第458話 「本堂」
野太刀使いを筆頭に小太刀の二刀使い、剣に等間隔に亀裂のような線が入っている武器を持った者、槍使い、鉤爪を装備した者と中々バラエティに富んだ面子だった。
線が入っている剣は鞭と足したような構造の蛇腹剣だろう。
槍使いと鉤爪持ちは背中から悪魔の羽らしきものが生えており、それを羽ばたかせて空を飛んでいた。
全部で五人。 刀装備じゃない時点でここではかなり強い部類に入る連中だな。
ハリシャの記憶ではこの手の連中はまだ居たはずだが、出てこない所を見ると本堂に詰めているか反対側の南塔側を守っているかのどちらかか。
まぁ、少ない分には各個撃破が楽だし、寧ろ大歓迎だ。
さて、さっさと片づけて早い所、本堂へと行くとしよう。
どれから仕留めた物かと考えていると最初に斬り込んで来たのは小太刀使いだ。
一呼吸で左右から首を刈り取るべく両の剣を振るう。
下がって躱すがそいつの脇から槍使いが連続で突きを繰り出す。
最初の奴は囮か。 躱しきれなくなったので魔剣で弾――
――咄嗟に身をかがめる。
頭のあった場所を何かが薙ぐ。
蛇腹剣か。 回避行動を取った事で体勢が崩れ、ここぞとばかりに鉤爪と野太刀が追撃。
躱しきれないので
一応、見えないように迷彩をかけているが、野太刀は見えているかのように一閃。
百足の群れを一気に斬り飛ばす。
俺も馬鹿じゃない。 いい加減に似たような対処のされ方をすれば学習の一つもする。
切断された百足の断面から血の代わりに毒液が噴出。
鉤爪は咄嗟にサイドステップで躱したが野太刀は振り切った後なので無理だった。
頭から毒液を被ってドロドロと溶けて行く。
一人。
鉤爪が間合いに踏み込んできて仕掛けて来る。
俺の顔を薙ぐように振るっている所を見ると目を潰す気のようだ。
下手に即死を狙わない所は中々堅実だな。
「――!?」
顔面を思いっきり引っ掻くつもりだったのに刺さったら動かなくなったことが驚きか?
一瞬ではあるが隙が出来たので俺は鉤爪の頭を掴んで一回転させる。
ボキリと小気味よい音がして頸椎が砕けた。
二人。 はい次。
今度は槍使いが空から襲って来るが今始末した鉤爪の死体を投げつけて楯にする。
流石に飛行しているだけあって飛んで行った死体はあっさり躱されるが問題ない。 投げると同時に死体の背に向けて撃ち込んだ<榴弾>が空中で破裂して破壊をまき散らす。
羽を焼かれて槍使いが落ちようとしていた。 着地点を狙おうとしたがさせないとばかりに蛇腹剣と小太刀が仕掛けて来る。
小太刀はリーチが短いのでやたらと懐に入りたがるが、はっきり言ってクリステラの下位互換だ。
あの女は緩急をつけて微妙にタイミングをずらしてくるが、こちらは身体強化に物を言わせての踏み込み。 並の相手であれば気が付けば首を刈り取られているぐらいのスピードだったが、動きを認識できる相手にはあまりいい手じゃない。
しかも狙いはまた首。 一つ覚えにも程があるな。
左右で小太刀を交差させて鋏の様に落とす動きだが片方を噛み付いて捕まえて残りが首にかかる前に前蹴りを叩き込む。 ボキボキと骨が砕けて臓器が破裂した手応えが伝わる。
小太刀は派手に血を吐いて崩れ落ちた。 それを確認する前に大げさに頭部をガード。
狙いを誘導する。 同時に左胸に蛇腹剣が突き刺さった。
……やはり来たか。
こいつ等はやたらと急所を狙う傾向にあるな。
剣士じゃなくて暗殺者か何かじゃないのか?
そんな事を考えながら胸に刺さった蛇腹剣を掴んで思いっきり引く。
持ち主は踏ん張ろうとしたが、膂力で俺に敵わずあっさりと引き寄せられる。
途中で武器を手放せば助かったが、染み付いた本能か矜持かはしらんが結局、そのまま俺の間合いに入ったので顔面に魔剣の第一形態を叩き込んで血煙に変えてやった。
四人。 後は槍使いか。
立て直した槍使いは構えるが、一対一なので対処は容易だ。
さっきの鉤爪もだが、せっかく悪魔との融合に成功しているのに全く活かせていない。
空中戦の経験が皆無なので今までの引き出ししか使えない連中に新しい力を与えた所で使いこなせるわけがないだろうに。
明らかに移動にしか羽を使っていなかった。
空中で技を繰り出す応用力がないからだろうが、いくら何でもお粗末すぎる。
こいつら本来はもっと強かったはずなのに勿体ない。 リサイクルできないのが少し惜しいな。
ガワだけならどうとでもなるが中身が再現できない以上、意味がない。
俺は突きこんで来た槍使いを魔剣の第一形態で挽き肉に変換しながら、ぼんやりとそう考えた。
さて、精鋭らしき連中を仕留めたのでやや早足に本堂へと向かう。
石段を上り、一際でかい山門を抜けて本堂内へと足を踏み入れた。
本堂は四方顔の本拠にして聖域だ。 冠婚葬祭の行事は大抵ここで行い、ある程度の技を修めた連中には専用の修行場まである。
ここに入り浸れるのは選ばれた者のみに許された事で、ここの連中からしたら一種のステータスだ。
流石に重要施設などが密集した場所だけあって建物の一つ一つがでかいし、装飾にも力を入れているのが分かる。
妨害や敵の気配は――ないな。 少なくとも俺の知覚範囲内にはいない。
隠れているのか本当に居ないのかは知らんがやる事は変わらん。
真っ直ぐに一番でかい建物へと足を進める。
ここだと確信が持てる。 理由は単純明快であそこが
中に入る。 一応、玄関らしきものと靴を置くスペース等がある事から土足厳禁のようだが無視。
無言で廊下を歩く。 建物内は静かで、歩く事により木製の床が軋む音だけが響いている。
余りの臭さに鼻が効かんが、ある程度近づけば別の臭いを嗅ぎ分ける事は可能だ。
何があるかは何となく予想できるが、一応と近くの襖に似た横開きの戸を開ける。
「……まぁ、そんな所だろうな」
中は死体の山だ。
大半が女だが、男も混じっている。 身なりがいい所から恐らく抵抗したのだろう。
女の方は服装から戦闘員、非戦闘員と手当たり次第か。
戦闘員らしき女は死ぬ前に剥かれたようで、服がない。
あのカンチャーナとか言う女がされていた事を考えると、ここの女連中が何をされたか推して知るべしか。 腐敗が始まっているので控えめに言っても酷い有様だった。
廊下に戻る。 部屋は汚かったが廊下は清掃が行き届いているのか綺麗な物だった。
要は部屋はゴミ捨て場と言った所か?
念の為に他の部屋も覗いてみたが、どこも死体だらけだ。
階段を上り上階へ。
その間も特に襲撃や妨害はなかった。
侵入者の存在には気づいているはずだったが、嗾けてこないのは妙だな。
内心で首を傾げつつやや長めの階段を上り最上階へ。
そこは本来、行事や宴会を行う大広間でワンフロアの大半をぶち抜きで使用しているのでかなり広い。
階段を上り切り、両開きの襖を開けて中へ踏み込む。
――そこには――
女が居た。
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