第506話 「擦合」
「さーて、では今からこの国のダンジョン――地虫の鉱床について説明するよ! 質問はいつでも受け付けるから気になる事があれば何でも聞いてね」
そう前置きしてアスピザルは話を始めた。
地虫の鉱床。
まず、このダンジョンは階層式ではなく、いつか俺が行った場所のように地底に伸びた洞窟らしい。
構造的には蟻の巣に近い。 地底に伸びた通路が枝分かれしており、その大半が行き止まりとなっている。
さて、その行き止まりだが大きな空間になっており、高確率で魔物が現れるので慣れた連中はそこで出待ちして仕留めると言った方法で狩っているようだ。
洞窟自体もタイタン鋼で構成されているので傷付ける事自体は可能だが、破壊は手間を考えると割に合わない。
その為、タイタン鋼を得るには素直に魔物を仕留めた方が合理的のようだ。
次に生息――と言うよりは出現する魔物だが、種類が少ないのである程度の実力を持った者なら仕留める事も容易だし対処法も研究されつくしている。
まず、最も出現するのがネマトーダと呼ばれる魔物で、線虫型――要はワームだな。
目などはなく、魔力を感知するようで捕捉されるとどこまでも追って来るらしい。
外見は個体差はあるが、全長数メートルのミミズで、オラトリアムにもいるデス・ワームに酷似している。
表面はタイタン鋼で覆われており、並の攻撃では通らない頑丈さを誇るが、等間隔で装甲に継ぎ目があるのでそこを狙えば仕留めるのは容易らしい。
血液や消化液で溶かしてくる訳じゃないので、聞く限りデス・ワームよりは脅威度は下と見るべきか?
記憶や知識を見る限りでは重量と頑丈さで押すタイプにも感じるが……。
次いで別のタイプ――ブラトディアと呼ばれているのだが、問題はこいつだ。
出現例こそ少ないが壁にスリット状の切れ込みが入り、そこから大量に這い出して来る。
全長はこちらも個体差があり、小さい物で数十センチ、巨大な物で数メートルと様々だ。 隙間から這い出して来るだけあって形状は平べったく、複数の足で細かく動いてカサカサと凄まじいスピードで肉薄して飛びかかって来るらしい。
当然ながら外皮がタイタン鋼で構成されているので結構な重量を誇り、一度組み付かれたらもう引き剥がせないと見ていい。
ちなみに動きと形状がゴキブリに似ているので、二重の意味で嫌われている。
遭遇すれば退避する事を推奨されており、ダンジョンで死ぬ奴の大半はこいつ等に喰い殺されているようだ。 最後の一種、こいつは詳細不明で人型らしいが遭遇例が極端に少ないので居るらしい事ぐらいしか分からなかった。
「以上、その三種類がダンジョンで湧く魔物だね。 前者のワームは頑丈なだけで脅威度はそこまでじゃないけど、後者のゴキブリは奇襲してくるからその点に注意かな? 最後の人型は調べたけど、あんまり情報が出なかったんだよね?」
最後の質問は俺へ向けてか。
その通りなので頷いておいた。
「後は例のダンジョンの最奥についてなんだけど、前人未到と言えば聞こえはいいけど実際は通り方が分からないっていうのが現状みたいだね」
アスピザルの言う通りだ。
構造上、もっと下があってもいい筈なのに行き止まりばかりで先に進む道が発見されていない。
そうなると考えられるのは――
「降りれる所まで降りて怪しい壁面を力ずくで突破するか、魔物が湧くスリットを抉じ開けて道を探すかになるけど……どっちも難しいんじゃないかな?」
……まぁ、そうなるだろうな。
「……おい、そのタイタン鋼ってのは魔法でぶっ壊せる代物なのか?」
「うーん。 僕にはちょっと分からないな。 ローは分かる?」
二人の視線がこちらに向く。
分からんのも当然だろうな。 タイタン鋼はこの国でしか取れない独自の鉱物だ。
知らんのも無理はない。 魔導外骨格に使用されていたし大雑把な強度は掴んでいる。
「隣のアラブロストルが魔導外骨格の装甲として使うぐらいだ。 魔法物理両面で大抵の攻撃は弾く」
実際、十数センチ程度の厚さで魔剣の第一形態の掘削に数秒耐えたんだ。
数十センチを超えると、魔剣でも難しいだろう。 出来なくはないが時間がかかるのは間違いない。
「その様子だと、難しいけどできなくはないって感じかな?」
俺は答えずに肩を竦める。
それを見てアスピザルは納得したかのように頷く。
「オッケー、良く分かったよ。 つまりは突破は可能って事だね」
「……自信の元はその怪しい剣か」
俺は頷いて魔剣を抜いて見せる。
鞘から抜けてその全容を晒した魔剣は周囲を威嚇するように魔力を垂れ流す。
それを見たアスピザルはやや顔を引き攣らせ、ヴェルテクスは興味深そうに目を細めた。
「うわ、何それ気持ち悪っ。 ただの魔力じゃないよね。 ……これって思念の類かな?」
「怨念の類か。 前に見た呪装がこんな感じだったが、ここまでヤバそうなのは記憶にないな。 お前、こんな物に触ってよくまともで居られるな」
「正直、うるさいからいい加減手放したいんだが体から離せんのでな」
「な、何? 何か聞こえるの?」
「あぁ、殺せ殺せと定期的に喚き散らしてくる」
俺がそう言うとアスピザルは少し引き気味になる。
「えっと? まさかとは思うけど僕達に斬りかかったりしないよね?」
「お前が裏切らん限り無いな」
「はは、なら安心だ」
アスピザルは気を取り直したのか表情を引き締める。
「さて、ちょっと脱線したけど話を戻すよ。 ダンジョンに潜るのはローに僕、ヴェルとトラストさんの四人にサベージは――」
頷いて見せる。
「――連れて行くんだね。 フォーメーションはローを先頭に脇をサベージとトラストさん。 後衛が僕とヴェルでいい感じだね。 正直、この面子なら随分と楽させて貰えそうだ」
俺はちらりと後ろのトラストを一瞥すると無言で首肯。
異論はないようだ。
「後は――戦利品はどうする? 例のタイタン鋼だっけ? 剥ぎ取るの?」
ふむと考える。
正直、俺個人としては要らないが……まぁ、アンドレアに後で人を寄越すように言えば問題ないだろう。
「要らん。 後で適当に人を寄越すように言えば勝手に剥ぎ取るだろう」
「そっか、聞けば結構、重たいみたいだし荷物が増えないのはありがたいよ。 普段の荷物持ちはサベージに任せてもいいのかな?」
「あぁ、余計な荷物はサベージに持たせればいいから俺達は基本手ぶらでいい」
「なるほどなるほど、最後に期間はどれぐらいで見てる?」
「ダンジョンの広さを考えるのなら二週間――十四、五日前後と言った所か」
アスピザルの次々とぶつけて来る質問に答える。
その間、ヴェルテクスとトラストは黙って聞き入っていた。
他にも奴は細かい質問等を行った後、一通りの打ち合わせは終わったが――。
「さて、話す事は終わったしそろそろ、僕の話があるんだけどいいかな?」
アスピザルはややあってそんな事を言い出した。
……何だ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます