第437話 「奢食」

 何とも賑やかな事になっていたが、俺は特に興味がなかったので店の隅で飲み食いしていたがアカラシュ達に捕まって連中のテーブルまで連行されてしまった。

 俺が引っ張られたテーブルにはさっき自己紹介していたパーティーのリーダー格が全員揃っている。


 促されるまま空いた席に座り、持ってきた料理を無言で食い始めた。

 その反応にアカラシュは小さく笑い、スワープとジーニーも苦笑。


 「まったくふてぶてしい奴だな」

 「冒険者なんだからこれぐらいじゃないとやってけないんだろ?」

 「集まったんだし早い所、話を済ませちゃいなよ」


 ジーニーの言葉にアカラシュは小さく頷く。

 

 「……そうだな。 こうして集まって貰ったのは明日の動きを確認する為だ」


 アカラシュ曰く、依頼人を完全に信用するのは今回の依頼に限って言えば悪手であるとの事だ。

 理由は賊の討伐と銘打ってはいるが国の利権が絡む戦争である以上は何をやらされるか分からない。

 そう考えて他との情報交換を考えたようだ。


 ……なるほど。


 自衛の為に依頼の裏を取ろうとしている訳だ。

 まぁ、余計な事をやらされて後で責任を取らされでもしたらたまった物じゃないしな。

 抗議するにも数が居れば色々と動きやすいと。


 結構考えてるな。

 俺ならやる事やってそのまま消えるし、妙な事をやられればやった奴を始末するだけだ。

 

 「……アカラシュの言う通りだ。 俺達は冒険者である以上、標語の自己責任を貫く為に身を守る事はやるべきだ」

 「そうね。 情報を共有して結束を高めるのは必要ね」


 アカラシュの言葉に二人が同意する。 

 俺はどうでも良かったので料理を追加注文しながら頷いておいた。

 

 「まずは基本的な事を確認する。 直接の依頼人は区長だが大本はこの国アラブロストルだ。 内容は賊軍――……取り繕っても仕方がないか。 要はチャリオルトが攻めて来たから返り討ちにするのを手伝えと言った話だ」

 「取りあえず、今回の内容は奪われた十三区と二十区の奪還。 俺達の担当は二十区だな」

 「戦闘はアラブロストル側が用意した戦力が主であたし達はその支援って形だけど……」

 

 連中の話を聞きながら俺は適当に頷いておく。

 まぁ、ザリタルチュに行った経験を踏まえるのなら、場合によっては先陣どころか囮にされかねんな。

 国が絡むと冒険者を使い捨てるような方針になりがちな印象を受ける。


 「ジーニーの言う通りだ。 俺達は道具ではない」

 「あぁ、アカラシュ。 言いたい事は分かっている。 戦況によっては連中、俺達に無茶をやらせるだろうって事だろう?」

 「そうね。 どちらにせよ、そうなるのは避けられないと考えて今の内にあたし達の結束を強めてお互い助け合おうって事でしょ?」


 要は何かあればお互いフォローし合いましょうって事だろう?

 俺は適当に話を聞きながらもぐもぐと料理を口に放り込み、酒で流し込む。

 不意に三人の視線が俺に集まる。 何だ?


 「……話なら聞いているぞ?」


 そう言ったがアカラシュは苦笑、スワープは呆れ、ジーニーは白けた目を向けて来る。

 

 「いや、そうではなくてな。 話に――」

 「要は国に使い潰されない程度にお互い助け合おうって事だろう? 話は了解した。 状況次第だが、可能であれば俺も協力しよう」


 飯代分ぐらいはフォローしてもいい。

 まぁ、気が向けばだが。

  

 「あんたねぇ……皆で折角話し合ってるってのに、輪に入ろうとはしないの?」

 「入ってるだろう? あ、済まんが酒と料理の追加を頼む」


 ジーニーが不快気に眉を顰めながら俺を睨んで来るが無視して追加の料理を注文。

 俺は構わずにどうでも良さそうに返事をしながら追加注文をする。

 

 「ちょっとアカラシュ! 何でこんなの連れて来たのよ! さっきから食ってばかりじゃない!」


 そうだな。 飯を奢ってくれるからほいほいと席に着いたが、何で俺みたいな奴を呼んだんだ?

 赤ならまだまだ居ただろうに。

 

 「ちょっと気になる噂を聞いてな」


 アカラシュは真っ直ぐに俺に視線を向けるが俺は構わずバクバクと料理を貪る。

 噂? 何の話だ? ここ最近は目立つような依頼も請けてないし問題も起こした覚えもないな。

 誰かと勘違いしてるんじゃないか?


 「二人は少し前にザリタルチュで辺獄種の大掛かりな討伐戦があったのを知っているか?」


 ……あぁ、その事か。


 「一応、話は聞いている。 連中の巣は潰したけど行った連中の大半が未だに向こうに取り残されているって奴だろ?」

 「あたしもそれぐらいしか知らないわ。 確か返って来たのは一人だって……」


 そこで二人の視線がこちらに向くが無視して飯を食う。

 

 「そいつはラプトルに乗って、ストリゴップスを使役していたと聞いた。 ローお前の事だろう?」

 「さぁな」

 「おいおい、つれない事を言うなよ。 飯代替わりだ、それぐらい教えてくれても良いんじゃないか?」

 

 ……。


 「そうだ」


 俺がそう言うとアカラシュは笑みを深くした。

 

 「やっぱりマジだったか。 俺はどっちかと言うとあの戦いについてのあんたの武勇伝を聞きたかったんだ! 酒の肴に聞かせてくれよ。 辺獄ってのがどれだけの場所だってのかを」


 まぁ、飯代分ぐらいなら喋っても構わんか。

 そう考えた俺は適当に脚色した辺獄での出来事を話し始めた。




 「――つまり辺獄ってのは何もない所からいきなり辺獄種が湧いて来る魔境だと」

 「あぁ、おまけに遮蔽物もない場所にいきなり湧いて来る物だから油断もできんな」


 俺の話にアカラシュはやや興奮したかのように相槌を打つ。

 

 ……それにしても……。


 この話をすると大抵の奴は似た反応をする。

 思った以上に辺獄内部の詳細は知られていないのだろうか?

 文献などはそれなりの数が出回ていると聞いた事があったが……。

 

 そもそもこいつ等は本の類なんて読まんか。

 冒険者には必要のない物だしな。 そもそも本は高いし嵩張る。

 そう言った面でもわざわざ買い求める冒険者は少ないだろう。


 一応俺は逆に連中が辺獄をどう認識しているのか聞いてみたが、随分とふわっとした代物だった。

 死者を攫って行く風が吹く場所、そこには辺獄種という魔物が跋扈する魔境。

 正直、誰でも知っているレベルの情報でしかなかった。

 

 まぁ、余程の事でもない限り生きたままあの地を踏む事なんて稀だろうし、積極的に情報を集める真似もしないだろう。

 恐らく立場が逆だったとして、俺も恐らく情報を集めるような事はしないだろうな。


 その後、適当に脚色した街の攻略戦の話をしてお開きとした。

 内容は――皆で力を合わせてアンデッドの根城である街を滅ぼして大勝利。

 まぁ、実際にあの街を滅ぼすなんてはっきり言って不可能だがな。


 あの飛蝗が居る限り――おっと、話が逸れたな。

 ともあれ、話し終えるとアカラシュ達は三者三様の反応を見せた。


 アカラシュは感心したように。

 スワープは半信半疑なのか微妙な表情で。

 ジーニーは胡散臭いといった態度を隠しもしない。


 別に信じて欲しい訳でもないし好きに解釈しろ。

 さて、俺の話は終わったのでいい機会だし今度は俺が質問をするとしよう。

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