第443話 「名案」

 荷物を纏めてサベージに積み込み、準備ができた所で跨る。


 「ロー!」


 さぁ出発と言った所で声をかけられた。

 何だと振り返るとアカラシュだ。 何故こいつは俺の行く先々に現れるんだ?

 

 「どうかしたのか?」

 「おいおい、どうかしたのかじゃなくてだな……いや、それはいい。 その様子だと行くのか?」

 「あぁ、何とか取り下げの申請が通ったのでな」

 「……そうだったのか。 急に姿が見えなくなったから何かあったのかと思ったぞ」


 正直、何かあると面倒なのでさっさと行きたいんだがな。


 「それで? 何か用事か? 別れの挨拶をしに来たわけじゃないんだろう?」

 「あぁ、実は俺も申請は通ったんだ。 だけど仲間の申請が通らなかった」


 ……だろうな。


 知ってはいたが俺は知らん顔してそれでと続きを促す。

 

 「仲間たちは俺だけでも先に離れろと言ってくれたが、流石に置いてはいけない」

 「なるほど、要は残ると言う事か」

 

 俺がそういうとアカラシュは小さく頷く。


 「あぁ、それでだな。 無茶な頼みは十分承知してい――」

 「そうか。 死なない程度に頑張るといい」


 内容に予想は付いていたのでアカラシュの言葉を両断する。

 悪いが借りは返した。 これ以上、付き合う義理はないな。

 それにチャンスはくれてやった。 その上で残るのはお前自身が選択した事だ。


 その結果、お前が死のうが生きようが知った事ではないな。

 俺を巻き込もうとするんじゃない。


 「そ、そう……か、そうだな。 済まない。 お前の言う通りだ」

 「用が済んだのなら俺は行くが?」

 

 正直、何か難癖付けられて残らされるかもと考えると早い所この場から離れておきたい。

  

 「あぁ、引き留めて悪かった。 生きていたらまた会おう」


 そう言ってアカラシュは踵を返して元来た道を戻って行ったが、何故か不意に立ち止まってちらりとこちらを振り返ったが無視した。

 俺もサベージにさっさと行けと命じてその場を離脱。 これで一安心だな。


 後は適当に離れた所で連中の様子と戦況の確認をしながらチャリオルトへ向かうとしよう。

 幸いにもディビルを洗脳できたので情報は勝手に入って来る。

 しばらくは高みの見物と行こうか。




 

 ――と、思ったのだが……。


 如何せんアラブロストル側が弱すぎるのだ。

 主戦力をご自慢の魔導外骨格から冒険者にシフトさせている時点でかなり不味い事になっている。

 正直な話、魔導外骨格は優秀な兵器ではあると思う。


 重装甲に大火力。

 壁にもなるし大抵の相手ならその頑強さで戦線を押し上げて敵を蹂躙する事も可能だろう。

 だが、チャリオルトの兵隊とは致命的に相性が悪かった。


 以前にも触れたが魔導外骨格の最大の目玉はその重装甲だ。

 戦い方もそれが突破されない、またはある程度の継戦能力を見越しての物である。

 だが、チャリオルト側の技はそれを容易く突破するので、想定された運用ができていない。


 しかもご自慢の重装甲が災いして動きが鈍重。

 その為、完全にトロ臭いだけの的と化している。

 結果、冒険者の多様性のある戦い方の方が有効といった間の抜けた事になっているのだ。


 ……もうこの時点で面子が丸つぶれだな。


 裏を返せばそれだけチャリオルトの連中の戦闘能力が異常とも言える。

 さて、二十区の奪還作戦だが、基本的には近場から国の部隊とグノーシス教団の聖騎士で構成された二つの部隊が近くの街や村を片端から奪還していくと言ったシンプルな物だ。


 それなりの物量を用意しているし、チャリオルト側も制圧した場所に人手を割いているはずなので奪い返すだけなら余裕と高を括っていたようだが……。

 街一つ取り返すだけで魔導外骨格は全滅、冒険者も損耗率三割と乾いた笑いしか出ない結果となった。


 はっきり言って真っ当な神経の持ち主なら上に掛け合って策を練り直そうと考えるが、大国アラブロストルが散々侮っていた小国チャリオルトにここまで派手に負けるなんてあってはならないと考えているようだ。


 まぁ、国力が三倍以上あるし負ける事はないとか、返り討ちにするからさっさと攻めてこいとか、散々吹いておいてこのザマだからな。

 意地と面子にかけてチャリオルトを独力で滅ぼしたいのだろう。


 ……滅ぼすどころか取られた区画すら満足に取り返せていないが。


 しかも並行して別の場所を攻めていたグノーシスは損耗率一割以下で取り返しているからもう何も言えない有様だ。

 この結果はある意味順当とも言える。

 聖騎士は集団での戦いに慣れている者も多いし、魔物、人間両方との戦闘経験も豊富だ。


 連携も相応に取れるだろうし、何より戦い方に幅がある。

 後は物量に物を言わせて損耗を避けつつ削ると言った堅実な攻めで連中を仕留めたらしい。

 順当な結果ではあったな。


 この辺りは兵器頼りのアラブロストルとの差か。

 俺に言わせれば単に相性が良かったとも言えるがな。

 もし、アラブロストルの相手がグノーシスであったのなら恐らくこうはならなかったと思う。

 

 チャリオルトの連中は高機動、高火力を地で行っているので鈍重な魔導外骨格では追いつけず一方的に敗北したが、完全装備の聖騎士にはあそこまで軽快に攻撃を躱す手段がない。

 聖騎士は物量と連携でチャリオルトの速度を封殺して各個撃破という手段が取れた。


 ……結局、何が言いたいのかと言うと、相性が悪かったと言う事だ。


 悲しいかな。 その事実を認識したとしても次の街なり村なりを取り返す為に動かなければならない。

 そしてアラブロストルに負けられるのは少し困る。

 つまりは少しテコ入れを行わなければならないと言う訳だ。


 何と言うかここ最近、俺はこそこそと何をやっているんだろうなという気持ちにはなるが……。

 まぁ、これも必要な事だと割り切ろう。

 幸いにも指揮官であるディビルを押さえているので連中の動きはある程度コントロールできる。


 帳尻を合わせるように指示しておけばいい。

 サベージに指示を出して移動。

 行先は次に奪い返す予定の村だ。 遠目で見ても村人はいない。


 結構な数の死体が転がってはいるが住民にカウントする必要はないな。

 さっきの街もそうだったが、どうも捕虜は移送済みで最低限の戦力を残しているといった感じだった。

 

 ……なら遠慮はいらんか。


 もっとも、居ても居なくてもやる事は変わらんが。

 魔剣を第二形態に変形させて真っ直ぐに突き出す。

 刃が縦に割れ、魔力を喰らって黒い光を放つ。


 要は奪われた物を取り返そうなんて面倒な真似をするから犠牲が出るんだ。

 問題の元を消去すれば何の問題もないな。

 我ながら名案だ。

 

 「消えろ」


 発射。 漆黒の光条が真っ直ぐに村へと飛んで行った。

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