第580話 「活路」

 俺は斬りかかってきたアムシャ・スプンタの斬撃を魔剣で受ける。

 奴の攻撃を捌きながら内心の混乱を押さえつけていた。

 あの時、死んだと思ったその瞬間に魔剣からの干渉を受け、予備脳の一つが乗っ取られた所までは理解できたが、問題はその後だ。


 意識が飛んでいた――いや、その間に妙な物が見えはしたが……今はいい。

 正確には意識自体はあったが、体の制御が完全に奪われて外界を認識できなかったのだ。

 気が付けばご覧の有様で、アムシャ・スプンタは防具を全損し、この部屋どころかフロアの床から上が消し飛んでいた。


 ファティマ達から連絡が入っていたが、問題ないと伝えて目の前の敵に集中。


 気になる事は多いが今は目の前の敵を処分する方が先だ。

 特に傷があるようには見えないが、動きがかなり悪くなっている所を見ると、消し飛んだ鎧は随分と奴の身体能力を引き上げていたであろうことが分かる。

 

 ――とは言ってもこれまでに喰らった攻撃によるダメージの蓄積で俺自身も本調子ではないが。


 体内の補助脳、予備脳の大半は再生中で、魔力も派手に使った所為でそれなり以上に消耗している。

 この状態では第四形態の円盤を大量にバラ撒くのは燃費という意味でも控えた方がいいかもしれんな。

 それはそうとして目の前の敵――アムシャ・スプンタだが、身体能力が大きく落ちた事により奴は俺の攻撃を防がざるを得ないようだ。


 さっきまでは見てから躱していたようだが、今は見えてはいるが体が追いつかないので普通に聖剣で受け止めているのが分かる。

 いい傾向だ。 俺のダメージが浅ければもう少しやれるだろうが今はこれが限界か。

 

 ……とは言っても厳しい状況である事には変わりはない。


 相変わらずこちらの攻撃は全て読まれ、相手の攻撃は聖剣による強化の所為なのか未だに鋭い。

 間合いを取って再生の済んだ左腕ヒューマン・センチピードを嗾けるが、あっさりと聖剣で切り飛ばされる。 防がれるのは想定内なので<榴弾>を連射。

 

 剣から噴き出した鉛が壁を形成して全て防ぐ。

 戦い方が回避前提から全て防ぐやり方に変わっているが、未だに不利なのは変わらんか。

 割と絶望的ではあるが、これなら逃げる事も可能だろうしそれなり以上に戦えるといういいニュースもある。


 外にいる連中を呼び出して物量で押し潰すのも手だが、奴の配下――恐らくはここに来る途中に仕留めた連中と同様の装備を身に着けた連中が粘っているようで、制圧にはまだかかる。

 それに聖剣持ちに半端に強い連中を連れて来ても話にならない可能性が高い。 つまりは俺が仕留めないと不味いと言う事か。


 それに魔剣を使っている俺だからこそ言えるが、聖剣が魔剣と同様に無尽蔵な魔力供給を受けているのなら削るよりはどうにかして押し切った方がいい。

 

 ……が、こちらとしても決め手にかける状態ではある。

 

 鉛の塊が雨のように降って来るのをチャクラを使って魔剣に炎を纏わせ、焼き尽くす。

 最初は魔法で打ち落としていたのだが、剣から出て来る鉛は半端な魔法は効果が薄いので魔剣を介しての攻撃でしか処理できないのだ。 かと言って無視して回避となると生き物の様に回り込んで襲って来るので完全に消して無力化せざるを得ない。


 数度の攻防を経て補助脳と予備脳の機能が回復したので、第四形態へ変形。

 円盤を生産し、チャクラでエンチャント。 炎に包まれる。

 本当なら少し控えたい所だが、相手が物量で押し潰そうとしているのでこちらも同様に物量で防がないと押し切られるな。

 

 いっそ奴が例の解放でも使って時間切れで動けなくなってくれないかと考えてはいたが、奴はそんな気は毛頭ないらしく、冷静に俺を潰そうと堅実に削る為の攻撃を繰り出している。

 ご自慢の防具を消し飛ばされて攻め急ぐのかもと思ったが、数回打ち合っただけで冷静さを取り戻したのは大した物だ。 例の予知だか予測だかで攻撃は読めるが、カウンターが狙えず打ち合う事になると斬られる可能性を考えて遠距離主体に切り替えてきた。


 こういう手合いは中々厄介だな。

 要はひたすら削って俺が消耗するか致命的な隙が出来るのを待っているのだろう。

 外の状況を鑑みて、尚それをやれるのは凄まじい胆力と言える。


 ……戦闘では膠着となるのなら少し揺さぶってみるか?


 「こんな所でダラダラやっていてもいいのか? 外は随分と押されているようだが?」

 「その程度で揺さぶれるとでも?」 


 少しでも動揺してくれればと期待して、俺がそう言うとアムシャ・スプンタはお前の意図はお見通しと言わんばかりに流す。


 「かもしれんな。 だが、この戦いに勝てたとしてもこの国は終わりだ。 王としてその辺はどう考えているんだ?」


 俺は魔剣で派手に飛んでくる鉛の塊を焼き払いながら言葉を重ねる。

 アムシャ・スプンタはくだらないと鼻を鳴らす。


 「我が国は選定真国――真に選ばれた者のみが在る国。 つまりは選ばれし者あっての存在。 その長たる我が居れば何度でも蘇るだろう」


 つまりは場所ではなく自分こそが国だと?


 「つまりあんた自身がオフルマズドだと」

 「然り、我は王で在る以前に国、オフルマズドとは我自身」


 なるほど。 言っている事はさっぱり理解できんが、考えそれ自体は良く分かった。

 要は自分がオフルマズドという国の根幹なので自分さえ無事なら他はどれだけ犠牲になろうが大した問題じゃないと。


 そう考えるなら味方にどれだけ被害が出ようと軽く流せる事にも納得だ。

 何故、そんな考えに至ったのかは理解に苦しむが裏を返せば、こいつを仕留めればここは終わりと言う事だな。


 なら、尚の事こいつはここで始末しておく必要がある。

 それに聖剣使いを野放しにしておくのは不味い。 こいつ一人でこの強さだ。

 ウルスラグナにも似たような奴がいるとなると、場合によっては徒党を組まれるかもしれん。


 そうなると辺獄に誘い込まない限り俺ではどうにもならんな。

 相手のミスは期待できずに、こちらも手を増やして対処したい所ではあるが遊撃で動いている連中を呼んでもすぐにやられるのが目に見えている。


 手持ちの札で有効そうな物はないかと考えていると――


 ――兄ちゃん! 無事か!?


 頭蓋骨に埋め込んで置いた魔石から反応があった。 首途だ。

 

 ――悪いが今取り込み中だ。 報告の類なら後で――


 ――済まんがちょっと緊急や。 実はな――


 首途の報告を聞いて納得した。 確かに緊急を要する案件ではあるな。

 俺に直接報告する訳だ。 少し考え――る必要もなさそうだ。

 

 ――任せる。 引き剥がしておいてくれ。


 どうやら賭けにはなりそうだが、勝ちの目が見えて来た。

 さて、どう転ぶのか。

 少なくともこれ以上は悪くならないとは思いたいな。

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