第518話 「抗戦」

 「あ、始まったみたいだね」


 翌日、ほぼ更地になったエンティミマスに生き残りが結集して戦いを挑むようだ。

 一晩でどれほどの策を練ってきたのかは知らんがお手並み拝見と行こうか。

 ぞろぞろと結構な数の冒険者や聖騎士や聖殿騎士がミドガルズオルムへと向かっていく。


 俺達が今いるのはエンティミマス(跡地)から離れた小高い丘だ。

 中々良い位置で、向かっていく連中もミドガルズオルムの動きもある程度だが見える。


 そこからアスピザルは興味津々で眺めているが、ヴェルテクスは結果が分かり切っていると近くで横になっており、トラストは周囲の警戒。 サベージはその辺で草を食んでいた。

 俺も興味があるのでアスピザルの隣で成り行きを見守る。


 「おー、魔導外骨格が出て来たよ」

 「そうだな。 アラブロストル製の奴か」

 

 アスピザルの言う通り、数は多くないが軍勢に混じって魔導外骨格まで居た。

 どう見てもアラブロストル側の戦力か。

 まぁ、連中としてもタイタン鋼を仕入れられなくなるのは困るようで、戦力を投入してきたようだな。


 「改めて見ると魔導外骨格ってすごいねー。 ゴーレムの発展形って話だけど、有人で動かせるなんてもう完全に別物じゃない?」

 「……とは言ってもフィクションに出てくる有人ロボットとはやや趣が違っているようにも見えるがな」

 「だから外骨格なんだろうね。 考えた人もいいセンスしてるよ。 まぁ、どちらかというとローの印象に近いのはオラトリアムで首途さんが作ってる奴だね。 特注品のカスタム機っていうのちらっと見たけど凄い事になってたよ」

 「何だ? 首途の奴、そんな物を作っているのか?」

 「そうだよー。 ほらこの前奪って来たんでしょ? 例の何とか研究所。 今はあそこに住み込んで楽しそうに色々やっているよ」

 

 ……缶詰め状態なのは聞いていたが住み込んでいるのは初耳だな。


 「あの人が研究所に移ったから空いた家は僕達が使ってるんだ」


 アスピザルはリフォームに結構かかったと付け加えた。

 特に興味はなかったのでそうかといって流す。

 

 「あ、そろそろ始まるみたいだよ」


 不意にアスピザルがそう言った所で俺も視線を進んでる軍勢に向ける。

 連中は散るような形で布陣。 各々武器を構えるが――何と言うか、この先の展開が読めた気がする。

 その予感は正しかった。


 全員がそのまま突撃したのだ。

 魔法道具や支援系の魔法でかなりの底上げを行ったのか動きはかなりいい。

 近接戦に長けているであろう者達は各々武器をその甲殻に叩きつけていた。


 サイズ差の所為で蟻が集っているようにしか見えない。

 魔導外骨格も同様に大杖を使用しての魔法で砲撃を行ったり大剣で甲殻の継ぎ目を狙ったりしているが明らかに効いていない。


 ……いや、そもそも奴自身が攻撃されていると気付いているのかすら怪しいな。


 当のミドガルズオルムはエンティミマスを更地に変えてご満悦なのか大人しい。

 そのタイミングで仕掛けたのだろうが、あの様子だと勝算があって仕掛けているかも怪しいな。

 何か考えがあるのかと視線を巡らせると遠くの方――南側でも戦闘の物と思われる爆発や金属音が微かに響いている。


 同期して仕掛けているらしいが――


 「うわ、傍から見たら結構な攻撃密度なんだろうけどサイズ差あるから、すっごいささやかに見えるね」

 「攻撃が露骨だから陽動なんだろうが本命は何だ?」

 「うーん。 あ! あれじゃない?」


 アスピザルが指差した先には非武装の魔導外骨格と戦闘に参加していない集団が居た。

 全員が樽や巨大な容器を背負っている。

 そいつらは戦闘の様子を見守っており、いつでも飛び出せる体勢を取っていた。


 「まさかとは思うけど、あの樽やらの中身って睡眠薬的な物だったりするのかな?」

 「いや、あんな量で効くとは思えん。 爆発物の類じゃないか?」

 「それこそ無理でしょ。 あのサイズを消し飛ばしたいならミサイルとかで爆撃でもしないとどうにもならないよ」

 

 この世界でそんな気の利いたものが用意できるとも思えないし、連中がどう動くかを見せて貰うとしよう。

 攻撃が続き、ミドガルズオルムがようやく気付いたのか歯牙にもかけていないが、煩わしいと感じたのかは不明だが攻撃に対して反応を示した。


 首が一つずつ連中の方へと向き、口を大きく開けて連中へと襲いかかる。

 そこで荷物を抱えた連中が待ってましたとばかりに突撃。

 口に飛び込んだ。 首は大きく上を向いて嚥下。

 

 「おー、狙い通りに飛び込んだね」

 「……で? 連中の策とやらは効果を発揮したのか?」


 南側で攻めていた連中の作戦も成功したのか攻撃が止み、攻めていた連中が波が引くように撤退しようとするが、ミドガルズオルムに認識されているので追撃が来る。

 

 「わー、何と言うか箒で掃かれる埃と言うか……」

 

 的を射ている表現ではあるな。

 人や魔導外骨格が軽々と宙を舞っているのが見える。

 少し遅れて連中が次々と地面に叩きつけられて押し花みたいな有様になっていた。

 

 「まぁ、順当な結果だったね」

 「……で? 口に入った連中はどうなった?」


 しばらく待ったが特に変化が起こったようには見えない。

 もしかしたら効果が出るまで時間がかかるのかもしれないと待ってみたが特に何かが起こった様子はない。


 「うーん。 やっぱり薬で動けなくするのを狙ってたんじゃないかな?」

 「効果があるように見えないが?」

 「なら、一番奥まで行って中枢を狙う作戦かな?」

 「だったら効果が出るまで相当先だな」


 比較的スムーズに進んだ俺達でさえ突き当りに辿り着くまで一週間以上かかったんだ。

 しかも奴が眠っている最中にだ。 起きている以上、体内では何かしらの変化が起こっていると見ていい。 俺達が流されたあれも起床時に使えるギミックと考えるべきだろう。


 「……というか無事に辿り着けるかな? 絶対、中の難易度上がってるでしょ」

 「難しいだろうな。 身軽にしているようではあるが足の遅い魔導外骨格まで中に入れたんだ。 相当の時間がかかると見ていい」

 

 ……。


 取り合えず。 連中の作戦とやらは一段落したようだが、特に見所もなかったので見世物としては余り面白い物でもなかったな。

 

 「さて、状況は落ち着いた所で僕等はどう動こうか?」

 「どちらにせよ胴体の場所を突き止める必要がある。 やはり手っ取り早く――」

 「ちょーっと待って、僕達で考えるからローも疲れてるでしょ? 休んでてね。 勝手に動かずに休んでてよ!」


 俺が名案を口にしようとした所でアスピザルが遮り、俺に休め休めと連呼してこの場はお開きとなった。

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