第438話 「考察」
「俺の方からも少し質問をしたいのだが構わないか?」
話が一段落した所で俺はそう切り出した。
アカラシュ達は何でも聞けと鷹揚に頷く。
「チャリオルトの連中が使っている妙な技だ。 何らかの付与がかかった武器を扱っていると噂を聞いたがどうも毛色が違う印象を受けた。 何か知らないか?」
「あぁ……その事か……」
質問の内容を理解したアカラシュ達は微妙な表情をする。
「正直な話、俺も噂程度しか知らんな」
他の二人も同様に頷く。
俺がそれでも構わないと言うとアカラシュは話し始めた。
「連中はどうも陣構築無しに魔法を扱っているらしい。 要は連中が使っているのは魔法剣だな」
それは知ってる。
俺が知りたいのはその先だ。
「俺も理屈は良く分からんが、どうも連中曰く人の体内には魔力の流れとやらがあって、体の特定の部位にはそいつを増幅する能力があるらしい。 ……で、それを上手い事操れれば陣の構築なんて手順を踏まずに魔法を行使できるらしい」
……ふむ。
面白い話だ。
「チャリオルトの山奥で修行している連中は基本的にこの技を使えるらしく、これに精通している奴は複数の部位から力を引き出す事が出来るらしい。 話によれば、それが出来るとかなり規模のでかい魔法を間髪入れずに使えるって聞いたな」
魔力の流れを増幅する部位?
試しに自分の体に意識を向けてみたが確かに魔力の流れは感じるがそんな便利そうな代物に心当たりはないな。
「詳しいな。 噂によると連中の技術は門外不出と聞いているが?」
「あぁ、確かにそうだがチャリオルトって国はそう言う閉鎖的な面がやたらと強くてな。 それに嫌気がさして出て行く奴も少なからずいる。 結果としてそいつらから中の情報が洩れるって訳だ」
……なるほど。
トラストも国に嫌気がさして抜けたという話だから頷ける話だ。
鎖国して技術が洩れないようにしていたが、絞めつけが過ぎたせいで人が流出したでは笑えんな。
それに隣国が地続きな以上、どうやったって脱走は防げない。
何となくチャリオルトという国の歪さが見えた気がした。
技術を独占しているというにはやや違和感があるが、連中は一体何がしたいのやら。
「――こんな所か? 使えたら便利そうだが、どうも特殊な修行が必要だとかで俺には全く理解できなかった」
アカラシュは微妙な顔している所をみると何とか習得しようとしたのだろう。
情報が集め辛い連中の技術をここまで調べているんだ。 相当熱を入れていたのが窺える。
らしいばかりで確度は低いが、俺にとって充分に価値のある情報だったな。
そう言えば他の二人は何か知らないのだろうか?
ちらりと視線を向けると二人はそっと目を逸らした。
「あー……悪い。 ちょっと良く分からなんな」
「あ、あたしも……」
使えない奴等だな。 会話する価値がなさそうなので二人からそっと視線を逸らす。
その後も適当に情報交換を行ったのだが、専らアカラシュが喋って質問を繰り返し他が答えるといった形になった。
どうも他の二人はアカラシュと活動地域も被っている上、知識面でも被っている上に奴より引き出しが少ないので聞く事がない。
結果、俺とアカラシュが話して他が相槌を打つという構図が出来上がった。
正直、この二人なんで呼んだんだと言ってやりたかったが、どうでも良かったので特に指摘せずに話を続ける。
アカラシュの話は実際、俺にとってかなり有益ではあった。
特にチャリオルトの情勢や地形などにはかなり明るく、俺の古い知識を補ってくれたのは大きい。
逆にアカラシュは俺の事やサベージの事、後はアープアーバンやウルスラグナの事を聞きたがったので、以前シシキンに話した適当な冒険譚をそのまま使い回せたのも面倒がなくてよかった。
連中も満足したようだし、俺もしっかりと食えたし文句はないな。
時間も遅くなり酔いつぶれる奴もちらほら出始めたのでそろそろお開きとなった。
明日があるし戦闘に支障が出ないようにさっさと休ませたいと言った考えもあるのだろう。
俺は外で待たせていたサベージを連れて宿へ向かった。
ごろりとベッドに横になって天井を見る。
場所は宿の一室。 あの後、さっさと宿に引っ込んだ俺はぼんやりと考えていた。
明日の戦いの事ではない。 アカラシュの話についてだ。
……魔力の流れ……か。
確かにその辺は理解している。
人間だけでなく魔物にも体内に魔力の流れが存在するのは知っていた。
そうでもなければ身体能力強化の魔法なんて使えないし、効果を維持する事も不可能だ。
あれは体に流れる魔力量を操作して身体能力を上げる。
だが、それを増幅するような代物が存在するのか?
さっぱり分からん。 自分の体内を精査したが怪しい魔力の流れは見えない。
奴の話が全て真実と仮定しよう。
俺にその増幅する部位が存在しないと言う事は体を弄り過ぎた弊害か?
その考えで行くなら恐らく邪魔だと排除した部分にそれが含まれていると考えるべきだろう。
つまり、今の俺には連中の技が使えないと言う事か。
人間の形にこそ答えがあると言うのなら最初に使えていた筈の技が使えなくなった理由にも説明が付く。
我ながらガワ以外は人間から随分とかけ離れた事になっているからな。
これはどうすればいいのだろうか?
体内の臓器――もう脳みそだらけだが――の配置を弄るだけで使えるようになるのだろうか?
うーむと考えたが、もう少し判断材料が欲しいな。
考えたが保留という結論が出た。 どちらにせよこの後に実際に使っている連中といくらでも出くわす機会があるんだ。
記憶が抜けそうな奴を探して調べられる可能性は充分にある。
焦る必要もないのでぼーっと天井を見ながら思考を切り替えた。
次に考えたのは先日仕留めた男の事だ。
記憶も魂もなかったので情報が全く読み取れなかった奇妙な男。
その割には戦闘能力だけはしっかりと残っていたが……。
アレは一体何だったのだろうか?
現状では情報が足りないので推察しかできないが、心当たりがある。
記憶は脳を物理的に破壊すれば消すのはそう難しい話じゃない。
ただ、魂に干渉するのははっきり言って難しいと俺は考えている。
その為、それをやってのける存在はそう多くないのだ。
グノーシスは国からの要請を受けて聖騎士の派兵を決めているので、連中は無関係と考えるべきだろう。
ならばテュケか? それも疑問符が付く。
以前も触れたがここまで派手にやるのは連中のやり方じゃない。
あくまで連中は国に寄生して研究を行いデータを集めている。
その国に必要以上のダメージを与えるような真似をするのだろうか?
……まぁ、頭が挿げ替わって方針を変えたと言えばそれまでだがな。
そうなると消去法で俺の知らない勢力か、見た通り、自発的にチャリオルトが攻めてきているかだ。
勢力の正体は分からんが、連中を操っている能力には一つ心当たりがあった。
恐らく連中の中に――
もし予想が正しければ面倒だなと俺は小さく思って目を閉じた。
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