第441話 「辛勝」
取りあえず知りたい事も分かったので捕らえた男は処分して外へ。
戦況はどうなっているかの確認の為だ。
案の定というべきか押されていた。
冒険者も良く戦ってはいたが、連中の死をも恐れぬ攻めに次々と返り討ちに遭っているようだ。
ただでさえ強いのに捨て身で来るのだからたまった物ではないな。
アラブロストルご自慢の魔導外骨格は――おいおい、もう全滅してるじゃないか。
寧ろ銃杖使っている奴の方がまともな戦果を挙げているような気もするな。
生き残っているし。
流石に先の事を考えるとここでアラブロストルに負けられるのは困る。
面倒だが、少し俺が頑張らんと不味いか。
戦況を見ると冒険者の方が善戦しているようだし、苦戦している国の兵士連中を助ける必要がありそうだ。
視線の先で銃杖装備の兵士が一斉に射撃。 <照準>を付与された魔法道具を使用し普通ではありえない軌道を描いて敵に牙をむくが――
数名には命中して即死。 だが、殆どは空中で切り払われていた。
凄いな。 連中、正気を失っているにも拘らず何であんな曲芸じみた真似ができるのかがさっぱり理解できん。 これも例のカンチャーナとやらの仕業か?
まぁ、今はどうでもいい。
俺は連中が銃杖を防いだタイミングで<榴弾>を連射。
銃杖の時と同様に切り払おうとしていたが、直前に空中で炸裂させる。
爆炎に巻き込まれて連中が次々と火達磨になる。
――が構わずに突っ込んで来る。
鬱陶しい。
俺は兵士たちを押しのけて前に出て、向かって来た順に片端から魔剣で斬り捨てる。
向かってくる奴を全員斬り捨てた所で、周囲の様子を見る。 敵が全滅した事を確認する。
「おい、あんた……」
兵士が何か声をかけようとしていたが無視して次へ向かう。
移動しながらサベージに連絡を取ると、奴も敵を排除しながら移動中との事。
一応、不利になっている所を優先的に支援に回っているようだが、厳しいな。
質に差があり過ぎる。
戦闘が行われている場所に辿り着いたが、こちらはもう終わっていた。
国の兵士も冒険者も全滅しており、チャリオルトの連中が次の獲物を求めて目をぎらつかせている。
連中は俺を見つけて嬉々として襲って来たが残らず返り討ちにする。
こいつ等は臭いので近くに居ればすぐに分かるな。
俺は向かって来た連中を全て返り討ちにした後、油断なく次の戦場へと向かって行った。
「……これは流石に面倒だな」
消耗が激しい。
もしかしたらここ最近で一番疲れたかもしれんな。
肉体的な疲労という点では問題はない。 だが、連中のまき散らす悪臭のお陰で不快感が酷いのだ。
自分で言うのもなんだが我ながらストレス耐性は高い方だと自負していたが、ここまで酷いと流石に参るな。
戦闘自体は半日足らずで終わり、街の奪還は成ったがアラブロストル側の損耗が激しい。
連れて来た冒険者は三分の一が負傷や死亡で脱落。 国の兵士に至っては四割近くが使い物にならなくなっている。
そして虎の子の魔導外骨格は全滅と来た。
ここまで厳しいと根本的な所から見直さないと不味いのではないだろうか?
アラブロストルの連中もその辺を自覚しているのか、街の奪還の完了と同時に忙しく会議や魔石で上に連絡を取っていた。
大方、現状の戦力では厳しいとでも報告しているのだろう。
実際の所、アラブロストルとチャリオルトでは物量こそアラブロストルが上回っているが質という点ではチャリオルトに大きく劣っている。
それを補う為に新兵器として鳴り物入りで用意した魔導外骨格や銃杖もあのザマだ。
士気の低下も無視できないレベルだろう。 雇われただけの冒険者なんて尚更だ。
そして最大の問題は今回、一番戦果を挙げているのが冒険者と言う事だろう。
更に言うのなら他の街を攻めていたグノーシスも首尾よく奪還に成功している事実を踏まえると、討伐軍で一番使えないのが主力と息巻いていたアラブロストルの戦力で、この結果のお陰で連中のメンツは丸つぶれとなった。
兵士連中は現状をしっかりと報告しているんだろうが、この様子だと上は納得しないだろう。
意地でも戦果を挙げようと躍起になるのは目に見えている。
その場合、一番割を食うのは誰だ? 考えるまでもない。 当然ながら俺達冒険者だ。
国の上は一部が制圧されたという事実だけでも面子が潰されているのに、グノーシスに必要以上の借りを作った挙句、ご自慢の新兵器をあっさり撃破されたという大恥までかかされたのだ。
どんな手を使ってでも勝ちに……いや、結果を出しに動くだろう。
今は奪還した街で捕まっていた住民や負傷者の治療、死傷者の運び出しなどで忙しいが、状況が落ち着けば予定通り次の街の奪還作戦を強行するはずだ。
俺は支給された食事をサベージと食べながら街の片隅でその光景を眺めていた。
考える事はこの先の事だ。
はっきり言って、この戦いは厳しいな。 負けるとまでは言いわないが。
恐らく時間をかければ勝てはするだろう。 アラブロストルはチャリオルトに物量では大きく勝っている。
このまま戦力の投入を続ければやがて陥落させることは可能だろう。
場合によっては他所に救援要請をすればいい。
チャリオルトはそう規模の大きい国ではないので、南側の国と連携して包囲すればいいだけの話だ。
最終的に出る犠牲とアラブロストルが周辺国に吹っかけられるであろう対価に目を瞑ればだが。
……恐らくそれは最後の手段になるだろうな。
ここの連中からしたらとてもじゃないが容認できないだろう。
大陸有数の大国が格下に頭を下げて助けてくださいと泣きつく。
まぁ、人並み以下のプライドしか持ち合わせていなかったとしても、とてもじゃないが選べない手だろうな。
間違いなくギリギリまでは自力でどうにかしようとするだろう。
その過程で出る犠牲は無視して。 俺はぐるりと周囲へ視線を巡らせる。
意識を向けるのは冒険者連中だ。 流石に数が居るだけあって反応は様々だが、控えめに言っても士気は高いとは言い難いな。
仲間を失って悲嘆にくれる者、国への不信感を募らせて冷めた視線を向ける者、集まって何やら相談する者にあれは――なるほど、仮病で逃げようとする者までいた。
一度受けた依頼を自己都合で破棄するのは重大な規約違反だ。 逃げたければ依頼人であるアラブロストル側の許可がいる。 もっとも、連中が貴重な戦力を手放すような真似をするとは思えんが。
正直、俺もこいつ等に付き合うのは良くないと思い始めていた。
この先、無謀な攻撃の先陣を切らされるかもと考えると独自に動いた方がましかもしれんなと考えてしまうのだ。
「ロー」
不意に声をかけられたので振り返るとアカラシュ達だった。
「生き残るとは大した物だ。 そのラプトルのお陰か?」
「……そんな所だ」
お仲間をぞろぞろと引き連れてはいたが数が随分と減っている。
今回でかなり死んだようだな。
「……俺達は戦闘が始まって早い段階で固まって行動していたが……」
俺の視線に気づいたアカラシュは小さく俯く。
スワープは悔し気に顔を歪め、ジーニーは近くの壁を苛立ち紛れに蹴り飛ばす。
「三割から四割と言った所か」
ざっと見た限り損耗率はそんな所だろう。
「……あぁ、噂には聞いていたがチャリオルトの強さ……甘く見ていた」
「なにさ! アラブロストルの連中も自分達が主力でお前等は後ろで支援してればいいなんてえっらそうな事言っといてあのザマ? 結局、一番戦果を挙げたのはあたし達冒険者じゃないか!」
自分を責めるように表情を暗くするアカラシュに怒りを隠そうともしないジーニー。
同じ気持ちなのかスワープも言葉にはしないが表情を歪めている。
「死んだ中にはパーティーの旗揚げから付き合ってくれた仲間も居たんだ! 絶対に許せない!」
気炎を吐くジーニーの様子を見る限り続行するつもりか。
スワープも同様みたいだが、アカラシュは――
「皆とこの後のことを相談しようと思ってな」
――そう言って切り出して来た。
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