第505話 「助人」

 取りあえずファティマが用意した助っ人が来るまで冒険者ギルドでプレートの更新をしたりバンスカーの縄張りにいる他の組織の掃除をしたりして時間を潰していた。

 十数日後、最初に来たのはドゥリスコスの手配した人員だ。 こちらに合流した後、店舗などの商業展開を行い即座にこの街に根を張り出す。


 特に北部はアンドレアが取り仕切っているので色々とやり易かった点も大きい。

 肝心の助っ人はオラトリアムから直接来るらしく、来た連中が転移魔石を用意していた。

 それで来た連中なんだが――


 「や、お久しぶりー」

 「おい、来てやったぞありがたく思え」

 「……」


 全部で三人。 面子を見ると確かに能力的には邪魔にはならんだろう。

 さて、人目に付かないようにアンドレアに用意させた応接室に転移魔石で現れたのは誰かと言うとアスピザルとヴェルテクス、そして最後の一人がトラストだった。

 トラストは俺を見て小さく会釈。


 アスピザルは動き易そうな服装で、ヴェルテクスは黒いロングコートに所々に金の装飾が施されていると言った相変わらずのファッションで、その下は袖なしの所謂ノースリーブの服を着ていた。

 トラストは軽鎧と腰に刀。


 ……おいおい、何なんだこの面子は。


 トラストはともかく、他の二人はどういう事だ?

 明らかに面倒臭そうなんだが――

 

 「あ、梓も来る予定だったけど、新居の整理がまだ終わってないから欠席ね。 ――と言う訳で助っ人は僕とヴェルにトラストさんだよ!」


 そう言ってヴェルテクスの肩に手を置こうとしたが躱される。

 

 「ちょ、ちょっとー」

 「俺は仕事で来ている以上は手は抜かねえ。 先に依頼内容の確認をするぞ」

 

 ヴェルテクスはアスピザルの抗議を無視して近くのソファーに座る。

 俺も無言で向かいのソファーへと腰を下ろすとトラストが無言で俺の背後に着く。 無視されたアスピザルは特に気にした素振も見せずにヴェルテクスの隣に座った。 ヴェルテクスは一瞬、嫌そうな顔をしたが構わずにこちらへ向き直る。


 「とりあえずだ。 俺が言われてんのはお前の護衛、要はダンジョンでくたばらねーようにお守りをしろって事だが、この仕事って俺が必要なのか?」

 「そうだな。 お前の実力を疑っている訳じゃないが、大部分の探索が済んでいるダンジョンでこれだけの面子を集める必要があるとは思えん」

 「いや、ロー? ファティマさんの話、聞いてた? 戦力の問題じゃなくてね。 どちらかと言うと君の協調性が皆無だから今後の戦いに備えて最低限の連携を取る為の訓練でしょ?」


 ……あぁ、そう言えばそうだったな。


 「まぁ、連携を意識させるんだったらもっと実力の劣る面子で固める方がいいかもしれないけど、流石に足を引っ張ってローを不快にさせるのは不味い。 かと言ってオラトリアムの上位陣は皆イエスマンだからあんまり意味がない。 それで僕達に白羽の矢が立ったって事だよ。 トラストさんは保険かな?」

 

 信用されてないねーと付け加えてアスピザルは笑う。

 

 ……なるほど。


 まぁ、ファティマがこの人選にした意図は何となくだが理解した。

 確かにレブナントや改造種は迂闊に連れ歩けないし、人間か見た目がそう見える奴じゃないと不味い。

 加えて、連中は俺の言う事には逆らわないから俺が付いて来るなと言えばそうなるので、今回の目的に合わないと。


 結果、条件に該当して尚且つ、一定以上の戦闘力を誇る面子が目の前の連中か。

 

 「……そういう裏の事情は興味ねぇな。 それで? ダンジョン行って鉄屑集めって事でいいのか?」

 「何だ? ファティマから聞いてないのか?」


 俺がそう聞くとヴェルテクスは小さく肩を竦める。


 「最初はジジイが行くとか言い出しやがってな。 俺はその代理で来たんだ。 そんな訳で細かい話は聞いてない」

 「あ、あれ? じゃあ首途さんが本来のメンバーだったの?」

 「んな訳ねぇだろ、馬鹿かお前は? 他に頼む予定だったんだが、どこから聞きつけたのかジジイの奴が自分が行くとか言って立候補しやがったんだ」

 

 何だ。 首途の奴が来るつもりだったのか?

 とは言っても奴ではこの街に置き辛いので許可は出なかっただろうな。

 正直、ハリシャ辺りが来る物かとも思ったが――あいつは駄目か。 見た目と言う点では問題ないがあの性格が問題だ。


 当初はドゥリスコスの所で用心棒をやっていたのだが、やり方が護衛のそれを大きく逸脱してしまっていたらしい。 例を挙げると以前に他所の商会が嫌がらせを仕掛けて来た事がある。

 何をしたのかと言うと移動中に襲撃だ。 それでどうなったかと言うと、ハリシャは全員を原形を留めなくなるまで切り刻んだらしい。


 しかも足を切り刻んで動けなくした上で時間をかけてゆっくりと。

 周囲には襲撃して来た連中の悲鳴が延々と木霊したらしい。

 とにかくあの女は生き物を斬りたがるらしく、本来なら行動不能にして外交カードに使うつもりだったのにバラ肉にされてしまい使い物にならないとドゥリスコスは少し不満を漏らしていた。


 変異による全能感に酔っているので、しばらくすれば落ち着くかとも思ったが、どうやらあれが本性だったようだ。

 護衛としては優秀だったが、流石に扱いきれなくなったのかオラトリアムに送ったらしい。

 その後、トラスト達にチャクラの扱いを教える教官をやっているそうだが、今の所は問題を起こしたとは聞いていないが――大丈夫そうだし俺には関係ないな。


 ……ただ、こっちに送り込むには無理があると判断されたようだな。


 というか俺がこの面子を仕切る必要があるのか。

 考えるだけで死ぬほど面倒だが、これも訓練と割り切ろう。

 

 「取りあえずの目標はダンジョンの最奥。 現在、未踏とされている場所だ」

 

 俺がそう言うとヴェルテクスは口を閉じて素直に静かになり、アスピザルは意外そうに目を丸くする。

 何だその反応は。 俺の視線で気づいたのかアスピザルは苦笑。


 「いや、ローがそうやって仕切るの初めて見たからさ。 何だか新鮮で、成長したんだねー。 僕はなんだか嬉しいよ」

 

 俺はアスピザルを無視して話を続ける。


 「続けるぞ。 まずはダンジョンについてだが、どの程度把握している?」

 「急だったからな。 確か珍しい鉄屑が採れる魔物の生息地ってぐらいか」

 「はいはい! 僕、資料貰ってるから説明やるよ!」


 アスピザルが元気よく手を上げてアピール。

 それを見て隣のヴェルテクスがウザそうにしていたが、奴は全く気にしない。

 俺は無言で頷いて促す。 俺は吸い出した知識で把握しているので問題ないが、トラストとヴェルテクスは知識が足りてないようだし、説明できるのなら任せてしまってもいいだろう。

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