第457話 「北塔」

 左腕ヒューマン・センチピードで男の腹を突き破って仕留める。

 そろそろ動きに目が慣れて来たな。

 何となくだがこいつ等の行動パターンが読めて来た。


 確かに勘もいいし動きもいい。 

 だが、躱し方にバリエーションが少ないな。

 基本的に連中は剣技を阻害される事を嫌がる。 その為、躱す際にも即座に攻撃行動に移れるように体勢を崩さずに最小の動きで回避して反撃に転じようとしてくるので、その点を踏まえれば割と当てるのは難しくない。


 <榴弾>を放つ。

 当然のように躱されるが、回避行動を取ると同時に破裂させる。

 こちらは躱しきれずに火達磨になった。


 こいつ等は奇襲や意表を突かれると酷く脆い。

 戦闘経験自体は豊富なんだろうが、経験の幅が狭い所為で想定が甘すぎる。


 それに――


 焼けた死体を一瞥。 こいつ等は時間が止まっている。

 魂を抜かれた弊害かは知らんが、どうも戦闘などに対する反応がおかしい。

 上手く言えんが応用力がないと言うか、記憶にある技術や動きをそのままなぞっているかのような印象を受ける。

 

 だから回避もパターン化しており、意表を突かれるとあっさりと喰らう。

 その一点に気付けば攻略はそう難しくない。

 取りあえず皆殺しにした連中の死体を無視して道を歩く。


 少し進むと長い石段が見えてきたので、そのまま進む。

 周囲は木々が立ち並び、濃い緑の気配がする。 何もなければそれなりに楽しい森林浴となったのだろうがカンチャーナが垂れ流す権能の所為で不快感しか感じないな。


 黙々と石段を上る。 

 その間に襲撃はなかったので、品切れかなとも考えたが先に見えて来た大きな木製の門――山門でいいのか?――があった。


 閉まっては居なかったので壊して進む手間が省けたなとどうでもいい事を考えながら山門をくぐる。

 相変わらず霧で視界が悪いが、山門の先は広々とした空間で大きく間隔を空けて木造の建物が散見された。

 

 ハリシャの記憶で見たので知ってはいたが何だか寺みたいな感じだな。

 確かここは北側の監視塔――北塔といったか。

 周囲の建物も中々特徴的だが、一番目立つのはやはり監視塔だろう。


 見た目は灯台に近く、木造だが中の階段から頂上に直通らしい。

 そこで山門やその周囲を見張るらしい。

 この濃い霧の中どうやって接近する存在を見つけるのかは大いに疑問だが、恐らく魔法道具か何かだろうなと勝手に想像して先を歩く。


 少し歩くと複数の気配が近づいて来た。

 探知系の魔法は阻害されているが、流石にある程度近づかれれば魔法なしでも分かる。

 やっと追加が来たかとも思ったが――


 少し気配の質が違うようだ。

 明らかにここに来るまでに始末した剣士連中とは雰囲気が違う。

 何だと視線を向けると霧の奥と空から何かが現れた。


 出て来た連中は――おや?

 恐らく攫われたアラブロストルの国民連中だろうが、随分な事になっていた。

 羽が生えたりしているのは序の口で、体のあちこちが鱗になっていたりドス黒い甲殻のような物に覆われていたりと個体差が激しいが気配に覚えがある。


 ……というよりはどう見ても悪魔だな。


 どう言う経緯で入手したかは知らんが召喚のノウハウがあるのならこれぐらいの芸当は可能だろう。

 ついでに権能で支配下に置いているようだし即席の戦力としては上々だろう。

 随分と熱心に攫っていると思っていたが、利用法に当てがあった訳だ。


 悪魔共は獲物である俺を見て小さく唸りながら狙いを定める。

 俺はそれをみて感じたのはちょっとした安心感だった。

 あぁ、こいつ等なら鬱陶しくひらひら躱したりしないから処理が楽だと。


 魔剣を抜きはなち第一形態に変形。

 先走って突っ込んで来た奴を挽き肉に変えながら次の獲物へと狙いを定める。

 




 

 「さて、これで全部か」


 百ぐらい居たが碌に躱さないのではっきり言って的と変わらなかった。

 本来なら喰って回復を図りたい所だが、こいつ等も山のあちこちでくたばっている連中同様、臭くて食えたものじゃない。 まだ余裕はあるので問題はないな。


 ただ、この件が片付いたら思いっきり食う必要があるか。

 そんな事を考えながら北塔エリアを抜けようと進む。

 周囲に視線を巡らせると、あちこちにある建物が壊れているのが見られた。


 俺がやった物じゃないな。

 恐らく騒動の初期に起こった戦闘によるものだろう。

 その証拠にかなりの時間が経過したと思われる死体がかなりの数転がっていた。


 手近の死体を蹴り転がして確認すると殆ど女だな。

 男もいるが原型を留めていない程に切り刻まれている者が殆どだ。

 こちらは最後まで抵抗した結果か? 女の方は背中からばっさりやられているのが大半だった。


 一応、逃がそうとした感じなのか?

 そんな事を考えはしたが特に興味もなかったので先へ進む。

 奥へ進むと再び山門があり、それを抜けてさらに上へ。


 ハリシャの記憶によればこの先が本堂となるはずだが……。

 正面から飛んで来た斬撃――ぜつ……じゃないな。 風を纏っていて段違いに速い。

 確か第四との併用で放つ<風天ふうてん>だったか?


 俺は飛んで来たそれを魔剣で切り払う。

 

 ……まぁ、簡単に通してくれる訳ないか。


 どうやら今のは挨拶代わりだったようだ。

 足音が響いて攻撃して来た奴が下りて来た。 歳は四十半ばと言った所か。

 細身ではあるがしっかりと鍛えられた体躯に特徴的なのは長い刀身の刀――野太刀を肩に担いでいる。


 ここの連中は基本的に同一規格の刀を使用してはいるが、一定以上の技量まで到達した奴は更なる研鑽を求めて異なる武器を使用して強さの模索を行う者が居るようだ。

 目の前の男もその一人でアサーヴというらしい。


 他にも何人かそう言う奴がいるらしく、ハリシャの記憶だと全員が例外なく強いらしいが……。

 実際、手合わせをした事はないし接点も少なかったので、バトルスタイルも概要程度の知識しかなかったがまぁ、前知識はないよりはあった方がいい。


 アサーヴは無言で石段を下りる。

 十数歩の所で足を止め――その姿が霞んだ。

 俺は魔剣を立てて受ける体勢を取る。 その際に小さく跳んでインパクトの瞬間に空中に身を置く。


 重たい金属音と同時に吹き飛ばされるが、空中で体勢を立て直して石段を下り切って北塔へ戻る。

 当然ながら追って来るが速いな。

 どうも風系統の魔法――チャクラか――を使用して速度にブーストをかけているようだ。


 瞬間的な速度なら相当な物だが、アクションを行うと同時に加速しているので攻撃の「出」自体は見える。

 その為、防ぐのはそこまで難しくはないな。

 こいつの持ち味は「来るのが分かっているのに防げないほど速くて重い一撃」だ。

 

 ……まぁ、大した速さではあったが、お前より速い奴は何人か見た。


 視界に入れることすら難しいクリステラ。

 気が付いたら攻撃を喰らっていた飛蝗。

 こいつ等に比べれば遅すぎると言って良いレベルだ。


 遠距離攻撃が効果が薄いと踏んで接近戦にシフトしたのはいいが、来るのが分かってさえいればどうとでもなる。

 斬撃に合わせて魔剣を振るう。 再度、重たい金属音が響き、残響が尾を引く。

 

 吹き飛ばされそうになったが、足で地面を擦って勢いを殺す。

 

 ……おや?


 手応えからして相手の刀も無事か。 圧し折れるような受け方をしたのだが、頑丈な刀だ。

 折れないなら折れないで問題はない。 さっさと仕留めて――

 

 「……そう簡単にはいかんか」

 

 山門の向こうから複数の気配が迫って来ていた。

 どうやら増援のようだ。

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