第566話 「攻城」

 ――時は少し遡る。 


 バチバチと魔力を放つ魔剣の第二形態を下ろして俺はおやと首を傾げた。

 城の上部を消し飛ばしてやろうと放ったのだが、どうも防御機構のような物が備わっているらしく、効果がない。


 無傷とは大した物だ。

 まぁ、ウルスラグナの時とは違い、要らない気を使う必要がないのでさっさと本丸を消し飛ばして楽をしようという考えはどうやら甘かったらしい。


 だが、奇襲の方は成功したようで、俺が連れて来た連中は派手に暴れて周囲に居合わせた者を次々と殺害。

 地形などの情報に関しては事前に共有済みなので任せておけば後は手筈通り勝手にやるだろう。

 テュケにご執心の連中は丸ごと行かせる予定なので、逃げるのが得意な蜻蛉女でも今回は流石に突破は無理だろうな。


 可能であれば俺の手で仕留めておきたい所だったが、結果的に死ぬのなら俺がやらなくても同じ事だ。

 やりたがっている連中が居るのならやらせてしまえばいい。


 陽動はハリシャ達に任せておけば問題ない。 その場を連れて来た連中に押し付け、城へと向かう。

 俺はさっさと城を落とすとしよう。 本来なら包囲してからという話だったが、面倒なのでさっさと落として手間を省いてやる。


 サベージを連れて城へ向かい、鬱陶しい城門は第二形態の光線で消し飛ばした。

 幸いにも城門には例の防御機構は働かなかったので、そのまま中へ。

 城門が消し飛んだことにより、警備兵が次々と湧いて来たので時間潰しも兼ねて新機能を試すとしよう。


 「賊め! どこから入った!」

 

 ――第四形態。


 喚いている敵を無視して俺がそう命じると魔剣が変形。

 第一形態のように等間隔で切れ込みが入り分離。 どういう仕組みでそうなっているかは不明だが分割された刃が円盤状に変化。


 ――やれ。


 同時に円盤が次々と兵士達に襲いかかる。

 これは首途の新作であるザ・ジグソウの機能を模した物だ。

 分割した刃が円盤状に変形、回転しながら殺到して対象を切り刻む。 出せる数には限りがあるが、他の形態と併用する事によって手数が増えるので思った以上に便利な形態だ。


 ただ、操作に多少のリソースを割かれるのと、本体から離しすぎるのは良くないらしく第三形態と同様に維持にそれなりの魔力を持って行かれるので使いっぱなしは厳禁といった所か。

 

 「な、何だこれは――がっ!?」


 叩き落そうとした奴が剣ごと円盤に両断され、盾で受けようとした奴が盾ごと切断された。

 正門の内側とは言え、密集して現れていたので連中に逃げ場なく――まぁ、控えめに言っても阿鼻叫喚と言った感じか。


 連中は円盤の対処で俺の相手をするどころではないらしく、誰も向かってこない。

 俺は小さく嘆息して近くに寄りかかって円盤を操作。

 逃げないように取り囲むように円盤を操作して連中を片端からなます切りにする。

 

 最初はどいつもこいつも元気よく悲鳴を上げて仲間を呼んでくれたので、的に困る事はなかったのだが、しばらくするとそれすら来なくなり、最後には命乞いをする奴ばかりになってしまった。

 隣のサベージは退屈なのか欠伸をしている。


 必死に助けてとか言っているが無視して仕留めていく、情報は欲しいので吐かせる事が可能なら捕虜、もしくは洗脳を試みるべきなのだろうが、事ここの連中に限ってはそれは無駄だ。

 流石はテュケの本国と言うべきだろうか、どうもここの国民は大人からガキに至るまで一人残らず例の裏切防止の措置を取られているらしく、事前の偵察で数人拉致ろうとしたが拘束すると即くたばって爆散。 情報の吸い出しは不可能だった。


 ダーザインとの違いは消滅するだけで、例の周囲を巻き込むような仕掛けは施されていないぐらいか。

 その為、内情に関しては一切手に入らなかったが、地形を調べられたのはでかい。

 ちらりと城の方へと視線をやると迎撃に出て来た連中は全滅したようだ。

 

 後ろを振り返ると街では派手に戦闘が行われており、現在はイフェアスが率いる部隊が向かっている外へと繋がる門とハリシャの陽動が主だが、取りあえず門が開くまでは待機する必要があるので追加が来ないかなと城を見やる。


 さて、このオフルマズド。 ファティマが匙を投げる程に外部からの干渉に強く、侵入が難しいが俺にはその方法に一つ心当たりがあった。

 無意識に魔剣に触れる。 こいつだ。


 こいつは外と辺獄の境界を操る事が出来るので、魔剣を用いて辺獄へ向かい、戻る際の場所をある程度指定できる特性を利用してオフルマズドの内部に侵入を果たしたと言う訳だ。

 流石に辺獄を経由しての侵入は想像もできなかったらしく、やりたい放題だった。


 隠形に長けたモスマンを大量に引き連れて定期的に偵察に赴き、色々と調べさせてもらったと言う訳だ。

 流石に毎日行くと不味いので適当に日付をばらつかせて情報の収集を行い、可能であれば数人拉致して内情も探る予定ではあったが、そちらは失敗。 仕方がないので死体を偽造してその場を離れる事となった。


 ……まぁ、たまたま外れを引いた可能性も考慮して人種や身分を問わずに色々試したが、どいつもこいつも残らずくたばったので、最終的には国民全員がそうなのだろうという結論に落ち着いたが。


 老若男女分け隔てなくだったが、赤ん坊までそうだとは思わなかった。

 どうやら魔法的に何らかの刷り込みを行われているのか、連れ去ろうとしたら勝手に死んでしまったので、拉致と洗脳は諦めざるを得なかった。

 

 こっちはダーザインの時より機密保持に特化しているので洗脳の為に接触した時点で死ぬので、俺もお手上げだったな。

 まぁ、地形の情報と重要施設――中でもテュケの拠点の場所が割れたのは大きい。

 それとこの国と外とを隔てている仕掛けを破る方法も見つかったので、現在イフェアスが実行中だ。


 遠く――北端の方で戦闘の音が激しくなる。

 どうやら到着したようだ。

 この作戦――暫定名称だがオフルマズド殲滅戦の第一段階。


 俺が奇襲部隊を連れて辺獄を経由して襲撃。

 ハリシャが城の鼻先で暴れて派手に注意を引き、その間にこちらの魔導外骨格部隊が敵の魔導外骨格の工場や格納庫を襲撃し、敵の注意を分散。


 迎撃態勢が整う前にイフェアス率いる本命の部隊が、門を襲撃し開門。

 並行して物資の取引を行う商人に扮した別動隊が外から襲撃。

 門を内と外から攻める。 実際は隙間でも開けば成功と言えるだろう。


 この国が外からの干渉に強い理由はこの国を取り囲んでいる外壁にある。

 内部に強固な障壁を展開する仕掛けが施されており、外からの干渉を一切受け付けない。

 その為、転移も通信も不可能なので奇襲が難しく、ファティマが攻める事に渋った最大の理由だ。


 だが、完璧ではない。

 その障壁にも綻びが出来る瞬間がある。 要は外と空間的に繋がっていれば転移も通信も使用が可能になるのだ。 俺が一人で侵入した時に試したが、門が開いて居る時だけ通信魔石が使用できた。

 

 要は隙間があれば転移が使えると言う訳だ。

 それが済めば第二段階へ移行。

 第二段階は転移魔石による強襲。 最初に重要施設を一気に襲撃して敵の都市機能と指揮系統を破壊して対応力を落とす。


 優先順位はテュケの拠点、グノーシス教団の自治区、兵士の詰所の順だ。

 詰所は大きい場所を事前にピックアップしているので、規模の大きい順に仕掛ける事になっている。

 教団の自治区が上位に位置するのはアスピザルの意見を取り入れた結果だ。

 

 どうもこの国には枢機卿と言う面倒な奴がいるらしいので早い段階で潰しておいた方がいいとの事だった。

 俺もペレルロとかいう奴と戦ったが、そこまで強かったか?

 天使の憑依を行えはしたが、霊山で戦ったクリステラやスタニスラスと比べると大した事はなかった。

 

 正直、あの手の技術を扱える連中の中では雑魚ではないかと思っていたぐらいだ。

 アスピザル曰く、司教枢機卿とか言う奴の強さは別格だったらしく、王都では随分と手を焼かされたらしい。 聞けばクリステラと組んでようやく仕留めたらしいが、見てないので何とも言えんな。


 鵜呑みにした訳ではないが、舐めてかかって痛い目に遭うのも馬鹿らしいので戦力を多めに割く事になった。

 弱点などもはっきりしている上、権能を使って来る事も分かっているのでまぁ、何とかなるだろう。


 そんな事を考えている内にイフェアスが門の攻略を済ませたようだ。

 俺は手筈通り懐から転移魔石を取り出した。

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