第372話 「人助」

 鳥が俺の頭上を通り過ぎる。

 役目は十二分に果たしてくれたようだな。

 少し遅れて木々の隙間から数人が飛び出して来た。


 男一人に女二人。

 内、男と女一人は軽鎧にそれぞれ剣と槍。

 残りは短杖を持っている事から後衛か。


 首には冒険者であることを示すプレート。

 色は青だな。 濃い所を見ると二等と言った所か。

 

 「あ、あなたは!? こんな所で何を……いや、そんな事はいい! 後ろから群れが来ているんだ! 逃げろ!」


 先頭を走っていた男が何か言っていたが、俺は無視してザ・コアを構える。

 連中が俺の横を通り過ぎた所で起動。 相手は予想通りトカゲ共だ。

 なら問題はない。 さっさと仕留めるか。


 突っ込んで来たトカゲ共の先頭にザ・コアを突きこむ。

 接触したトカゲ共は瞬時に粉砕され、血と臓物を周囲にまき散らす。

 後は単純な作業だ。 近寄ってくる奴を片端から挽き肉に変え、距離を取る奴には<榴弾>を叩き込んだ。


 大した数でもなかったので四、五分程、構ってやったら残りは逃げ出していった。

 流石は獣、危機には聡いか。 無理に全滅させる必要はないのでそのまま見送る。

 念の為、周囲を警戒していたが特に脅威となりそうな存在は見当たらない。


 一先ずは片付いたかな。


 「す、すごい……。 あ、あの! 助けてくれてありがとうございました!」

 「助かりました!」

 「ありがとうございます。 強いんですね……」


 振り返るとさっきの連中が口々にお礼を言いながら現れた。

 何だ、逃げてなかったのか。

 まぁ、その方が何かと都合がいい。


 「一人でグイの群れを追い返すなんて……あ、すいません。 興奮してしまって……私達は――」

 「いや、礼はいい。 その前に少し質問をしても構わないかな?」


 あのトカゲ、グイっていうのか。 まぁ、今はどうでもいい情報だな。

 興奮気味の男――じゃなくて良く見たら女だな。

 格好と中性的な顔つきで分からなかったが骨格で分かる。

 

 取りあえず興奮気味に詰め寄って来る男装女を遮ってこちらの要件を話す。


 「何でしょうか?」

 「君達はストリゴップスの捕獲を依頼された冒険者と言う事で間違いないか?」


 そう言うと三人は小さく目を見開く。

 

 「え? 何で知ってるんですか? あ、もしかしてあなたも……」

 「いや、ただの確認だ。 勘違いだった場合、申し訳ないからな」


 ――いいぞ。 殺れ。


 俺は指で首を掻っ切るようになぞる。

 同時に三人の首が回転しながら宙に舞う。

 落下してくる男装女の首をキャッチ。 残りは鈍い音を立てて地面を転がる。


 その表情は困惑に彩られ、何が起こったのかまるで分っていないようだった。

 魔法による偽装を解いたサベージが連中の死体の背後からゆっくりと現れ、尻尾を一振り。

 べしゃりと尻尾に付いた血が地面に叩きつけられる。


 首から上は全員無傷か。 スマートにやれたな。

 どれ、記憶を頂くとするか。

 残った体は――使えそうな物を剥ぎ取ってサベージの餌だな。


 


 取りあえず、連中の頭に入っていた情報を整理すると。

 奴等に依頼を出したのはこの先にある国――フォンターナの町長の一人。

 フォンターナという国は国土がそう広くないので、領ではなく町や村と言った括りで分割管理している。


 領主ではなく町長と村長。

 つまりは国内では上位に入る権力者からの依頼のようだ。

 理由も単純で筥崎の話の通り、ストリゴップスの素材は貴重なので何とか手に入れたいと付け狙っているようだ。


 その証拠に依頼内容は生け捕り。

 とにかく数を捕まえろとの事だ。

 察するに数を揃えて自前で増やせる環境を整えたかったのだろう。


 実際、あの鳥共から隠密能力を剥ぎ取れば大した事のない雑魚だ。

 捕獲さえできれば飼育、養殖は可能とみているのだろう。


 町長とやらの執着も中々の物で、この手の依頼は定期的に行われているらしい。

 記憶によれば大半は全滅か送った連中の殆んどが死亡して、捜索が困難になるまで行われていた。

 危険ではあるが成功報酬が破格なので一攫千金を夢見て請ける奴は後を絶たないようだ。


 ……取りあえず、やる事は決まったな。

 

 その町長とやらをどうにかすれば依頼は完了だ。

 始末するか洗脳を施すかだが、万全を期すなら後者が望ましいか。

 居場所も分かったし、さっさと片づけようと言いたい所ではあるが……。


 その前にやる事がある。

 この森に残っているであろう、冒険者共の始末だ。

 筥崎の依頼は脅威の排除。


 そしてあの場所が発見されるという予言をした以上、未だに逃げ回っている冒険者共がその脅威の可能性がある。

 憂いを断つという意味でも始末はしておいた方がいい。

 正直、この広大な土地で散らばった人間を探し回るのは面倒だが、請けた以上はやるしかないな。


 面倒なと内心で嘆息し、冒険者共を探すべく俺は歩き出した。


 

 今回、依頼を請けてこのアープアーバンに入った人間は合計で七十人。

 記憶によれば今日で森に入って四十日目。

 その間にさっきの三人が知っている限り、三十人以上は死んでいる。


 さっき言っていたトカゲ――グイの群れに襲われた時点でその人数だ。

 全員生きているとは考えにくいので、多少数を減らしていると考えて、残りは多くても二十強と言った所か。

 取りあえず、鳥に探させているが少しかかりそうだな。


 そう考えた俺は筥崎の縄張りの近くで待機。

 寄ってくる奴がいれば始末しておきたい。

 恐らく連中が探しているのもここだろうし、予言通り誰かが来るのなら待ち伏せるのが効率的だ。


 さて、かける日数はどうした物かと考える。

 本音を言えばさっさとここを抜けて目的を果たしたい所ではあるが、それはできない。

 俺が不在の間、ここが襲われるという事態を避けたいからだ。

 サベージを残すといった手も考えたが念には念を入れておこう。


 筥崎は転生者である以上、相応に強いのだろうが動けないと見ている。

 そうでもなければわざわざ、外から俺みたいな奴を呼ぶようなリスクは冒さない。

 もしくは動けないか、動きたくないかだな。


 前者であるならばこれ以上考える必要はないが、後者であるならば恐らく奴はあの拠点を失いたくないと考えている。

 あのサイズだ。 動けばどうしても目立つ。

 結果、ここに注目が集まり、鳥共が危険に晒されるからな。


 あんな鳥のどこにそこまで執着する理由があるのかは不明だが、人の嗜好はそれぞれだし俺には関係ない。

 依頼があって、俺はそれを請けた。 それ以上は必要ないからだ。

 思索に耽ったり、時折襲って来るグイの群れを返り討ちにしたりして時間を潰していたが、その日は見つからなかった。

 

 翌日。

 グイの群れに食い荒らされて原型を留めていない死体がいくつか見つかったがそれだけだった。

 人数は六人分。 それでもまだ数が合わんな。


 翌々日。

 俺が渡った川の辺りで十五、六人ほど発見したが、半数が半死半生の状態で様子を見る限りでは完全に道に迷っているようだった。

 

 恐らく戻るつもりで進んでしまったのだろう。

 川を見て愕然としていたらしい。

 生き残りの中では最大の集団だろう。 少し悩んだが連中を始末して、街へいくとするか。


 それだけ減らせば残りが居たとしても後数人と言った所だろう。

 数人程度なら防衛にサベージを残すだけで事足りる。

 定期的に鳥に偵察を行わせればより確実だろう。


 方針が決まり、サベージにここに残るように言った後、俺は荷物を纏めて出発する事にした。

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