第507話 「動機」
「ぶっちゃけた話さ、今回のダンジョン探索って言わば予行演習みたいな物でしょ? じゃあ、何の予行演習なのかなって思ってさ」
俺は答えない。
ヴェルテクスはこちらを一瞥した後、アスピザルに視線を戻す。
口を挟まない所を見ると話には興味があるようだ。
「アラブロストルが白だった以上、テュケの本国として最も怪しいのはオフルマズドだ。 ファティマさんは最悪、正面切って戦う事になると考えているみたいだね。 流石にウルスラグナの時とは違う。 今回は相手が大きすぎるし、アメリアが死んだとは言え組織は健在だ」
アスピザルは表情を消して目を細める。
「中々、大きな戦いになると僕は睨んでるんだけど実際の所、どうなのかな?」
「……連中がオフルマズドにいたとしてどの程度あの国に食い込んでいるかは知らんが、あの組織は先々の事を考えておくと邪魔なんでな。 可能であれば潰しておきたい」
まぁ、隠すような事でもないし素直に答える。
蜻蛉女が生きている以上、俺の事を言いふらしてくれている可能性は高い。
正直、迷惑なんだ。 俺の周りに鬱陶しく現れては絡んで来る連中が。
俺の気楽な旅を邪魔する連中は一人残らず皆殺しだ。
たとえ相手がオフルマズドという国家であったとしてもそれは変わらない。
「なるほど、当然だけどそれには僕も参加させてくれるって事でいいんだよね?」
「何だ? そんなに連中を潰したかったのか?」
俺がそう言うとアスピザルは笑みを浮かべるが目が全く笑っていなかった。
「まぁね。 随分と好き勝手やってくれたし、原因は父って分かっては居るんだよ? 当然、理解はしてるし八つ当たりって自覚はあるけど――ただ……もうはっきり言うと僕はあいつ等が気に入らないからこの手で潰したいんだよ」
だから、当然僕も参加させてくれるよね?と奴は付け加えた。
まぁ、特に拒む理由はないし実力は折り紙付きだ。 参加したいと言うのなら好きにさせればいい。
「随分と面白そうな話をしてるじゃねーか。 俺もあのカス共を潰せるのなら手を貸してやってもいいぞ」
アスピザルに同調するようにヴェルテクスまでそんな事を言い出した。
……おいおい、お前もか。
アスピザルは分からんでもないが、ヴェルテクスがやる気になっている理由が今一つ分からんな。
「ヴェルってさ、何かテュケに恨みでもあるの?」
アスピザルも似たような疑問を抱いたのか、ストレートに質問をぶつけて来た。
俺も聞こうかと思っていたので手間が省けたな。
ヴェルテクスは不快そうにアスピザルを睨む。 その反応を見て嘆息。
……まぁ、こいつが素直に話す訳がないか。
「……あぁ、そう言えば言ってなかったか」
ヴェルテクスはアスピザルを無視して俺に視線を向ける。
何だ、話してくれるのか?
内容は俺と初めて会った時の少し前の話のようだ。
当時の王都は比較的ではあるが落ち着いては居た。
ダーザインは娼館等を運営していた所を見ると相応に根を張っていたはいたのだろうが、連中は隠密にかなり長けている。 本腰を入れて調べでもしない限り、見つけるのは難しい。
……にも拘らずヴェルテクスはあっさりと拠点を特定していたと言う点も少し気にはなっていた。
「ある日の事だ。 ジジイの家の近くを嗅ぎまわっている奴がいた。 気付いた俺はそいつを締め上げて色々と吐かせようとしたがどう言う訳かそいつは勝手に吹き飛びやがった」
あぁ、例の機密漏洩防止の措置だな。
喋らされたり組織にとって不利益な行動を取ると爆散するギミックか。
それで相手の正体に当たりを付けたヴェルテクスは、一人が死んだ事で追加が来ると睨み待ち伏せを行って調べに来た連中を次々と殺害。
その際に顔を覚え、持ち物を奪い手掛かりを探す。
しばらくして分かった事はどこからか首途の事を聞きつけたのかは不明だったが、何かがあると判断されたようで調査を行おうとしていたらしい。
俺は無言でアスピザルへ視線を向けると知らないと首を横に振る。
当時、首途は肉屋を営んでいた為、ある程度の人の出入りがあった事はヴェルテクスも理解していたので奴は客が怪しいと睨み、情報の出所を調べた。
結果は当たり。 客の一人が店内に怪しい影を見たと言った噂を流していたのだ。
奴はそいつの家に押し入り拷問にかけて、誰に喋ったかを吐かせた。
後はそこから手繰り、浮かび上がったのはダーザイン。 だが、調べた範囲では連中特有の黒ローブを身に着けていなかった事と、聞いていた手口とは若干異なっていた為、奴は調査を続行。
結果、最終的にテュケの名前が浮かび上がる。
……まぁ、動機に関しては何となくだが理解できるな。
大方、転生者が本当に居た場合、ダーザインに先んじて手に入れたかったと言った所だろう。
協力関係ではあったが良好な仲とは言い難かったからな。
狙いが首途にあると判断したヴェルテクスは連中を潰す事を決め、王都内を徹底的に調査。
ダーザインとは別口で管理していた物資や触媒の保管庫を発見。
使えそうな悪魔のパーツを強奪後、施設を焼き払ったらしい。
ついでに襲いかかってきた連中も撃退には成功したが、転生者まで繰り出して来たので流石のヴェルテクスも苦戦を強いられたようだ。
少し気になったので襲ってきた転生者の特徴を聞くと、お互い姿を魔法等で消していたので確定ではないが、何と以前に俺が始末した蝙蝠女だったようだ。
俺がシジーロで挽き肉にしてやった事を教えると、奴は口の端を吊り上げて若干嬉しそうだったが、自分で始末出来なかったので少し残念そうだった。
当時のヴェルテクスでは転生者の相手は少し手に余ったようで、対抗手段として奪ったパーツの移植を行い戦力の強化を図ったが、馴染むまでに逃げ回る必要があった。
そんな折に俺を見つけて今に至ると言う訳だ。
「――そんな訳だ。 連中はぶっ潰す。 ジジイに手を出そうとした事がどれだけ高くついたかを教えてやる」
そう語るヴェルテクスの視線には紛れもない怒りが乗っているのが分かった。
俺はそれを見てなるほどと納得。
要は首途の為か。 少なくともヴェルテクスにとっては首途に手を出される事は何をおいても許容できなかったと言う訳だ。
「……その割には俺をあっさりと首途の所に連れて行ったな」
「お前は明らかにどこかの紐付きには見えなかったし、話しただけで分かった。 縛られる事が大嫌いな手合いだってな」
……だから信用できると?
何とも奇妙な判断基準だ。 俺は反応に困ったので、何も答えずに肩を竦める。
まぁ、概ね正しいな。 必要であれば意に沿わない事もやるが、他人に従って何の得にもならない上にやりたくもない事をやらされるのは我慢できんな。
特に当時はあのゴミ屑の残滓が残って居た以上、感情の振れ幅が今より大きかった事もあるし、どう転んでもテュケには付かなかっただろう。
俺が奴の立場でも鬱陶しく干渉してくるのなら排除に動いただろうな。
「以上だ。 納得したか?」
ヴェルテクスはそう言って話を締め括った。
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