第440話 「考埋」

 流石に詳細までは分からんが、権能かそれに類する能力である事は間違いない。

 根拠としてはあの悪臭。 恐らくあれは権能の影響を受けた魔力の類だろう。

 毛色こそ違うが、雰囲気が俺も使っている嫉妬の権能に似ている。

 

 加えて死亡して魔力が体から抜けると臭いは消えた事もその説を後押ししており、そしてもう一つの根拠――こちらが最も大きいのだが、魂がなかった事。

 何らかの方法で抜かれたのか影響下に入った事により消化されたのかは不明だが、魂と密接に関係している物で俺の知る限り怪しいのは権能だ。


 あれは必ず何らかの形で魂に負担を強いる。

 そもそも俺の知る限り、魂に直接干渉する能力は狩人の連中が使った入れ替わりを除けば権能しか存在しない。


 結論として消去法で権能だろうと考えた訳だ。

 あの様子だと当たっているかは何とも言えんが大きく外しているとは思えんな。

 意識を戦場に戻すと初撃を凌いだ冒険者連中が反撃に転じるところだった。


 流石に黙ってみているのも不味いので俺も行くとしよう。

 サベージにその辺の奴を適当に仕留めろと言って降りる。

 魔剣を抜いて手近な敵に斬りかかった。


 そいつはスウェーバックで俺の斬撃を躱し、回避行動をとりながら斬撃一閃。

 腕で受ける。 当然のように刃は俺の腕に食い込むが半ばまで来た所で再生させて絡め取る。

 こういうちょろちょろと躱す奴は捕まえるに限るな。


 「――!?」


 相手が小さく目を見開く。 何だ、そう言うリアクションは取れるのか。

 まぁどうでもいいが。 首を掴んで握り潰す。

 骨を砕いた感触が手に伝わり、力が抜ける。 くたばった事を確認し、死体を投げ捨てて次へ。

 

 腕に食い込んだままの刀を引き抜いて投げ捨てながらちょうど冒険者を切り刻んでいた奴に後ろから斬りかかる。

 躱そうとしたので即座に第一形態に切り替えて攻撃範囲を広げる。

 紙一重で躱してカウンターを狙おうとしていたようだが、急な魔剣の変形に対応できず旋回する刃が掠って顔面がなくなった。 確認するまでもなく即死だな。

 

 それでも反応できているのは大した物だ。

 雑魚でも動きの良さは聖殿騎士よりは上か。 聖堂騎士に比べるとやや劣ると言った所だな。

 恐らく装備――というよりは連中の戦い方が対人に特化しているからだろう。


 経験上、魔物相手にカウンターはあまり賢いとは言えない。

 連中は人とは構造が違うし、稀に想定外の動きを取るからだ。

 上手く行けばそれでいいが、明らかに紙一重で躱して仕留めに行く戦い方である以上、失敗は死に直結する。


 ちらりと他へと視線を向けると離れた場所でアカラシュが大剣で敵を両断し、スワープは籠手と刃が一体になった武器――カタールで器用に戦っており、ジーニーは短弓で的確に支援を行っていた。

 流石は赤の冒険者と言った所か。 戦い方が巧みだ。

 

 お互いの足を引っ張らない事を意識しているのが良く分かる。

 あの様子なら生き残るだろう。

 

 「<一舌いちぜつ>」


 斬撃が飛んでくる。 いいタイミングだな。

 俺は魔剣で受けつつ吹っ飛ばされた振りをして距離を取る。

 これで連中から距離を取れるな。


 適当に離れて戦闘の気配が遠ざかった所で手近な建物へ飛び込む。

 飛び込んだ理由は追ってきている奴がいるからだ。

 数は――二人か。


 入って来たと同時に左腕ヒューマン・センチピードを嗾ける。

 不可視の百足達が獲物に喰らいつかんと襲いかかる。

 流石に反応が良く、一匹目は刀で切り落とされたが続く二匹目三匹目に喰らいつかれて体のあちこちを噛み砕かれて死亡。 二人目は百足に喰い殺された一人目には目もくれずに脇をすり抜けて踏み込んで来る。 間合いに入る一歩手前で抜刀。

 

 「<拝火はいか>」


 刀が鮮やかな色に赤熱。 刀身に炎を纏わせているようだ。

 所謂、エンチャントって奴か。 面白い技を使うな。

 斬撃に合わせて魔剣を振るう。

  

 相手の剣ごと腕を切断。

 振り抜いた状態で腕を失ったので相手は大きく体勢を崩す。

 後は楽勝だ。 左腕ヒューマン・センチピードで残りの四肢を喰いちぎる。


 四肢を失って床に転がった所で頭を掴んで残った胴体を拾い上げるが――やはり臭いな。

 覚悟はしていたが酷い臭いだ。 正直、接触するのを躊躇うレベルだが我慢しよう。

 どれ、生きている以上、記憶に障害があろうと思考はしているはずだ。


 その辺を読み取らせて貰うとしよう。

 耳から指を突っ込んで根を――


 「――う」


 思わず顔をしかめる。

 信じられん何て臭さだ。 気分が悪くなってきたぞ。

 我慢して脳に接触、魂があれば手っ取り早いのだが――


 ないな。 俺の根のように代替品すらない。

 どうなっているんだこいつ等は。

 まぁいい。 問題の思考を――


 カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様カンチャーナ様。


 愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています愛しています。

 

 全てを捧げます貴女の為に尽くしますだからどうか愛してくださいその寵愛を――


 「――っ!」


 思わず指を強引に引っこ抜いてしまった。

 

 「……ふぅ」


 少し気分が悪くなったので近くに座って気持ちを落ち着ける。 

 これは酷い。 思考を読み取ったがこいつ等はカンチャーナとか言う奴に愛されたい一心で動いているつもりのようだが……まぁ、しっかりと洗脳されてるな。


 しかもご丁寧に記憶が思考に塗り潰されているのかそれしか分からなかった。

 あの鬱陶しい思考だけならまだ我慢できたが、あの悪臭の所為で我慢が出来ず思わず接続を解いてしまった。

 思考に情欲の類も混ざっていた所を見ると女か。


 取りあえず今回の一件はその女が原因と見ていいだろう。

 攫われた連中がチャリオルトへ連れて行かれている所を見ると居場所はそこだろうな。

 

 ……これはどうした物か……。


 正直、知らん顔して逃げたくなってきたな。

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