第344話 「権能」

 いや全く。 俺は実に運がいい。

 あの怪しい針を頭に刺された時はどうなるかとも思ったが、結果として上手く転がった。

 有意義な話・・・・・も聞けたしな。


 興味深い経験をしたお陰で、気分も悪くない。

 後はここに居る連中を皆殺しにして後腐れを失くせば完璧だな。

 差し当たっては目の前の加々良か。

 

 ハルバードを左腕で受けている状態だが、一対一ならそこまでの脅威じゃない。

 右手を握って腹の辺りに軽く当てる。

 加々良の視線が一瞬、そちらに向き――息を呑む気配。


 気付いたか。

 さっきくたばったお前のお友達の武器だよ。

 魔力を通して仕掛けを起動。 爪が飛び出す。

 

 爪はあっさりと奴の鎧の防御を突破しその肉体に突き刺さる。

 だが、俺の狙いはそこじゃない。

 腕を大きく振るう。 鎧はあっさりと切り裂かれ、形を維持できずに部分的に崩壊。

 

 それと同時に俺がまき散らしている権能・・の影響下に入る。

 

 「ぬ……ぐ……力が……何だこれは……」


 加々良はたまらずに膝を付いた。

 俺も喰らった事があるから分かるが、この脱力感は並じゃない。

 相当強力な魔法道具や護符の類がなければ防ぐのは無理だ。 当然ながら半壊した鎧では望むべくもない。 

 

 実際、他の連中も程度の差こそあれ相当きつそうにしている。

 もっとも症状の酷い近衛騎士に至っては立ち上がる事すらできていないしな。

 お陰で片端からザ・コアの餌になっている。


 そしてそれを助けようとしている聖殿騎士共の大半はこちらに来れないと。

 

 ――ザ・コア第三形態。


 生体兵器であるこの武器は生きている以上、食わさなければ性能を維持できないという欠点がある。

 普段なら俺が魔力なりを食わせる事によって維持しているがそれが出来なくなった場合、もしくは使い手である俺に危険が迫っており、尚且つ使用できる状態ではない場合に備えて自立行動を行う為の形態だ。


 内部の砲身はヒューマン・センチピードと同様の百足が生えて獲物を絡め取り、内部のスパイク状の歯が中に入れた物を粉砕して消化する為の口となる。

 そして喰らった肉を利用して自身を変形させて移動すら可能という使う必要すらない代物へと変貌。

 ただ、この形態は消耗が激しいので常に何かを喰らっていないと力尽きて動けなくなるという大きな欠点がある。


 ……ただ。


 周囲に動けない餌が転がっているこの状況であるならばその性能を十全に発揮できる。

 聖殿騎士に回転させた己自身を叩きつけて瞬時に磨り潰し、動けない近衛騎士や魔法使いを片端から捕まえてミキサーにかけていた。


 さて、この様子だとしばらくは邪魔が入らんな。

 取りあえず、ふらつきながら気力で立ち上がった加々良へ視線を戻す。

 

 「何を……した……」


 俺は答えずに左腕ヒューマン・センチピードを振るう。

 加々良は咄嗟に盾で防ごうとするが、残念ながら狙いはそっちじゃない。

 百足は加々良の肩口に喰らいついて引き千切る。


 「がああああああ!」


 悲鳴を無視して腕ごとハルバードを奪う。

 くっ付いていた腕を引き剥がして投げ捨て、ハルバードを握り一閃。

 刃は満足に動けない加々良の首に食い込む。


 ……おや? 思ったより頑丈だな。


 切断はできなかったが骨は切断した手応えはあったし問題ないだろう。

 食い込んだハルバードを引き抜くと、重たい音を立てて加々良の巨体が崩れ落ちる。

 俺はそれを一顧だにせずに次の獲物へ向かう。


 這い蹲って逃げようとしていた蜂女だ。

 別に怒ってないけど、散々痛めつけてくれたからお礼をしないとな? 

 その背を踏みつける。


 「あぎゃ……」


 変わった鳴き声だな?

 首だけでこちらを振り返り、ハルバードを見て目を見開く。

 

 「な、ざっけんな! あたしにこんな事してタダで済むと思ってんのか! 今なら見逃して――」


 はいはい。

 聞く価値のない妄言を聞き流して首を切断。

 虫は動物系と違って楽に首を落とせるな。


 ついでに切り落とした首を踏み潰す。

 蛍光色っぽい体液をぶちまけて蜂の頭は果物みたいに弾け飛んだ。

 よし次。


 近衛騎士や魔法使いは動けないみたいなのでザ・コアに任せておけばいい。

 俺はその間に動ける奴を仕留めるとしよう。

 振り返ると聖殿騎士達の半数はザ・コアを取り囲み、残りは俺に剣を向けていた。


 アメリアはアーヴァを抱えて下がり、ペレルロと呼ばれていた奴もその隣に居た。

 そして奴の護衛らしき聖堂騎士が剣を構えている。

 流石に重要人物は普通に動けているな。 どいつもこいつもいい装備を着けている。


 聖殿騎士共は鎧を光らせながら身構える。

 俺は魔力を更に解放して、空間にかけた権能を強化。

 くたばった蜂女なら察する事が出来たかもしれんが他の連中は何が起こっているのかすら分からんだろう。


 俺が使っているのは以前にプレタハングが使用していた権能という特殊能力だ。

 使用の際に支払う代償にさえ目を瞑れば強力な効果で、物量に差があってもこうして圧倒できるのでかなり有用だ。

 防御手段がなければ即座に動けなくなり、あったとしても防ぐ為に大量の魔力を必要とするのでかなりの消耗を強いる。


 向こうもそれは分かっているのだろう。

 俺を仕留めるべくじりじりと摺り足で間合いを詰めている。

 一足飛びに来ないのは警戒しているからだろう。


 手早く済ませたいので俺の方から行くか。

 左腕ヒューマン・センチピードを振るう。

 百足は狙いを過たず目標に喰らいつき、手近な聖殿騎士の首を刎ねる。


 そのままハルバードを構えて突っ込む。

 雑魚に構わず、まずは本命へと狙いを定める。

 逃げられても面白くないしな。


 まずはアメリアだ。

 他は後でもいい。 こいつは逃がすと面倒そうだしな。

 

 「何をしているのだ! 神敵である! 討ち取れ!」


 ペレルロの言葉に弾かれたように聖殿騎士達が殺到する。

 左腕を翳し、最初に斬り込んで来た奴を百足で捕獲。

 首に巻き付けて宙釣りにして、盾にするように後続の連中の鼻先に突き付ける。


 いきなり空中でもがく同僚の姿に驚いたのか先頭数名がたたらを踏む。

 捕らえた聖殿騎士の首を圧し折って息の根を止めた後、投げつける。

 同時に<榴弾>を並列起動。


 連射。 膨れ上がった火球が空中で弾け、前方の連中に襲いかかる。

 連続して爆発。 白の鎧は魔法に対しての防御力は高い。

 その理由はその装甲に付与された効果だ。


 ただ、それは他の魔法の防御に処理を割いている場合はその限りではない。

 俺の魔法は連中の鎧の守りを容易く突破。

 命中した連中を片端から火達磨にする。


 悲鳴が次々と上がる。

 無視して斬り込む。

 手近な障害物を適当にハルバードで打ち払う。


 中にはあちこち燃やしながら斬りかかって来る剛の者も居たが、鎧にダメージを受けた結果、魔法に対する抵抗力が落ちたら今度は権能に引っかかる。

 その証拠に不自然に体勢が崩れて膝が落ちた。


 結果、いい位置に頭が来たので斬首。

 流石にお偉方の直衛に付くだけあって、動きが良いな。

 現状、楽に仕留められるのでそこまでの脅威ではないが。

 

 攻撃を凌いだ奴や、ザ・コアと戦っていた奴の一部がこっちに流れて来て、即座に俺を包囲。

 各々剣や槍を構えて斬りかかって来る。

 連携も良い。 最初に斬り込んだ奴の動きに合わせて背後や横からも襲って来た。


 物量で対象の意識を散らすのは有効だからな。

 まぁ、今の俺なら問題なく対処できるが。

 前方に<榴弾>、同時に左腕ヒューマン・センチピードで、反応が鈍そうな奴を選択し、巻きつけて捕縛。

 

 その体を振り回して背後の連中へ投げつける。

 百足を数匹巻き付けて守りを固め、斬り込んで来た連中の剣を受ける。

 その間に背後に更に<榴弾>を叩き込む。


 俺が投げつけた奴とそれに折り重なっていた連中が炎上。

 防御に使っていた一部の百足を解いて目の前の連中の剣に巻き付ける。

 剣を引いて防御をすり抜けようとした連中が動かない得物に焦りの息を漏らす。


 ハルバードを一閃して纏めて腰から両断。

 連中から力が抜ける前に腕を大きく振って上半身を剣ごと投げ捨てる。

 さて、囲んでいた連中はこれで全部か?


 「しっ!」


 不意に気配。 下だ。

 両手に小剣と剣の長さの異なる二刀流で身を低くして斬り込んでくる奴が居た。

 ペレルロの護衛に付いていた聖堂騎士だ。


 流石に速い。 これは躱せんな。

 斜め下から斬られる。

 さっきの香丸と同様に刃が抜ける前に強引に再生して捕まえた。


 聖堂騎士は何度か力を込めていたが抜けないと判断して剣を放棄してバックステップ。

 一瞬遅れて俺の蹴りが空を切る。

 下がりながら油断なく小剣をこちらに向けて来た。


 バイザー越しでも分かる殺気が伝わって来る。


 ……それにしても……。

 

 城に入ってから近衛騎士団に転生者の聖堂騎士四人に蜂女。

 怪しげな儀式に使われてと、長い一日だ。

 そろそろ大詰めと思いたい所だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る