……。
権能の防御すら容易く突破したあの剣は、まともに貰えば一撃で命を失うだろう。
「――いや、そんな凄いのによく勝てたねぇ」
最後まで聞き終わったヤドヴィガさんは関心とも驚きともつかない表情だった。
「運もあったと思います。 正直、もう一度同じ条件で戦って勝てる気がしません」
「……なるほど、参考になったよ。 それと悪いんだけど、後で模擬戦の相手をして貰ってもいいかい? 少しでもこいつに慣れておきたいんだ」
ヤドヴィガさんはそう言って聖剣の柄に触れる。
「えぇ、ぼ――私で良ければ喜んで」
時間があると言うのなら後悔のないようにしっかりとやれる事をやろう。
僕はそう思い、彼女の申し出に大きく頷いた。
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