第411話 「共倒」

 「く、くそ! 魔導外骨格だと! 聞いてないぞこんな事!」


 俺が音のした方へ向かうとそこは逃走用の隠し通路の入り口だったようだが、無残にも崩れて埋まっており、ドゥリスコスの兄貴と親父が銃杖を構えていた。

 護衛の連中は全滅――はしておらず一人残っているが何故か魔導外骨格の隣にいる。


 それを見てあぁと納得。 内通していたって訳か。

 あんなのが居たんじゃあっさりと制圧されるのも頷ける。

 一応、事情は知っておきたいし、記憶は引っこ抜いておきたいな。


 魔導外骨格は邪魔なので後ろから第一形態で掘削して中身を挽き肉に変える。

 次にぽかんとしている内通者らしき男の足を魔剣で薙いで切断。

 崩れ落ちた所で壁際まで蹴り飛ばす。


 派手に出血しているが二、三分保てばいいし放置でいい。

 

 「お、お前はドゥリスコスの……。 助けに来てくれたのか! それにその剣は――」

 「残っているのはあんた等だけか?」


 俺は驚きつつも感謝の言葉を口にしようとするドゥリスコスの兄貴の言葉を遮って状況確認。

 

 「あ、あぁ、残っているのは俺達だけだ。 部下や護衛は全滅してしまった。 それもこれも奴の裏切の所為だ! 貴様、楽に死ねると思うなよ!」

 

 憤怒と憎悪が入り混じった表情で壁際に蹴り飛ばした男を睨みつけているが、父親の方は俺の方を凝視しており、その表情には恐怖が浮かんでいた。

 何だ? まだ・・、そんな表情を向けられるような事をした覚えはないぞ?

 

 「た、頼む。 せめて息子だけは見逃してやってはくれんか……」

 「……親父?」


 懇願する父親と訝しむ息子。

 その反応を見て俺は少し驚く。 何だ、こいつ分かってるじゃないか。

 随分と察しがいい。 これも商人としての洞察力って奴なのだろうか? もっとも、聞き入れる気は毛頭ないが。


 俺は無言でドゥリスコスの兄貴へ近づいて顔面を鷲掴みにする。

 

 「なっ!? 何を――」


 その見飽きた反応はいいから記憶と知識だけ寄越せ。

 手の平から根を伸ばして脳へ侵入。 記憶を引き抜く。

 残った体は要らんから処分。 脳を破壊して仕留める。 ドゥリスコスの兄貴は白目を剥いて数度、痙攣した後死亡。

 

 用済みになった体を投げ捨て、次は父親の方を狙う。

 父親は即死した息子を驚愕の眼差しで見た後、諦観の浮かんだ視線を俺に向け目を伏せた。

 どうやら観念したようだ。


 「始めて見た時から違和感はあった……。 儂にはお前がとても人間には見えなんだ。 ドゥリスコスに取り入って一体何を狙って――」

 「これから死ぬ奴に何を言っても無駄とは思わないか?」


 俺は父親の言葉を遮るように今しがた仕留めた兄貴と同じように顔面を鷲掴む。

 同様に根を伸ばして中身を抜いた後、脳を破壊して始末する。

 後はさっき転がしておいた内通者の記憶を抜いて完了だ。


 最後に死体を襲撃者の仕業であるかのように適当に破壊して引き上げだな。 最低限、身元は分かるようにしておかんとな。

 遠くで戦闘の物と思われる音が微かに聞える。 どうやらドゥリスコス達が敵と出くわしたようだ。

 こっちの用事も済んだし助けに行くとしようか。

  

 やや急ぎで移動しつつ今回得た知識と情報を整理する。

 襲撃者、内通者、ドゥリスコスの父親と兄。

 連中の記憶と知識を組み合わせると今回の件の背景は大体理解できた。


 はっきり言って国側の実戦演習を兼ねた新兵器の評価試験と言った所だろう。

 目玉は魔導外骨格と転移魔石という新たな移動手段。

 この二つの運用データを取りたかったらしい。

 

 内通者は記録係で、報告とエマルエル商会の監視を兼ねていたようだな。

 まぁ、ここまで情報が出揃うとエマルエル商会の立ち位置は良く分かる。

 分かり切っていた事だが、道化もいい所だったな。


 銃杖に関してはウルスラグナにまで出回っている以上、データ収集はほぼ済んでいると見ていい。

 

 ……簡単に他所に流せるわけだ。


 この国の連中からすればほぼ完成した銃杖よりまだまだ問題の多い魔導外骨格の機能改善に集中したいと言った所だろう。

 火力と防御は大した物だったが、機動性や索敵能力にかなりの難がある。

 

 実際、死角からでは触られるまで接敵に気付けないのでは話にならんな。

 後は足の遅さだろう。 そこそこの巨体の割には速いが、それでも動き自体が鈍重である事には変わりがないのでその点も要改善と言った所だろう。


 最後に運用時間か。

 ゴーレムなら十数分でガス欠になる所を二時間近くまで伸ばしたのは大した物だ。

 それでも派手に魔法を使用したり無理な動きをすると駆動時間は短くなる。


 俺から見てもまだまだ実戦に投入するには不安な代物だろう。

 さて、何故国がこんな強引な演習を行っているのかというと理由は簡単、隣国であるチャリオルトの動きが不穏だからだ。


 あの国は国と呼ぶには規模は小さく、国土もそう大きくない。

 面積で言うのならアラブロストルの三分の一を僅かに超える程度か。

 ほぼ全域が険しい山脈で、そこの国民は仙人のように引き籠っている。


 一応、浅い位置にある村や街には冒険者ギルドなどは存在するが、山の中は部外者の出入りを嫌う傾向にあり、関係者以外は中の状況を碌に知る事が出来ない。

 ちなみにだが、無断で侵入すると捕まって殺されてしまうようだ。


 中の様子だが――今はいいか。

 俺の知識は古いし、合っている保証もない。

 まぁ、そのチャリオルトの動きが随分と不穏なのだそうだ。

 

 国交は殆どないのでアラブロストルの連中は不穏な物を感じ、かなり強い警戒心を抱いているようだ。

 実際、区長の中には仮想敵として認識している者も多いらしいな。


 そんな胡散臭い連中が不穏な動きをしているので、攻めて来るのかと身構えているらしい。

 なるほどと俺は納得する。

 そこまで聞けば連中が魔導外骨格の実践演習なんて強引なデータ取りを強行する訳だ。


 ここの連中はチャリオルトの連中に魔導外骨格を主力とした部隊で攻め込もうとしている。

 迎撃ではなく侵攻を目的とした行軍だ。

 連中が目障りなのもあるが、攻める事に当然ながら利益もある。


 チャリオルトは山脈への侵入は禁止。

 つまりは南側の国へ移動する際は大きく迂回しなければならない。

 そう言う意味でもあの隣国は邪魔なのだろう。


 あそこを潰す事は交易を行う上でも利益が大きい。

 迂回する必要がなくなるし、切り開いて中継拠点を作ってしまえばさらに捗るだろう。

 通行税とかも取れるから長い目で見る必要はあるだろうが将来的には収益が見込める公算は大きい。


 最後に転移魔石だ。

 正確には転移ではなく入れ替えらしいのでやや癖がある。

 通信魔石の発展形とも言える代物で、使用すると本体である魔石を中心に一定範囲にある生物や物体の場所を入れ替える効果があるらしい。


 今回の襲撃も連中はいきなり湧いてきた訳ではなくこの屋敷内に潜入していた敵側の人員と入れ替わりでこちらに転移して来た形になっているらしい。

 連中が徹底的に傭兵共を始末した理由でもある。


 手品の種はバレてない内が華だからな。

 奪った知識によれば、本当の意味での空間転移も可能ではあるらしいが、精々数メートルが限界らしく上手く行っていない。

 以前、ウルスラグナの王城でアメリアが使ったのはこれだろう。

 

 隣の部屋から移動したとか言っていたし恐らくは間違いないだろうな。

 そうなると面倒だな。 現状では利用するのは少し難しい。

 まぁ、現物を手に入れた以上、どうにかする方法はあるだろう。

 

 後でファティマ経由で首途に相談してみるかと考えていると音が近づいて来た。

 この様子だとドゥリスコス達はまだ生きているようだな。

 俺は割り込むべく、腰の魔剣を引き抜いた。

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