第371話 「提供」

 「ミミミライライガ! ミエミエマシタ。 ココガオソワレル! ワレルノヲ!」


 襲われる?

 その後の鳥の説明を時間かけて聞くと事情が簡単にだが分かった。


 要は近い将来、ここが人間に見つかって鳥が根こそぎ攫われる未来が見えたそうだ。

 それをどうにかする為に何とかできそうな奴をご自慢の予言で探した結果、近い将来にここを訪れる俺に白羽の矢を立てたと言う事らしい。


 何故、鳥が狙われているのか?

 理由は簡単で、連中から取れる素材は防具の装飾や矢羽等に使用され、体内の魔石は小振りながらも美しく、高値で取引されている。


 加えて大人しい気性の所為でペットとしての需要もあり、捕まえようと森へ足を踏み入れる奴が後を絶たないらしい。

 それを聞いてああと納得する。


 さっき見た連中は鳥目当てで森に入ったハンターと言った所か。

 ツチノコ探して一攫千金と言うのはあながち的外れでもなかったと言う事か。

 要は猟師どもから鳥を守れと。 それを聞いて俺は小さく鼻を鳴らす。


 「まぁ、面白い話ではあったが、体を張ってやるには足りんな。 俺に何かをやらせたいならそれに見合う報酬を提示してくれないか?」

  

 鳥は沈黙。

 少し間を空けて口を開く。

  

 「アナナナ、アナタノ、シリタイコトヲ! オシエマス!」

 

 例の予言とやらを俺にも授けてくれると?

 微かに好奇心が疼くがその程度だな。 動こうという気は起こらなかった。


 「悪いが興味ないな。 知りたい事があれば自力で知識を得る。 あんたの予言は当たるし、変わった知識を得られるのかもしれんが――」

 「アナタジシンノコトデモ?」


 ――それは驚く程の鋭さで俺の思考を縫い留めた。


 ややあって内心で頷く。 なるほどなるほど。そう来たか。

 驚いたが、同時に理解が広がる。

 話に乗せる勝算があるから俺をここに呼んだと言う訳か。

  

 「ココココ、コノコタチヲマモッテクレレレ、レルノナラ、アナタノギモモモン! ノイチブニコタエ! カ、コタエヲエル、タタタタタスケニ! ナレルカモシレシレシレママセン!」


 俺の関心を引くと言うのならいい手ではあるが――。


 「……確かに興味を惹かれる内容ではある。 ただ――」

 「コココタエガ! キニキニ、キニイライラナケケレバ! イノチヲトレバイイ!」


 その答えになるほどと納得した。

 つまりは俺を信用させる為にわざわざここまで案内したと。

 これも予言とやらの力か? 一応は手順を踏み、俺の食いつきそうな餌をチラつかせ、誠意を見せる。


 ……やってくれるな。


 確かにこれは断り辛いな。

 転生者である以上、仕留めて記憶や能力を奪える可能性は低いので力技は使えない。

 考えるが、思考はかなり受ける方向へと傾いている。

 ペラペラと予言の詳細を語ったのも受ける方向への判断材料を増やす為か。


 見透かされたようで面白くはないが、俺にとって損な話ではないのも確かだ。

 もしかしたら、ジェイコブの言っていた俺の目的って奴を見つけるヒントぐらいにはなるかもしれん。

 そう考えて内心で自嘲。 我ながらどうしたんだろうな。


 奴の言葉が妙に引っかかる。 気になって仕方がないと言い換えてもいい。

 知ってすっきりしたい気持ちはあるが、何故か知ってはいけない・・・・・・・・ような気もするのだ。

 だが、知らなければどうしようもない。


 いいだろう。

 動かされたようで面白くはないが請けてやる。

 

 「分かった。 請けよう。 ただ、その前に前金を貰う」


 沈黙が返って来るが俺は構わず続ける。


 「まずは確認だ。 あんたはここに居る鳥ならどいつとでも話せる。 間違いないな?」

 「ソソソソ、ソウデデデデス」

 「なら、鳥を一匹寄越せ」

 

 再度沈黙、だが奥からは訝しむような気配が伝わる。


 「呑めないのならこの話はなしだ」


 そう言うと、鳥が小さく仰け反り、奥の壁が小さく揺れる。

 鳥が何かを口にする前に別の鳥が俺の前に出てきた。 俺をここまで案内した奴か。

 これは自分を使えと解釈していいのかな?


 反応がないので遠慮なく貰う事にした。

 前に出た鳥を抱えて口を開かせ、指を突っ込んで根を伸ばす。

 脳を頂いて記憶と知識を頂き、ついでに洗脳を施した。


 ――な、何を……。


 筥崎の動揺したような声が頭に響く。

 うん。 チューニングがやや面倒だが、確かに聞こえるな。

 恐らく特定の脳波か何かに自分の意志を受信させている感じなのか?

 

 だから個体ではなく種に反応すると。

 それが分かれば体内に鳥の脳を再現して受信できるようにすればいい。


 「あぁ、もう鳥に代弁させる必要はない。 細かい話を詰めようか?」

 

 ――……一体、その子に何をしたのですか?


 その声には訝しむような響きがあるが、それで何となく確信した。

 確かにこいつの予言とやらは本物かもしれんが所詮はアンテナ。

 得た知識を理解できていない。 それに電波に教えて貰ってない事は知りようもないと。


 ……万能かとも思ったが欠点も多いな。


 奴の能力に関しての考察を進めながら肩を竦める。


 「さあな。 とにかく、こいつは貰っていく。 それで? 依頼の達成条件は? この森に入った狩人共を皆殺しにしろと言われればやるが、現在いる分だけになるぞ」


 ――あの子達を襲おうとしている大本を何とかして頂きたい。


 「具体的には?」

 

 ――手を引かせさえすれば問題ありません。


 なるほど、そいつを始末すればいいだけの話か。

 相手を見てからになるから情報の収集が先だな。

 後の確認は――。


 「分かった。 それで達成に関してはどう確認する? 口頭での報告で信じるのか?」


 ――いえ、予言にこの場所の危機が視えなくなった事を以って完了とします。


 なるほど、良く分かった。

 

 「了解だ。 ここを狙う連中をどうにかする。 済み次第、報告に戻ろう」


 用は済んだ。

 俺は支配下に置いた鳥を小脇に抱え、サベージに行くぞと伝えて踵を返す。


 ――よろしくお願いします。


 筥崎の声を背中越しに聞いてその場を後にした。

 



 外に出た所で早速行動を開始する。

 抱えた鳥に意識を向けて指示を出す。

 さて、何故こんな戦闘能力皆無の鳥を連れて来たのかと言うと――。


 「飛んで狩人共を見つけろ。 発見次第こちらに誘導。 出来るな?」


 鳥は小さく頷く。

 送り出そうとして――おっと、その前にやっておく事がある。

 口に指を突っ込んで追加で根を送り込む。

 

 流石に素のままで送り出すのは不安なので、見た目を弄らない範囲で改造を施す。

 身体能力の底上げと傷が再生する程度だが、簡単には死なんだろう。

 処置を済ませ、送り出す。


 鳥は羽を羽ばたかせて空へ。

 俺は適当に開けた場所へと移動する。

 万が一にも筥崎の拠点の場所が割れる事態は避けたいからな。


 少し移動すると手頃に開けた場所があったのでそこに陣取る。

 筥崎の所へ行く途中に見かけた連中の様子を見る限り、生き残っている奴が居なくなっている可能性もあるか。

 そう考えると、探しに行かせた鳥は適当な所で引き上げさせる必要があるな。


 ……情報を抜きたいので、できれば一人ぐらいは生き残っていて欲しい所だが……。

 

 無理ならアープアーバンを抜けて手頃な街か村で情報収集か。

 ここに入るに当たり確実に寄っているだろうし、可能であれば雇い主の素性ぐらいは掴んでおきたい。

 しばらくぼんやりと色々考えていたら鳥から<交信>が入る。


 どうやら見つけたようだ。

 それなりに時間が経っていたが、生きていたとは中々幸先が良いな。

 俺は適当に姿を見せた後、こちらまで誘導しろと伝え、サベージに身を隠すように指示。


 サベージが魔法で姿を消したのを確認して、俺はその場でじっと待つ。

 数時間程そうしていると、遠くから悲鳴と足音が多数。

 数は二種類。


 前者は人間、後者は――多いな、例のトカゲもどきか。 

 足音がどんどん近づいてきて――。

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