第345話 「光防」

 体に刺さった剣はそのままにしてハルバードを構え直す。

 さて、聖殿騎士は軒並み片付いたか。

 周囲を見ると俺の周りに居た奴は死ぬか死にかけており、残りはザ・コアと戯れている。

 後は目の前の聖堂騎士を仕留めれば邪魔者は消えるな。


 まぁ、その聖堂騎士に関しても底は見えた。 そろそろ仕留めるとしよう。

 聖堂騎士は小剣を向けたまま僅かに姿勢を前傾させる。 

 来るか。


 弛緩したのか、だらりとその体から力が抜ける。

 何だと内心で眉を顰めるがその動きに覚えがあった。 同時に床を蹴って踏み込む。

 面白い。 今のでタイミングを外して相手の懐に入る気か。

 

 初見なら引っかかったがクリステラが以前に似た技を使っていた。

 緩急を付けたステップで相手の虚を突く動き。 あの時は危うく目玉を抉られそうになったからな。

 流石に二度も引っかかってはやれんよ。


 上段に構えて振り下ろしを狙うと見せかけて柄で突きこむ。

 

 「っ!?」


 息を呑む気配、次いで急制動。 いい反応だ。

 それに合わせて攻撃を全身を使っての横の大振りに切り替えるが、際どい所で躱される。


 俺はその場で一回転した所でハルバードから手を放す。

 遠心力が乗ったハルバードは真っ直ぐ聖堂騎士へとすっ飛んで行く。

 これは流石に躱せなかったのか、小剣を盾に防御。 重たい金属音が響く。


 重量のあるハルバードが直撃したにも拘らず小剣は無傷。

 驚きはしない。 連中の専用装備の頑丈さは並じゃないからだ。


 その間に俺は胴体に刺さりっぱなしの剣を引っこ抜いて斬撃。

 力任せの振り下ろしだが、防御したばかりなので躱しようがないだろう。

 だが、流石は聖堂騎士といった所か、反応できたのは大した物だ。


 小剣で受けられる。 接近した事によりバイザー越しに聖堂騎士の息遣いと歯軋りが聞こえた。

 俺は追い打ちとばかりに前蹴り、当然の様に下がって躱された。

 よし、いい位置に来てくれたな。


 ちょうど鬱陶しいアメリアとペレルロとか言う奴と重なった・・・・

 

 ――来い。


 俺の意志に応え、近衛騎士や魔法使いを軒並み平らげたザ・コアが全身を使って大きく跳ねてこちらへと飛んでくる。

 

 ――第二形態。


 空中で変形しながら飛んで来たザ・コアを掴み、聖堂騎士に突き付けた。

 既に発射の準備は進めていたので即座に砲口に光と熱が満ちていく。


 さぁ、どう対処する? 

 躱すか? それもいい。 だが、後ろの連中は蒸発するぞ。


 もっとも防いだところで纏めて消し飛ぶだけだがな。 

 砲身がさっきまで近衛騎士を喰い散らかして得た魔力を破壊力に変換。

 

 「消え失せろ」


 発射。

 俺が何をしようとしたのか瞬時に悟った聖堂騎士は回避しようとしたが背後の存在に気付いて硬直。

 咄嗟に魔法で障壁を展開。


 次の瞬間、紅の熱線は障壁を物ともせずに貫通。

 聖堂騎士とその背後に居た連中に襲いかかる。

 今回は念入りにやるので、六秒間の照射だ。 欠片も残さず消し去ってやろう。


 アメリアは片付いた。

 これでこの国での面倒な戦いも一段落――何!?

 聖堂騎士は消し飛ばしたがその背後に居た連中は未だに健在だった。


 発射した熱線は前に出たアメリアが突き付けた剣の切っ先を避けるように散らされている。

 散った熱線が幾条の細い筋となって部屋のあちこちに熱と破壊を振り撒く。

 お陰で部屋のあちこちが炎上したり、壁に無数の大穴が開いたがそんな事はどうでもいい。 


 ……何だあの剣は?


 ザ・コアの最大火力を防ぐだけでも驚きだが、ふざけた事に鞘に収まったままだ。

 それとも鞘の能力であの状態で運用する物なのか?

 疑問が次々と噴出するが、情報が足りん以上どうにもならん。


 指示を出して攻撃を中止。

 即座に冷却と再生するように命じる。

 ザ・コアは第二形態から第一形態に変形。 損傷の再生を開始。


 残ったのはアメリアとアーヴァ、ペレルロとか言うおっさんだけだ。

 それにしても驚いた。 アレを無傷で防ぎきるとは……。

 俺は思わずアメリアの剣を見る。


 両手持ちのやや大振りの剣で、妙にでかい鞘に収まり、柄と鞘を固定するかのように鎖が複数絡みついていた。 柄は黄金で鍔の部分もそうだが豪奢な装飾を施されており、一目で上等な物と分かるが……。

 見れば見るほど妙な剣だ。 明らかに鞘から抜けないように縛られている。

 

 防がれたのはやや癪だが、それなりに戦果はあったし飛び道具が効かんのなら直接殴り殺せばいいだけだ。

 周囲では部屋のあちこちで上がった炎が激しくなり、壁に空いた穴から煙が流れて行く。

 そして部屋に残っているのは俺とアメリア達だけだ。


 残りの連中は綺麗にとは行かんが消えた。

 防がれたお陰で真っ直ぐ飛ばなかった熱線の威力が部屋に散った結果だ。

 さっきまで生き残っていた連中は残らず消し飛んだか蒸し焼きになった。


 その証拠に熱で溶けた鎧が数体倒れているのが視界の端々に見える。

 さて、あの妙な剣は警戒すべきだが、残りはアメリアとペレルロとか言うおっさんのみ。

 反応を見るに要人ではあるが戦闘能力はそう高くなさそうだ。


 可能であれば捕らえておきたい所だが……まぁ、顔は覚えたし問題はない。

 

 「……認めよう。 正直、君の事を甘く見ていた」


 アメリアは抱えていたアーヴァをペレルロに渡すと鞘に収まったままの剣を構える。

 

 「ペレルロ殿。 ここは私が押さえます。 アーヴァを連れてお下がりを」

 「アメリア殿!?」

 「構いません。 ここで貴方を失う事は避けておきたい。 行ってください」

 「……すまぬ。 主よアメリア殿にご加護を」


 ペレルロはアーヴァを抱えると壁に空いた穴から部屋の外へと駆け出した。

 追いたい所だが、最優先の標的がわざわざ残ったのだ。

 こっちを仕留めてからゆっくりと追う事にしよう。


 「一応、最後に聞いておきたいのだが、我々と共に来る気は無いか? 君の存在価値はあの儀式に耐えた時点で大きく跳ねあがった。 相応の待遇で迎え入れるが……その様子では難しそうだな」


 俺が無言でザ・コアを構えた事でアメリアも無駄を悟ったようだ。

 

 「最後に一つ聞きたいが構わないかな?」


 俺は無言で言ってみろと促す。


 「異界からの存在を受け入れた気分は?」

 「悪くないとだけ言っておこう」


 俺の答えに満足したのかアメリアは大きく頷くと懐から――眼鏡?

 取り出したのは眼鏡だった。

 この世界では回復魔法とか言う便利な代物があるので眼鏡という補助器具の出番はそう多くない。

 

 生まれつき目に欠陥があり回復魔法の効果が出辛い者や、特殊な付与がなされている物でもない限り眼鏡をかける奴は稀だからだ。 あの様子だと後者か。

 恐らく身体能力か、魔法の補助かは知らんが、戦闘力を底上げする為の物だろう。


 「では始めようか? 来るといい」


 では遠慮なく。

 ザ・コアを振り上げ――。

 

 「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!」


 不意に背後で気配。

 何だと振り返ると巨大化した加々良が失った腕を再生させながらこちらに突っ込んで来る所だった。

 こいつまだ生きていたのか?


 しぶとい奴だな。 恐らく解放する事によって引き上げた身体能力で再生力まで強化したのだろう。

 首が取れかかっていたというのにあの状態から持ち直すとは大した物だ。


 ザ・コアを起動しようとして引っかかるような異音。

 しまったな、まだ再生中か。


 それならそれで普通に殴るだけだ。

 ハルバードはさっき消し飛んだので奴が装備しているのは盾だけだが、鈍器として使うのなら充分な破壊力を発揮するだろう。


 同時にアメリアが動く。

 なるほど、さっきの会話は加々良が動けるようになるまでの時間稼ぎか。

 食えん女だな。

 

 だが、逃げないのは妙だ。

 この手の輩は保身に長けているイメージだったから加々良にこの場を押し付けて姿を眩ます物かとも思っていたが……。


 まぁいい、纏めて仕留めてやろうじゃないか。

 前と後ろから来ているが、距離が近いアメリアから対処。

 ザ・コアを振り下ろす。


 はっきり言ってアメリアの剣の扱いは褒められた物じゃない。

 下から掬い上げるように殴りかかって来たが、こちらの方が先に当たる。

 このまま頭を――。

 

 バキリと嫌な音が足元に響く。

 床が陥没して体勢が崩れたからだ。

 何だってこんな時に。


 お陰でタイミングと攻撃の軌道がずれてザ・コアが空振りして意味もなく床を破壊。

 対するアメリアの一撃は俺の脇腹に食い込む。

 体内で嫌な音が響く。 骨が数本折れたようだ。


 「おや? 当たったな? 我ながら運がいい」


 アメリアの呟きと同時に後頭部に衝撃。

 加々良の盾か。

 上半身が衝撃で前に傾き、同時に腹に丸太のような足が食い込む。

 

 息が口から洩れて体が吹き飛ぶ。

 大した威力だ。 流石に効くな。  

 権能はまだ効いている筈だが、それを差し引いてこの威力か。


 転がりながら体勢を立て直し、ザ・コアを床に突き立てて勢いを殺す。

 改めて敵に視線を向けると加々良は荒い息を吐きながら拳を握り盾を構える。

 アメリアは剣を鞘に収まったままこちらに向けていた。


 権能の証の青黒い光はアメリアに当たる前に弾かれている。

 加々良には効いているようだが気力と強化した身体能力で捻じ伏せているようだ。

 

 ……アメリアが無事なのはやはりあの剣の能力か。


 見れば見るほど奇妙な剣だ。

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