第439話 「突撃」

 翌日。

 俺はサベージを連れて事前にギルドから教えられた集合場所に向かうと既に結構な数が集まっていた。

 軽く見回すと、アカラシュ達がお仲間と固まっているのが見える。

 

 声かけられるのも嫌だし知らん顔し――あ、見つかったか。

 手招きされたので内心で小さく嘆息してそちらに近づく。

 

 「よぉ、よく眠れたか?」

 「よく来たな。 俺達は前に出る事になる。 あんたの腕を見せて貰う」

 「足引っ張んないでよ」


 アカラシュ達の挨拶をあぁと適当に流す。

 その後は雑談していると時間になり、行動開始となった。

 さて、今回俺達に振られた依頼は二十区の奪還。


 作戦は至ってシンプルだ。

 まずは足に自信のある者が街へ突入。

 主戦場となりそうな場所――要は敵の目の前で持たされた転移魔石を起動。


 街の外で待っている魔導外骨格と場所を入れ替えて奇襲をかける。

 それと同時に後続の銃杖装備の国の部隊と冒険者で構成された本体が突っ込むという、最近どこかで見た戦法だ。 盛大に失敗していたが。

 まぁ、分かり易いし大抵の奴は理解できるだろうが、俺に言わせれば大丈夫かといいたくなる内容だった。


 魔導外骨格を随分と気前よく投入しているが、一区の生産工場を兼ねていた国立魔導研究所が消えた以上、数に限りがあるのにこんな簡単に突っ込んで良いのだろうかと思うのだ。

 まぁ、その研究所を消し飛ばしたのは俺なので、何を言っているのだという話だがな。

 

 転移魔石の説明を受けた時、それなりに騒ぎになったが俺はスルー。

 使い方によっては便利な代物だしな。

 特に冒険者にとっては命綱になり得ると言っても過言ではない。


 ダンジョン等で死にかけても簡単に脱出できるし、遠く離れた他所の国まで一瞬で移動できる夢の魔法道具だ。

 活動範囲を大きく広げる事も出来るし行動の幅もかなり広がる。

 欲しがる奴はいくらでも居るだろう。


 その証拠に転移魔石に熱い視線を注いでる奴がかなり多い。

 アカラシュ達も興味深いと言った表情を向けていた。

 アラブロストル側もできれば見せたくなかったのだろうがここまでやられた以上、出し惜しみが出来ないのだろう。


 俺が思っている以上に余裕がないのかもしれんな。

 必要な説明や確認は済んだのでさっさと出発となった。

 そもそも集合場所が二十区に一番近い街なので移動時間はそう長くない。


 ぞろぞろと行軍する。

 魔導外骨格は稼働時間の節約の為、その場に残す。

 足が遅いし転移で移動するので無理に動かす必要はないな。


 見る限り士気はそう低くない。

 冒険者連中は雑談をしつつ、国の兵士連中はやや強張った表情で道を歩く。

 俺は特に何も言わずサベージに乗って進む。


 時折、アカラシュが乗りたそうにしていたが無視した。

 考える事は連中をどう生け捕りにした物かと言う事だ。

 戦力としての連中の質は高い。 俺が仕留めた奴がどの程度だったのかは知らんがあれで雑魚ならアラブロストル側は少々厳しいのではないのだろうか?


 そんな事を考えている内に区の境界を越えて二十区へ入る。

 最初のターゲットは一番近い街だ。

 適当に近づいた所で作戦開始となる。


 配置に付き、先行した連中が街へと向かう。

 俺は少し気になる事があったので嗅覚を強化。 感覚を研ぎ澄ます。

 

 「――う」


 思わず声が漏れる。

 臭い。 微かではあるが、この前仕留めた男からした例の酷い臭いだ。

 直接接触した時にも感じたが何だこの臭いは。


 香水か何かを極限まで混ぜ合わせたかのような不快な臭いだ。

 薄めれば甘ったるいで済むのだろうが濃すぎて俺にはドブか何かの臭いにしか感じない。

 とにかく臭いのだ。 男を調べた時には何らかの影響を俺に与えようとして失敗した結果、悪臭として処理されていたのかとも思ったが、実際の嗅覚にも影響が出ている。

 

 ……というより、今の俺にここまで不快感を感じさせるのは相当だぞ。


 他の連中はどうなっているのだろうか?

 こんなに臭いのに何も感じないのか? それとも俺しか感じないのか?

 周囲の様子を見る限り、他の連中からそういった物は感じない。


 現状、俺しか感じないと見ていいのだろうか?

 まだ分からん事が多いな。

 感覚を戻して嗅覚を落とす。 取りあえずあそこは臭い連中――チャリオルトに制圧されているのははっきりした。


 間違いなく戦闘になるだろう。

 まずはアラブロストルのお手並みを拝見と行こうか。

 



 先行した連中が街に踏み込んでしばらくすると街のあちこちから爆発音と明らかに戦闘の物と思われる轟音が響き渡る。


 「よし! 後続部隊突撃だ!」


 今回の作戦の仕切りを行っているアラブロストル側の指揮官が号令をかける。

 冒険者連中が雄たけびを上げながら次々と街へ突撃していく。

 俺は適当に突っ込む集団の後ろについてサベージを走らせる。


 取りあえず、先に連中を突っ込ませて様子を見よう。

 先に始めている魔導外骨格はどうなったのだろう――

 街に入ったと同時に風切り音。


 何だと視線を向けると魔導外骨格のでかい腕が回転しながら飛んできていた。

 飛んで来た方へと視線を向けると四肢を切り飛ばされた魔導外骨格が転がっているのが見える。


 ……おいおい、全然ダメじゃないか。

 

 チャリオルト側の敵は数名が死体になっていたがほとんど減っていない。 

 ここまで分かり易い結果を見せられると呆れが先に立つな。

 自信満々に送り出しておいてこれかと。


 こちらの姿を認めたチャリオルト側の敵が一斉に腰を落として居合のような構えを取る。

 何をしてくるか察してサベージに指示。

 

 『<一舌いちぜつ>』


 十数人が一斉に腰の刀を抜き打つ。

 同時にサベージが跳躍。

 不可視の斬撃がその場に居た冒険者達を襲う。

 

 反応できなかった者は即座に両断され、咄嗟に気が付いた者は防御魔法、魔法道具、盾などで防ぐ。

 俺は近くの建物の上にサベージを着地させて被害状況を確認。

 即死した連中は見事に上半身と下半身が泣き別れているが、気になるのは傷口だ。


 出血がなく断面から僅かな煙が上がっている所を見ると、熱を伴った斬撃なのか。

 防いだ連中も全員が無傷と言う訳ではなく一部は防御を突破されて浅くない傷を負った者も多い。

 そこに畳みかけるようにチャリオルトの連中が突っ込んで来た。


 連中は無言だがその目だけが狂気を帯びて爛々と輝いていた。

 どう見ても普通じゃないな。 明らかに洗脳の類を受けているといった感じだが……。

 その割には動き自体は悪くない。 連携もしっかり取れているし、敵味方の区別もしっかりとついている。


 あの妙な技の発動を見る限り、技量などは十全に発揮されているようだ。

 俺の同類かといった考えが浮かぶが即座に否定。

 感覚的な物だが毛色が違いすぎる。 そうなると消去法で察しが付く。


 ……というよりは察しが付いていたのだが余り相手にしたくない類の能力なので出来れば違って欲しいと言った願望から若干目を逸らしていたのだが……。


 まぁ、あれだろうな。


 これは恐らく『権能』だ。

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