第410話 「作業」
魔導外骨格か。
聞いた限りではあるが、個人レベルで運用できる武装としてはかなり上等な部類に入るだろう。
周囲の状況から大雑把な戦力評価をしながら俺はぼんやりと考えた。
視界に入るのは傭兵達の死体の山。
どいつもこいつも力技で潰されたような状態で、血や肉片が飛び散ってあちこち酷い有様だった。
衝撃で壁に張り付いている物もあって掃除が大変そうだなという感想がふっと浮かぶ。
そうこうしている内に一体が俺に気が付いて大剣を無造作に振り上げて下ろす。
思ったより速いな。 鈍重そうな見た目とは裏腹に動きはそれなりに軽快だ。
……とは言っても見た目よりというだけで、目で追えないレベルじゃない。
振り下ろしに合わせて魔剣を抜き打つ。
鈍い金属音がして相手の大剣は半ばで断ち切られる。
対して魔剣は無傷。 この程度で破損していればとっくに廃棄しているかと内心で嘆息。
「――あ?」
外骨格からくぐもった声が聞こえる。
何やら剣が折れた事が随分と驚きだったのかその声は不思議そうだった。
俺は無言で懐に入り、魔剣を第一形態に変形させて起動。 胴体部分に突きこむ。
高速回転した刃が若干の抵抗を突き破って内部の使用者をミキサーにかけて粉砕。
悲鳴を上げる間もなかったのか、声もなく内部で肉が攪拌される音が響いた。
仕留める事はそう難しくなかったが、思ったよりも頑丈だったなと言うのが素直な感想だ。
魔剣の第一形態相手に一秒以上保つとは中々だ。
そうなると通常の魔法や剣では簡単に抜けんか。
……まぁいい。 魔剣を使えば一発だしさほど気にする事でもないな。
取りあえず、この技術の情報といきなり建物内に湧いて来た手段に興味があるから何とか情報を引っこ抜きたい所ではあるな。
そうなると最低一人は生け捕りにする必要があるのか。
内心で面倒なとは思うが、恐らくは空間を転移して現れたと見ている。
そうなるとテュケの連中が絡んでいると可能性が高い。
まぁ、銃杖が出て来た時点でほぼ確定だったが……。
ウルスラグナでは散々世話になったので、絡んで来る前にできれば潰しておきたい所だな。
もし蜻蛉女がいるのなら始末しておきたい。
手遅れかもしれんが口は封じておくべきだろうし、何より消してすっきりしておきたい。
そうなると怪しいのはこの国の中枢――一区だろう。
魔導外骨格と空間転移のノウハウもついでに手に入れておきたい。
前者は割とどうでもいいが後者は今後の移動が楽になりそうだし、最低限転移に必要な現品を手に入れたい所ではあるな。
まぁ、それも今攻めてきている連中が持っているだろうし教えて貰うとしようか。
幸いにも連中は派手に暴れているお陰で居場所の特定は簡単だ。
加えて取りこぼしを防ぐ意味合いもあるのだろうが、戦闘力に自信があったようで全員が単独で行動しているらしい。
その証拠に音があちこちから聞えて来る。
正直、かなり好都合だ。 一人ずつ仕留める事が出来るからな。
……とは言ってものんびりはしていられんか。
先に逃がしたドゥリスコス達の事もある。
ここまで見事な奇襲をかけて来た連中だ。 出口をそのままにしておくとは思えない。
死んだ所で然程気にする事でもないが、奴には使い道があるので今は死なれると少し困る。
それに依頼を請けた以上は……まぁ、最善は尽くすとしよう。
俺はそんな事を考えながら手近な獲物を見繕って小走りに向かった。
音もそうだが連中が暴れた後には破壊された壁や粉砕された死体が散乱しているので分かり易い。
恐らく傭兵達の詰所だったであろう場所では魔導外骨格が大剣を振り回してちょうどその場に居た者達を屠り終えたばかりだったようだ。
俺は無造作に後ろから近寄って足を魔剣で切断。
膝から下を切断された外骨格はそのまま崩れ落ちる。
「なっ!? 何だ!? 一体何が……」
そう言うリアクションはいいからさっさと顔を見せろ。
倒れ込んだその背を魔剣で切り裂いて中身を露出させる。
使用者の背が露わになった。
どうやら頭部と胴体部分に収まっている感じのようだ。
起き上がろうとする前に頭部部分を断ち割って頭を露出。
必死に振り返ろうとしているが胴体が固定されているので叶わない。
俺は無言で後頭部を掴んでホールド。 耳から侵入して記憶を頂く。
洗脳は――今は止めておいた方がいいか。
記憶と知識は貰ったのでもう用済みだ。 さっさと死ね。
脳みそを啜って即死させる。
使用者の男は困惑の声を漏らしながら死亡。
恐らく最期まで自分に何が起こったのか分からなかっただろうな。
記憶を検めて転移の方法についてもある程度だが理解はできた。
流石に開発者でも何でもないので手段とその使用方法ぐらいだが、後は現物を調べればいいだけの話だ。
うつ伏せになっている魔導外骨格をひっくり返して仰向けにして胸の部分を慎重に魔剣で破壊。
中に入っている二つの魔石を引っこ抜く。 取り出した魔石は一抱えもあるサイズなので、持ち運びが難しい。 近くの部屋に隠して後で回収しよう。
これで最低限の目的は達した。 連中は用済みだしさっさと皆殺しにしてドゥリスコス達と合流するとしよう。
ちらりと仕留めた残骸――その破損部分に目を向ける。
破損した足や胸部の装甲から血のように銀色の液体が大量に流れだしていた。
恐らく水銀か何かだろう。 どう言う仕組みなのかはさっぱり分からんが、回収して首途辺りに見せれば色々分かるかもしれんな。 流石にでかすぎて今は持って帰れないが。
まぁ、機会はまだあるだろうし欲張る必要はないだろう。
俺は踵を返して次の場所へと向かった。
その後は実に簡単な作業で、見つけては魔剣の第一形態を突きこんで使用者を挽き肉に変換する作業だった。
魔導外骨格と言う奴は兵装としては相応に優秀だが、視野が酷く狭いという欠点がある。
内部に透過させて視野を広くする仕掛けを施してはいるが、それでも死角は多い。
特に至近距離――足元などは頭部部分の可動域の所為で完全に死角となっている。 反面、衝撃に対しては敏感で、触られたら即座に伝わるようになっている。
恐らくは頑強さに絶対の自信があるからこその機能ではあるのだろうが、一撃で装甲を抜いて来る相手には致命的な弱点だな。
攻撃されるまでは気付けない以上、俺からすればはっきり言ってカモでしかなかった。
後ろから堂々と忍び寄って剣で一突き。 それで終わるからだ。
小さく鼻を鳴らす。 兵器としては二流もいい所だな。
そこでふと納得する。
……あぁ、それで商人に貸し出すなんて真似をしてるのか。
あぁいう連中に運用させた方が欠点の洗い出しには有効なのかもしれんな。
考えながら仕留めて回っていたがあっという間に八体目だ。
傭兵連中も軒並み全滅しているので――
「た、助かったぜ。 あんたは一体……」
死体の中で紛れていた奴が起き上がろうとしていたが魔剣で首を刎ねて楽にしてやった。
――全滅していたので口封じする必要もないし気楽な物だ。
後は適当に残骸を加工して偽装を施して次へ向かう。
引っこ抜いた記憶によれば今回投入されたのは全部で十体。 仕留めたのが八体だから残りは二だ。
さっきから派手に音が響いている所を見ると、迎撃側は銃杖を使っているな。
魔法の物と思われる轟音が連続して響いているからだ。
普通ならここまで短い間隔で魔法は撃てない。
くたばっていた連中を見る限り、銃杖はそう多く支給されていなかったところを見るとドゥリスコスの兄貴と親父辺りか。
とっくにくたばった物かと思ったが生きているとは中々しぶといな。
逃げ切られても面倒なので少し急ぐとしよう。
俺は音のする方へ向かう足を速めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます