第12話 「前途」

 門を抜けると門番が破壊された門を見て固まっていた。

 二人は門を破壊したのが俺と悟ったのか奇声をあげて街の方へ逃げていった。

 まあいいか、殺す手間が省けた。


 俺も早足に歩き出す。

 行先は街の東側。

 元々ここへ来るのに使った南側へは行かずに、当初の目的だった街道を使わずにオラトリアム領から出て別の領を目指すため東側の山間部を抜けて、隣のアコサーン領を目指す。


 アコサーン領へ入った後はそのまま南下して王都を目指す。

 王都まで行けば流石に危険はないだろう。

 向こうに付いたら、この金を元手に商売――いや、冒険者って奴になってみるか。


 この手の世界で定番の伝説に出てくるような魔獣やドラゴンと戦ったり、誰も行った事のないような迷宮ダンジョン に挑んで凄いお宝を手に入れたり……。

 何ならこの世界を見て回るだけでもいい。

 この体ならそう簡単に死ぬ事がなく、かなり無茶もできる。

 

 ああ……いいな。こういうのいいなぁ。


 自分の可能性が広がっていく感覚。

 先の事を考えて心を躍らせる事ができる。

 前の人生では得られなかった事だ。


 楽しみだ、本当に楽しみだ。

 俺はこの世界に来て――いや、前世も含めてかつてないほどのいい気分で先を急いだ。





 その後は、特に問題なく進んだ。

 街の東側から外に出て舗装された道を歩く。

 街を抜けた所で歩調を緩めたが警戒は緩めずにいた。


 特に夜はやばそうだったので特に警戒したんだが何も起こらなかった。

 寝ないでも平気な体はこういう時はありがたい。


 何も起こっていない間は暇だったので、根の操作や肉体変化の訓練をしていた。

 やはり、喰った相手の肉体を再現する事ができるようだ。

 まずは目をゴブリンの物に変更した。


 使ってみると確かに便利だ。

 色は流石に判らないが暗視装置 《ナイトビジョン》みたいな感じで輪郭がよく見える。


 肉体変化も少し訓練した。

 全身弄ったが、適当にやったので手足の太さなどが不揃いだ。

 今回は調整をかける。動きを阻害しない程度に筋肉量を調整。

 結果、体が一回り以上でかくなって服が裂けた。

 目算で百八十五ぐらいの身長は二メートルを超えてしまった。


 ……しまった。


 直立すると視点が高い高い。

 前世では百六十四しか身長がなかったので、もっと身長あればと思った時期もあったが。こんな形で理想が叶うとは思っていなかった。


 全体的に太くしすぎたので少しだけ細くした。

 流石に筋肉を盛りすぎると体格が人間離れしてしまうので、細見とは言い難いが――まぁ、人間の範疇だよな? 


 結局、マッチョになるかならないかぐらいの体格で落ち着いた。


 まぁ、強くなってるはずだし問題ないよな?


 考えても仕方ないのでいつも通り棚上げにした。

 

 



 「ふぅ……」

 

 ――シュドラス城最上階、玉座の間。

 玉座に腰掛ける、ゴブリンの王アブドーラは息を吐いた。


 目の前には報告に来た兵と側近が跪いている。


 「で?エルフ共の鎮圧は終わったのか?」

 「はっ!現在鎮圧中です」


 報告に来た兵が顔を上げて答える。


 「ふー……。で? 何故そんな事が起こった?」

 「……地下宝物庫に捕えていたハイ・エルフが牢から脱獄。その後、奴隷区画と娼館区画のエルフを解放し、脱獄を図りました」


 報告自体はよくある話だった。捕えていた奴隷が他の奴隷を助けて脱獄を図った。

 だが、問題はそれがハイ・エルフだという事だ。

 あれは近々、売り飛ばす予定だったのだが――。


 アブドーラは「ふー」と息を吐きながら部下の報告を整理する。

 目の前の部下――シュドラス城の警備責任者によると。


 地下宝物庫に捕えていた、ハイ・エルフの親子が何者かの手引きで脱走。

 その後、監獄区画のエルフ共を解放して回り、暴動を起こしている。

 回りくどく、言い訳だらけの報告だったが纏めるとこんなに短い。


 そして、ハイ・エルフの親子を出した奴に関しては二等戦士の――名前何だったか?ノ……ノル……ノン……。思い出せんな。――から報告が上がっていた。

 報告によると、雇用主を連れずに単独で装備品を売りに来たオークがいたらしい。

 怪しかったが、通行証等は正規の物だったので通し、念のために報告してきたようだ。

 

 報告を受けた兵は、仲間に相談して一人を尾行に付け、残りはこちらに報告しに来た。

 何故一人で尾行に行かせたんだと思ったが、大方オーク一体と侮ったのだろう。

 二等は中途半端に強いせいで相手を侮る奴が多い。


 ハイ・エルフを出したという事は、地下に配置した地竜十二体と罠を突破した事になる。

 その上であの特別製の檻と手枷を破壊。しかも単独でだ。

 それに目的も見えない。


 本当にハイ・エルフの救助か?

 ならこんなに派手な騒ぎは起こさせないはずだ。


 俺の首か?

 念のため、城に残ってる1等は報告を聞いた時点でここに集めておき、兵には城内を捜索させているが地下以外では特に侵入者の報告は上がってこない。


 宝物庫の宝か?

 それなら地下ではなく上へ入るはずだ。

 地下の宝物庫は配下の給金と比較的価値の低い物が多い。


 本当に宝狙いなら、最上階――つまりはこの階層にある宝物殿を狙うはずだろう。

 こちらには、高価な魔法武器や純度の高い黄金や魔石が多い。

 

 ……というより本当に単独――いや、そもそもオークだったのか?


 不明な点が多すぎる。

 捕えんことにははっきりせんか。

 現状、考えられるのはエルフ側の攻撃――か?


 「ふー……早く鎮圧しろ。首謀者は必ず捕えろ。あぁ、後は鎮圧が済んだらお前は前線送りだ」


 目の前の部下は体を震わせた後、返事をして出ていった。

 アブドーラはまた「ふー」と息を吐く。

 本来なら失態を演じた部下は処刑が妥当だろうが、現在は余裕がないし何より勿体ない。

 

 殺すぐらいなら前線に放り込んで死線を彷徨ってもらおう。敵を減らしてくれれば上等だ。

 運よく生き残れば、失態を帳消しにしてもいい。

 早くあの森に足がかりを作って、この戦を終わらせなければ……。

 あの、薄汚いエルフ共め。


 過去を思い出して瞳に憎悪が灯る。

 アブドーラは目を閉じて吹き上がった感情を抑えて息を吐く。

 下から微かに聞こえる戦闘の衝撃と音はしばらく止みそうにない。

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