第568話 「到着」
時間にしては数分にも満たない観察で俺は連中の装備の仕組みに大雑把ではあるが当たりを付けた。
こいつらの装備はアレだ。 タンジェリンか。
以前、俺がウルスラグナの王城から奪った剣なのだが、あれの解析を首途に依頼してしばらく後に結果を聞かされた。
持ち主に様々な恩恵を与えると言えば多少は小難しいが、蓋を開ければ単純な話ではあった。
要は剣に様々な機能を盛り込むところまでは普通の魔法を付与した品と変わらないだろう。
違う点は機能を使用するに当たっての魔力消費がゼロと言う点だ。
さて、ならどうやって使用と維持に必要な魔力を賄っているのか?
答えは単純で外から引っ張ってきているのだ。
それにより普通じゃ維持すらできないような支援魔法による身体能力の底上げや様々な攻撃魔法を消耗なしで使いたい放題になるのだが……。
……どうやってこれだけの人数の維持コストを賄っているかは謎ではあるがな。
ただ、手品の種は割れた。
詰まる所こいつ等は装備による支援や強化に頼っているだけの雑魚と言う訳だ。
仕組みは不明だが、便利な代物ではあるだろう。 強化の倍率も極めて高いと言わざるを得ない。
考案した奴は確かに有能だ。 ここまで強化すればその辺のガキでも聖騎士と戦えるだろう。
まぁ、裏を返せばそれだけとも言える。
要はかかっている魔法をどうにかされれば、どうにもなりませんと自供しているような物だからな。
速いだけの斬撃と刺突を掻い潜り、威力があるだけの攻撃魔法や魔法付与がなされた矢を躱しながら、考察を終えると連中に対する興味が急速に薄れた。
まぁ、こんな物かといった感想しか出てこないのだ。
仕留める方法も思いついた。
普通にやっても問題ないだろうが、こちらの方が早い。
『
権能を使用。
俺の全身から青の混ざった黒い霧が噴出。 即座に周囲を満たす。
「な、何だこれは!?」
「臆するな! 王の加護たる臣装を纏った我等に、このようなまやかしは効かん!」
まぁ、そうだろうな。
色欲もそうだが嫉妬の権能は効果範囲が広い分、威力が散るので簡単に防ぐ事が出来る。
実際、聖殿騎士の装備で完全に影響を無効化できる程度の代物だしな。
ただ――この空間内では魔法の威力は大幅に減衰し、外からの干渉を防ぐ。
さて、他所から魔力を喰って現状を維持している連中がこれを喰らうと一体どうなるんだろうな?
結果はすぐに出た。
「ぐ、何だ? 身体が――重い……」
「馬鹿な!? 何故、臣装が!?」
察するに臣装と言うのがそのご自慢の装備の名称なのだろうが、思った通り他所から魔力を賄っていたか。
連中の動きが目に見えて悪くなった――というよりは悪くなりすぎじゃないか?
ふらついている奴までいるぞ。 どうなっているんだとも思ったが、ややあってあぁと察した。
外からの供給が途絶えた事により自前の魔力で強化の維持を行って、即座に枯渇したと言った所か?
何が起こったか気付いた奴は装備の機能を止めたのだろう。
こうなってしまえば後は消化試合みたいな物か。
――第一、第三、第四形態。
黒い靄で構成された第三形態が、柄から噴出して分離、同時に刃が分割して円盤を形成。
追加で柄から出て来た刃が更に分割して円環状に回転。
最近、練習していた複数の形態を同時に使用するという使い方だが、纏めて始末する時にかなり重宝するな。
第三形態が手近な敵を喰い散らかし、円盤が次々と兵士を鎧ごと切り刻む。
間合いの外にいる奴は
それにしても第四形態は便利だな。 スピードも出るから逃げる奴を背中から斬れる。 そして欠点である操作に関しては本来なら思考のリソースをそれなりに割く必要があるから扱いが難しいが、並列思考は俺の得意分野だ。
何せ脳が複数あるからダース単位で操っても戦闘に余り支障が出ない。
……まぁ、限度はあるが。
「おのれえええええ!」
一人、元気のいい奴が――あぁ、ここの連中を率いていたケイレブだったか?――が円盤を掻い潜って斬りかかろうとしていたが、俺は小さく指を鳴らす。
奴の近くを飛んでいた円盤がいくつか割れて内部からワイヤーが出て来て空中に蜘蛛の巣じみた物が現れる。
「――なっ!? これは!?」
なりふり構わず突っ込んで来た所為で、反応が致命的に遅れた。
ケイレブはワイヤーに引っかかり、円盤が周回してその体を絡め取る。
真っ直ぐに突っ込んで来る奴はやり易くていいな。
「ぐ、くそ、切れな――があああああああ!!」
何とか切ろうとしていたが周回していた円盤達に群がられ悲鳴が上がる。
ワイヤーの方は防げているが円盤の刃は無理のようだな。
しばらくガリガリと削る音が響いた後、ケイレブの目に絶望が浮かび――次の瞬間に奴はバラバラになった。
目の前で隊長が殺されたのは中々ショッキングだったらしく、それを見た連中が呆然とした表情を浮かべ――そのまま第三形態に喰われた。
他も反応に差はあるが似たような物だ。 心が折れたのか呆然とする奴、逃げ出そうとする奴も居たが、逃がす訳ないだろうが。 皆殺しだ。
その後は円盤と第三形態のワームが生き残った連中を駆逐するだけの作業だったので、俺は黙って見ているだけで終わってしまった。
時折、俺を仕留めようと仕掛けてくる奴も居たが、間合いに入る前に死ぬのでやる事がないな。
数分もしない内に最後の一人を仕留め、この場に居た連中は全滅となった。
さて、先に進む前に俺はそこらに転がっている連中の装備を調べるが、そこまで怪しい点はないな。
内部には様々な魔法を付与する為の魔石とそれを連結する為の水銀が血管のように鎧の下を巡っていたようだ。
随分と金がかかっていそうな代物ではあったが、裏を返せばそれ以上に特筆するべき点がない。
まぁ、仕掛けの種はあからさまにくっ付いているこの黒い魔石だろうな。
調べようとすると崩れて消えたのでさっぱり分からん。
どちらにせよ、俺はこの手の事には疎いので大した事は分からんか。
俺は気を取り直して先へと進む。
さっきので全部だったのか追加が出てこないな。 索敵をかけながら慎重に進むが時折、小部屋に反応があったので調べると、非戦闘員らしき連中が身を寄せ合って隠れていたので<榴弾>を放り込んで楽にしてやった。
そんな調子で索敵に何も引っかからない事を確認してから先へ。
上層階はそこまで複雑な造りじゃないようで、広い通路を真っ直ぐに進むと最奥に立派な扉が目に入る。
……ここか。
逃げ出していなければここが玉座の筈だが――まぁ、居ないなら居ないで派手にぶっ壊して家探しでもするか。
そんな事を考えながら扉を開けて中へと足を踏み入れた。
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