第565話 「卑怯」

 肉体とそれに合わせて巨大化した十枝内に首途は構わずにザ・コアを構えて突撃。

 対する十枝内は同様に無数の触手を伸ばす。

 鬱陶しいとばかりにザ・コアで薙ぎ払おうとしたが、絡め取ろうとした触手は強度が上がっているのか、火花を散らしながらも逆にザ・コアを絡め取って動きを止める。


 首途は小さく舌打ちして魔力を送り込むが、ザ・コアは軋む様な音を立てて動かない。

 残った触手が首途に絡みつこうとする前に纏めて切断される。


 「――っ!?」


 いきなりの出来事に十枝内が驚きに息を呑むが、何が起こったのかは次の瞬間に理解する事となった。

 いつの間にか現れた円盤状の物体が刃を出しながら回転して触手を切断したのだ。

 首途の手にはこれまたいつの間にか別の武器が握られており、それが原因だと十枝内は当たりを付ける。


 形状はザ・コアより細い円柱で等間隔で横に線が入っており、形状は円盤を複数重ねたようにも見えた。

 

 「斬撃は効きそうやな」


 そう言って首途は武器を操作。

 円柱から次々と円盤が分離。 宙に浮かんだ円盤は即座に刃を展開して回転しながら十枝内へ向けて飛翔。

 魔力駆動遠隔切断棍棒 ザ・ジグソウ。


 形状こそ先発のザ・コアと似てはいるが凶悪性はそれを遥かに凌ぐ。

 接近戦では本体の溝から旋回する刃が飛び出して相手を切り刻むが、この武器の真髄は分離機能だ。

 円盤がそれぞれ独立して飛行し相手を切り刻む。 ちなみに制御は残った柄で行う。


 材料には刃に至るまでタイタン鋼を使用しているので、硬い甲殻を持った魔物すら容易く切断できる。

 制御にコツが必要ではあるが、慣れれば一方的に相手を切り刻む恐ろしい武器と化す。

 そして円盤にはもう一つ機能があり――


 「――このっ!」


 円盤の一つを叩き落そうとした十枝内だったが、円盤が上下に割れたのだ。

 分離しただけでなく双方がワイヤーのような物で連結されており、見た目だけでいえばボーラと言う狩猟武器に酷似している。


 だが、凶悪性と言う点でジグソウはその比ではなかった。 他の円盤も次々と分離してワイヤーを展開。

 ワイヤーが接触した触手を切断しながら十枝内へと肉薄。

 解放した事により大型化した十枝内にはそれを躱す術はなかった。


 次々とワイヤーが接触。 だが、彼女の専用装備は様々な付与が施された特注品。

 凶悪な切断力を誇るワイヤーでも切断する事は叶わなかったが、分離した円盤がそのまま彼女の周囲を旋回。 ワイヤーが拘束するように絡みつき、最後に円盤が床に突き刺さって埋まり、動けないように固定する。


 切断できなかった場合は相手を拘束し、残った円盤が殺到して寄って集って動けなくなった所を切り刻むという代物なのだ。

 十枝内は即座にワイヤーを引き千切ろうとしたが、ギチギチと軋む音がするだけで切れる気配がない。


 円盤が到達する前に十枝内は叫ぶように吼え、全身の触手をがむしゃらに振り回して円盤を叩き落とそうとする。

 いくつかは触手に当たって大きく軌道を変えたが、残りが彼女に食い込んでその鎧をガリガリと削り始めた。


 「この! 離れなさい!」


 徐々に鎧の防御を突破しつつある円盤に恐怖を抱きつつ触手で剥がそうと試み、同時に足を動かして固定を剥がそうとしていた。

 前者はともかく後者に関しては上手く行きつつあるようだ。 円盤は床を砕いて地に潜り込んでいるが、十枝内の力の方が上らしく引き抜かれつつあった。


 ――が、彼女は気付いていなかった。


 自分が既に詰んでいる事に。

 首途は触手に絡め取られて動かなくなったザ・コアを魔石を用いて戻し、今度は別のザ・コアを呼び出す。 先程の物とは違い、砲身が展開していた。


 量産型ザ・コアⅡ。

 第二形態のみを再現した代物だが、一発撃つと冷却しても内部機構が焼けて使い物にならなくなるので実質使い捨てではあるが、威力はオリジナルとほぼ同じだ。


 首途は真っ直ぐに構えると同時に履いている靴の踵部分から杭が突き出して彼の体をその場に固定する。

 砲身に魔力が充填され奥に真っ赤な光が灯った。

 それを見た十枝内は不味いと悟ったのか逃げようともがくが――


 「ところで連れの小僧はええんか?」


 ――首途の言葉で凍り付いたように動きを止める。


 はっと息を漏らして振り返るといつの間にかアールがサベージに踏みつけられていた。

 何か叫んでいるが一切音が漏れていない所を見ると、音を消す魔法を使っているのかと十枝内は思ったが気付いた所で遅かった。


 十枝内が首途に集中している間にサベージは魔法で音を消してアールに忍び寄り、そのまま彼を取り押さえたのだ。

 

 「躱したいなら好きにしたらええ。 ま、そうなったら小僧が餌になるけどなぁ」

 

 首途は楽し気にガハハと笑う。 


 「この、卑怯者!」

 「はっはっは、聞こえんなぁ! どうするかの答えは今見せてもらおか?」


 十枝内は怒りの余り、声を荒げるが首途は笑って聞き流す。

 アールは必死に何かを叫んでいるが彼女には届かない。

 魔力の充填されたザ・コアⅡとアールを見比べて十枝内は――動けなかった。


 「アールき――」


 何か言いかけていたが次の瞬間、十枝内はザ・コアⅡから放たれた紅の光状に飲み込まれて消し飛んだ。

 

 「――! ――!!」


 アールは消し飛んで跡形もなくなった十枝内が居た場所を見て、涙を流しながら何かを叫んでいるが、首途には全く聞こえていない。

 ただ、サベージには聞こえているのか不快気に視線を向けていた。

 

 首途はサベージに見えるように軽く親指で首を掻き切るジェスチャーを見せると待ってましたとばかりに首を向けてアールに喰らいつき爪を立てる。

 音もなく齧られながら引き裂かれていたが、途中でサベージが魔法を切ったのか悲鳴が聞こえて来た。


 首途は使った武器を回収した後、魔石で転移させる。

 その頃には悲鳴も止んでおり、残骸を蹴り飛ばす。 原型を留めていないアールだった物は吹き飛んだ後に消滅した。


 「ったく、ヴェル坊も雑魚逃がすとか雑な仕事しよって。 後で文句言ったらなあかんなぁ」


 首途は小さくそうぼやくとサベージに手招きすると奥へと向かい、意を汲んだサベージがそれに続く。

 恐らくこの先はこの国――オフルマズドの重要施設がある可能性が高い。

 奥にはどんな面白いものがあるのだろうか?


 首途はさっき始末した者達の存在を意識から蹴り出してそんな事を考えながら先を急いだ。

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