第444話 「更地」
取りあえず連中の進路上にある街と村を跡形もなく消してやった。
まぁ、復興に時間はかかるだろうが人的被害はほぼゼロだ。
見つかる訳にはいかないので消し飛ばした後、その場を離れた。
後は他に任せておけばいい。
この先でグノーシスと合流予定らしいからこれ以上街を吹っ飛ばす必要もないか。
ここまで押し返されればチャリオルトも戦力を出してくるだろう。
そのタイミングでチャリオルトに入るとしよう。
後は何とか事情を知ってそうな奴から記憶を引き抜いておきたいが……。
……状況次第か。
奪還部隊は完全に更地になった村や街に戸惑っていたが、ディビルが新兵器がどうのとか適当言って押し通していた。
こういう時にはあの強気な姿勢は便利だな。 洗脳しておいて本当に良かった。
その後、首尾よくグノーシスと合流し、態勢を整え国境まで取り戻すつもりらしい。
後はチャリオルト側の動きを見て踏み込めばいいな。
俺は休息の為、野営の準備に取り掛かったアラブロストルの連中を尻目に国境へ向かうようサベージに指示を出した。
既に外縁の二十区に居たのでサベージの足だとそう時間はかからなかった。
少し小高い丘に上がると国境越しにチャリオルトの風景が見えて来る。
チャリオルト。
正式に国家を名乗っている訳でもないので厳密には国ではなく、自治区という扱いらしい。
彼等はあの地に昔から住んでおり、他の干渉を拒み続けた結果、現状に落ち着いたという歴史がある。
当然ながら今までに力尽くであの地を奪おうと言った輩は多かったようだが、天然の要塞とも言える険しい山々に精強な兵たちによる守りで外敵の悉くを打ち払ってきたようだ。
反面、外には興味がないのか積極的に攻めてくるような事は今まではなかったらしい。
この辺がアラブロストル側が増長した理由だな。
連中の戦闘能力に関しても噂の域を出ないレベルでしか出回ってなかったのも大きな要因か。
実際、分かっているのは魔法に似た現象をほぼ溜め無しのほぼノータイムで行使できるという事ぐらいだ。 この程度の情報で何を予想しろと言うのか。
……話を戻そう。
地形に関してだが大小十数の山々からなる険しい山岳地帯で深い緑に覆われており、遠目からでは木々ぐらいしか見えず、加えて頂上からは濃い霧が流れて来るので中腹から上はそもそも目視できない。
ただ、国境付近にある山々の麓には小規模ではあるが村や街があり、冒険者ギルドも数は少ないが存在する。 他所と交流を持っていたり、情報のやり取りをするのは大抵この辺りだ。
麓にいる連中はあの怪しい技を使えないので、攻めてきているのは山に引き籠っている連中とみて間違いないだろう。
次にその連中についてだ。
――
由来などは不明だがそう呼ばれているらしい。
この辺はトラストの記憶なので少々情報が古く、確度という点では微妙だな。
基本的に一部の例外を除いてほぼ全員が生まれてからずっと山から下りずに自己の研鑽のみを行い、そこで一生を終える。
……と言うのが基本方針らしいが……。
まぁ、一生外に出るなと言われて我慢できる奴はそういない。
数は多くない上に失敗したら処分されるので、首尾よく抜けられる奴は驚く程少ないようだ。
トラストは何とか運良く逃げられた口だったようだがな。
実際、当時十代の奴はチャリオルトの水準で言うのなら下の中程度だったと認識していたようだ。
その後、独力で研鑽を積んで技を練り上げ、アープアーバンを抜けてウルスラグナまで辿り着いた事を考えると才能という点では大した物だったのだろう。
さて、奴の知識が正しければ四方顔は排他的な場所の筈だ。
外から必要以上に物や知識を入れず、同様に自らの知識を外に出さない。
余計な物や異物は排除する。 興味本位で山に忍び込んだ連中は残らず処分され、何をやっているかの情報を外に漏らさない。
その認識の正しさは今までの歴史と周辺国の反応が示している。
確かに妙な話ではある。 兆候は見られたがここまで派手にやるとは誰も思わなかったようだ。
血迷って暴走したのか最近、方針を変えたのかは知らんが、それがチャリオルトの総意と言う事はあり得ない。
そうでもなければ連中が洗脳紛いの何かを施されている理由がないからだ。
今の所、正気の奴を見ていないので何とも言えんが、これは方針の切り替えに賛同しなかった奴を操って使い捨てていると言う事なのか?
……まだ情報が足りんな。
分からん事はまだまだ多いが、連中の動きを見る限り目的は制圧というよりは拉致誘拐だな。
その証拠に街を制圧してはいたが、拠点として使うというよりは物資や人を運び出す事に集中している印象を受けた。
中でも人間を連れ去る事に一番力を入れている。
恐らくは洗脳を施すつもりなのだろうが、今一つよくわからんな。
あの謎の洗脳能力の詳細が不明である以上、何とも言えんが明らかに思考などにかなり大きな悪影響を与えていた。 あんな調子で使っていたら体の方が保たんだろう。
疲労やダメージを無視して動いているので実力以上の能力を発揮してはいるが、肉体の寿命を大きく削っている。
つまるところ攻め手の連中は使い捨てる事を前提に送り込まれていると見ていい。
四方顔の連中はそこそこ居るだろうが簡単に使い捨てられる程、数が居るとはとてもじゃないが思えないのだが……。 今一つ連中の目的が見えてこない。
……これ以上は現地で調べんと無理か。
なら後はタイミングを見計らって国境を越えるとしよう。
取りあえず――
「飯にするか」
そう言うと後ろで雑草を食んでいたサベージが嬉しそうに頷いた。
一応という但し書きはつくが二十区の奪還が完了し、国境付近に急ごしらえの砦を築き、現在は補充の人員が来るのを待っているようだ。
聞けば街では大快進撃とか吹きまくって、冒険者連中を怪しい勝ち馬に乗せようとしているらしい。
十三区の奪還が完了次第、国境を越えて攻めに行く事になるらしいが……。
そっちは随分と苦戦しているようだ。
案の定、二十区と同様に魔導外骨格部隊は全滅。
銃杖部隊と冒険者部隊が奮戦して何とか勝てているようだ。
そして同時に攻めているグノーシスは大した損耗無しで勝てているのも同じだった。
相性もあるが何とも情けない話だ。
街には怒涛の快進撃と伝えているので、苦戦していることを悟らせないように追加の冒険者を騙して前線に送り込む準備等も並行して行っている。 聞けば乗せられてほいほい馬鹿が集まっているらしい。
よくもまぁ他所の戦力に頼り切った勝利をここまで誇張できた物だな。
あの様子なら状況が動くのは少し先になりそうなのでしばらくはこの辺りで足止めとなる。
時間もあるし、一度戻って食料などの補充でもやっておくか。
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