第11話 「脱出」

 細い道を抜け、俺が二等ゴブリンを消し炭にした広場に出た。 

 こちらにもゴブリンが集まっていたが特に陣形は整えていなかった。

 たぶんだが、前の部屋が突破されるとは思ってなかったらしい。


 相手するのもしんどいので、進路上にいる奴だけ剣で斬りながら走った。

 後ろの家族も俺に続く。

 二人は走りながら前にいるゴブリンに矢を打ち込んでいる。

 あ、いや、打つ前に一瞬、止まってるな。


 しかも当ててるよ。エルフの弓はすごいな。

 切りかかってくる奴は体捌きだけで躱して、矢を打ち込んだ奴が近くなるとすれ違い様に矢を引き抜いて回収していた。

 役に立ってくれればいいかな?ぐらいの気持ちで助けたのにかなりいい拾い物だったな。

 

 というか。何で捕まってたんだ?

 娘、人質に取られたんだっけか?

 広場を抜けた所で奥さんが魔法で天井崩して広場の出入り口を塞いで追撃を阻止していた。


 手筈通りとはいえ、本当にいい動きするな。

 とはいえ現状はうまく進んでいるが、上の階層に上がると通路が狭くなる。

 囲まれると拙い。


 ここからは速度が命だ。

 この通路にはゴブリンはいないようだが、上に行けば確実に居るだろう。

 上への通路に入る。出る直前でお父さんが前に出て、出口に向けて魔法を叩き込んだ。


 風の塊を撃ち込む魔法だったようで、不可視の鉄槌が出口に飛んでいく。

 出口の向こうで悲鳴が上がる。やっぱりいたか。

 俺は出口から飛び出した。


 出口の周りではゴブリンとオークが折り重なって倒れていた。 

 密集して待ち伏せたところを魔法を喰らって吹き飛ばされたらしい。

 俺は剣とギザ剣の二刀で起き上がったオークを切り倒す。


 二人斬ったところで親子が出てきた。

 俺達は通路を真っ直ぐに行かず、近くの脇道に入る。

 監獄区画だ。


 牢の傍にいたゴブリンを切り倒して、奥の詰所へ踏み込む。

 中には三人いたが奥の一人を短剣の投擲で仕留めて。

 残りの二人を剣で切り倒した。


 後ろでは奥さんが見張りの持ってた鍵で牢を開けてエルフの男たちを解放していた。

 お父さんが自由になったエルフに持ってた剣や見張りが持っていた短槍を渡している。

 奥さんが鍵束を渡して、受け取った奴が近くの階段を下りて他は通路に出た。


 解放されたエルフは俺を見て怪訝な表情を浮かべる。


 「女性は上の階に捕まっています。一緒に来てください」


 俺は有無を言わせずにゴブリンの持ってた短剣を渡して上への道を顎でしゃくる。

 エルフの男はそれを見て疑問を棚上げしたらしい。頷いて俺に付いて走る。

 通路に戻ると先に出てたエルフ達が魔法をぶち込んだり、奪った武器でゴブリンやオークと戦っていた。


 俺も手近なオークを剣で斬りつけながら走る。

 何人かが俺に追随する。

 通路からエルフが次々と出てくる。


 長い事酷使されてフラフラな奴もいるが、ほとんどが疲労を感じさせない動きを見せた。

 ゴブリンへの憎悪で目がギラついてる。

 近くの通路からお父さんが出てきて目が合った。


 「後は好きにして構いません! お互い生きてたらいいですね!」

 「ありがとう! 今度会えたら何か礼をさせてください!」


 すれ違い際にそれだけ伝えて俺は上に走った。これで彼と俺は関係なくなったな。

 俺がお父さんに頼んだ事はこの階層でエルフを解放して回る事だった。

 エルフが暴れてくれれば俺も逃げやすくなるし、エルフの連中も助かる目が出る。

 

 お互いにとって悪くない話だった。

 ゴブリンとエルフが正面からやればエルフに軍配が上がるのは明らかだった。

 長い囚人生活で弱ってるのが不安要素だったが、この様子だったら結構いい所まで行けるだろ。


 さっきやりあった二等ゴブリンみたいに等級持ちでもない限りエルフを圧倒するのは難しいだろう。

 とは言っても時間が経てば増援が来て数に潰されるだろうが…。

 上の階層――娼館区画がある階層に戻ってきた。

 近くの脇道を指さす。

 

 「その奥です! 個室と奥に大部屋が複数!」

 

 俺の後ろにいたエルフが娼館区画に殺到する。

 奥で悲鳴や叫び声が聞こえる。

 これだけやればいいだろう。


 エルフの皆さんには精々頑張ってもらおう。

 俺は娼館へは向かわずに出口に向けて走る。

 途中でゴブリンやオークと出くわしたが、後ろを指さして叫ぶ。


 『エルフガニゲタ! エルフガニゲタ!』


 ゴブリンはオークやトロールを連れて奥へと向かっていった。

 俺は同じような事を叫びながら、地下区画から出ていく。


 地上に出たがそこは武器を構えたゴブリンやオークが続々と向かってきた。

 どうやら地下に降りて鎮圧に向かうらしい。

 エルフの皆さん――まあ、頑張ってくれ。


 門の近くまで戻ってきた。

 やっとここまで来たか。

 後はここを抜ければ――。


 門まわりには開閉役がいるはずだが、誰もいなかった。

 妙だなと訝しんでると、足に何か当たった感触がした。

 当たった足が落ちて膝をつく。

 ローブを捲って膝裏を見るとバックリと切り裂かれていた。


 何をされた!?


 後ろからゴブリンが三人歩いてきた。

 腕輪を付けてる。等級持ちか。

 見たところ三人とも二等ゴブリンか。


 その内の一人が輪っかみたいな物を指で回していた。

 戦輪チャクラムって奴か、俺の足を切ったのはあれか。

 残り二人は小手と一体化した剣、カタールと何だアレ? 釘バット?


 あぁ、記憶にあった。マカナっていう魔力付与エンチャントした黒曜石を木で挟んだ武器らしい。

 武器としての分類上、棍棒らしい。

 変わった武器持ってる奴が多いな。


 カタールとマカナが俺を挟むような位置取りをして戦輪はこっちの隙を窺ってるのか姿勢を低くして戦輪を指でクルクル回し続けてる。

 俺は二刀を構えながら身構える。


 とりあえず背中に背負っている宝物入りのボロ布の結び目を解いて落とす。

 それを隙と見たのか戦輪が飛んできた。

 カタールとマカナは動かない。


 戦輪をギザ剣で弾く。

 弾いたタイミングで残りが動いた。

 マカナが腹を狙ってフルスイング。もう片方の剣で受け…たら折れた。


 咄嗟に剣を放して後ろへ落ちたボロ布を飛び越える。

 背中に衝撃。いつの間にかカタールが後ろに回り込んで俺の背中にカタールを突き立てていた。

 俺は傷を修復してカタールを癒着。カタールを抜けなくする。


 カタールを引き抜こうとして抜けない事に一瞬、動揺したが手を放して距離を取ろうとする。

 逃がさないけどな。

 首を掴む。仲間が捕まった事に動揺せず、マカナが俺の頭を叩き割ろうと振り下ろしてくる。 

 その左右から逃げ道を塞ぐように戦輪が飛んできた。


 掴んだカタールを盾にしてマカナを受け止める。カタールの頭が爆散した。

 うわっ顔にかかった。

 釘バットにしか見えないのにすごい威力だな。黒曜石に付いてる魔力付与の効果か?


 マカナの攻撃は防いだが戦輪はどうにもならなかった。肩と脇腹に刺さる。

 うん、戦輪は大した威力じゃないな。

 首や関節狙われるときついが、それ以外なら最低限の防御でいいか。


 脇腹に刺さった戦輪を抜いて、マカナの脇腹に叩き込んだ。

 マカナが悲鳴を上げて距離を取る。

 

 戦輪に折れた剣を投げつけて代わりに刺さりっぱなしのカタールを抜いて空いた手で握る。

 マカナは斬っても突いても死なないどころか気にもしない俺に恐怖を感じてるのか少し及び腰だ。

 戦輪はいつでも投げられるように構えは解いていないが、攻めあぐねている気配がする。


 『強い。ザーギが殺られるわけだ』

 『ノルディンも殺られちまった。実力自体はそこまでじゃあないが、どうなってる? 斬ってもまるで効いてないぞ』

 

 相談し始めたぞ。


 お陰で何となくだが事情を察した。

 要するに俺はここに来てすぐ怪しまれていて、尾行しようという話になって尾行したのが話に出ていたあの二等ゴブリン――ザーギか。もう死んでるから名前知っても意味ないけどな。


 んで、ノルディン君が俺の足元でくたばってるカタール持ちか。

 どうでもいいけどノルディン君、俺が殺した事になってるけど殺ったのお前らだろ。

 もう逃げてくれないかな。好き好んで戦いたいわけじゃないし殺すのめんどくさいし。

 ラプトルを散々喰ったから今のところは腹具合も落ち着いてるしな。


 マカナは戦輪の隣まで下がったところで声をかけてきた。


 『おい! その荷物を置いていくなら見逃してやってもいいぞ!』 

 『そうだな、荷物を諦めるなら門を開けてやる』


 え? お宝置いてけって?

 お断りですと言いたけど、一部持っていっていいなら諦めるか?


 『ハンブンナラオイテイッテモイイ』


 俺の返答に二人は驚いたように仰け反った。 


 『……どうする? 置いていくって言ってるぞ――』

 『いや、俺に言われても――』


 何か反応がおかしいな、そこは「ダメだ」とか言うところじゃないのか?

 あ、分かった。こいつら時間稼ぎしてるのか。

 騙そうとしやがって、けしからん奴だな。


 距離を取ってくれたのは好都合だ。

 

 『ジカンカセギニツキアウキハナイ』


 二人は目に見えて動揺する。分かりやすいな。

 

 『ちっ、バレたぞ! 一等はまだ来ないのか!』 

 『オークのくせに勘がいい奴だな。手柄を独占できないのは痛いが仕方ないか。おー――』


 言わせねーよ。

 二人に<風Ⅰ>を叩き込んだ。戦輪が血煙になってマカナの体半分がズタズタになった。

 俺は素早く指輪を付け替えて、奥の通路に<地Ⅰ>ぶち込んで後続がこられないように潰す。

 更に付け替えて、今度は門に<風Ⅰ>を叩き込む。でかい傷はついたが壊れてない。


 しぶといな。指輪を付け替えてもう一発。

 傷がでかくなった。まだ、壊れんか。

 更に付け替えてもう一発。あ、壊れた。


 連射したから片手の指がなくなったな。

 呪いで黒くなった患部を喰いちぎる。

 指が再生を始めるのを確認して反対側の指に指輪を付けようとしたら、小さな異音が指輪から聞こえてきた。


 ん?

 よく見ると指輪に亀裂が入っていた。

 うわ、拙いなこれ。

 状態を見ようと指輪に顔を近づけようとしたら細かい音を出して指輪が砕け散った。


 困ったな。魔法が使えなくなった。

 ………まぁ、いいか。門壊れたし。いい買い物だったな。

 短い付き合いだったけど、指輪君お疲れ様。


 ボロ布を背負い、死体の近くのマカナを拾って状態を見る。

 細かい傷はあるが使えそうだな。頂いておこう。ついでに無事な戦輪も拾っておいた。

 マカナを腰に吊り、戦輪をポーチのベルトに引っ掛けた。


 よし、行くか。

 俺は破壊した門から外に出た。


 あ……通路潰しちゃったけどエルフのみんな逃げられるかな?

 まぁ、いいか。どっか他に出られるところあるだろ。たぶんだけど。

 さよならシュドラス城。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る