第10話 「親子」
体の修復と改造は相当に燃費が悪かったらしい。
今までにない飢餓感だ。ちょっと我慢するのがしんどい。
幸いにもさっき殺したラプトルの死骸がその辺に転がってるので頂くことにしよう。
もう不味い不味くないとかどうでもよくなってきたな。
相変わらず喰ってたら歯が折れるので、いい加減うんざりしていたので顎の骨や歯を改造した。
顔の造形が変化しない程度に頑丈にした。
並行して根での吸収を行う。これやると食事時間短縮できるな。
細かい所で何が起こってるのか理解できないが、とりあえず頑丈になるように意識した。
結果、歯も折れずに食が進んだ。
六頭食い尽くしたところで腹具合が落ち着いたが、おかしいな?
誰も来ない?
そろそろ確認しに来る奴が来るかな?とも思っていたが妙なことに誰も来ない。
まぁいいか。
鉄格子も閉まったままだし、この後もしんどくなるだろうから喰い貯めておこう。
誰か来るまでは食事続行だな。
「ええー……」
思わず声を上げた。
全部食い尽くしたにもかかわらず、誰も来ない。
閉じ込められた?
もしかしてさっきのゴブリンが単独で俺を処理しようとして隠したとか?
よくある手柄独り占め的な奴か。
来ないなら来ないでいいか。
なら鉄格子どうするかな。
とりあえず来た道ではなく奥への道に嵌まってる鉄格子を見る。
とても頑丈そうだ。見た感じ上に昇降して開けるタイプだろう。
こういうのって定番はどっかにハンドルみたいなのが隠れてるんだけどな。
周りを適当に叩いたり触ったりする。
触ってると感触が違う所があった。
あ、本当にあった。
壁の一部分が外れて、暗い穴が口を開けていた。
手を突っ込んでみた。
レバーみたいなのがあったので引いてみたら、穴から矢が飛んできて心臓が串刺しにされた。
罠か。俺には効かないがな。ぶっちゃけた話、もう心臓いらないような気がしてきた。
矢を引き抜いてその辺に投げ捨てる。
再度手を突っ込んで穴を調べる。レバーの他には――。
さっき引いた奴の後ろにもう一つあった。あぁ、これは引っかかるな。
引くと鉄格子がゆっくり上がり始めた。
さて、細かい事は置いといてまずはお宝と対面といくか。
鉄格子の奥の通路を少し歩くとまた牢屋があった。
これも記憶になかった。
またか…この記憶不備だらけだぞ。
覗いてみる。
上と同じくエルフが捕まっていた。
上で見た連中よりイケメンと美女だった。
こいつらもお宝扱いって事か?
よくよく見ると何か妙に耳が長いな。
もしかしてこいつらあれか?奥地に居るハイ・エルフって奴か?
そんな事より奥の扉だ。
鉄製の両開きの扉、頑丈そうな錠前が三つ。
試しにその辺に落ちてた岩を叩きつけてみたが無傷だった。
その辺の壁に鍵がぶら下がってるなんて都合のいい話もなかった。
どうしたものか――って魔法使えばいいか。
火系統は中まで燃えたら嫌だな、風で斬るか地で岩ぶつけるか…か?
やってから考えるか。
まずは<
手をかざして発射。
轟音。
「えぇー……」
傷でも付けばいい方かな?とも思ったが、扉自体が派手に変形した後、中へ吹っ飛んでいった。
「すごいなこれは」
思わず呟く。
言ってるうちに指がボロっと崩れ落ちたので患部を喰いちぎって指を再生可能にする。
指輪を付けなおして中へ入る。
中は宝物庫というだけあって凄まじかった。
金塊、銀製の食器、何か高そうな剣や防具、貴金属など。
これは凄い。苦労したかいがあったな。
全部は持っていけないので、持ち出すものを選ぶとしよう。
金塊を持てるだけでいいか。後は魔法装備の類で使えるのがあれば何点か頂こう。
とは言ったもののどれにするか…。
まず、腕輪四つ、指輪七つ。あるだけ全部だ。
見たところ、ただの装飾品のようなのでポーチに突っ込んでおいた。
次に武器類だ。とは言っても武器じゃなくて式典などに使う装飾用の剣だった。
何か刃がギザギザしてる奴があったのでこれにしよう。使いにくそうだけどマシなのがこれしかないな。
鞘に収まらないので、腰のベルトに引っ掛けた。
後は、柄の長いハンマーがあったのでこれも頂く。
武器防具の類は極端に少ないな。
ほとんどが金塊で後は貴金属、宝石類だ。
もしかしたら、武器として使える分は別にしてるかもしれないな。
後は――何だこの黒い布?
最初は敷物かとも思ったがローブらしい。ちょうどいい。
愛用のボロ布君が傷んできたからこいつと交換しよう。
……ボロ布君、燃えたりラプトル共の爪やらでボロボロだな。
ポーチに畳んで突っ込んでおいた予備を出して、広げて金塊を可能な限り包んでおいた。
黒のローブ(フード付き)に腰にはギザ剣、肩にはボロ布に包んだ金塊。
念の為、宝石類はポーチに入れる。
よし、出るか。
宝物庫を出る。
後は、何も考えずに外まで突っ切ろう。どうせ広場辺りで待ち構えてるだろうし。
「あの……」
声が聞こえた。誰だ?
ああ、牢屋のハイ・エルフさんか。
ごめんね。どうでもいいから忘れてたよ。
「あの――もし、そこの方」
牢屋に近寄ってみる。
「あなたは――いや、言葉解りますか?」
少し迷った後。
「ああ、解りますよ」
返事をした。
睨んだ通り、捕まってるのはハイ・エルフだった。
聞いてもいないのに身の上話を始めたので取りあえず聞いてみたが、ぶっちゃけ上の連中とそんなに変わらなかったので時間の無駄だった。
山に近い村に家族で視察に行って、夜襲にあって、捕まって、檻に放り込まれました、以上。
珍しいハイ・エルフなので他と違う扱いされてるみたいだけど、連中にその辺の価値が理解できてないっぽいからその内、男は掘られて、女は突っ込まれて娼館送りだろう。
牢を覗いてみる。イケメン男一人と美人の奥さんとその娘だろう子供が一人。女の子か?
「話は分かりました。あなた方は私に何を求めているんでしょうか?」
ん? 私? 喋り方がロートフェルトに引っ張られてるのか? まあいいや。
「ここから逃げたいんだ。出してくれませんか?」
「出すだけなら構いませんよ? ですが、あなたは見返りに私に何をしてくれるのですか?」
「……ここから出られたら必ずお礼はします。ですから――」
基本的に他人っていうのは裏切るからなー。
どうせあれだろ?
1.外に出す。村に財産があるので村まで送ってほしい。
2.村に付く。弓矢構えた兵士に囲まれた上に難癖付けられて射殺。
って感じの流れが、払えなかったり都合悪くなったりで発生するんだろ?
条件はこっちから出そう。
「分かりました。ですが、お礼は結構です」
「……え?」
「その代わり私の頼みを1つ聞いていただけませんか?」
「あの、頼みというのは――」
「簡単な事ですよ」
俺は『頼み事』の内容をハイ・エルフのイケメンお父さんに話し始めた。
俺のお願いを快く了承してくれたので、牢から出すことになった。
さっきの宝物庫の時と同じで強化した風Ⅰ叩き込んで牢を破壊した。
二回目なのでさっきよりコントロールはマシになったと思う。
中の人達が無傷だったからマシになった――はず。
中の親子を外に出した後、両手首に付いた手枷を<風Ⅰ>で破壊。
指が崩れるところと生えるところはローブの袖に手を引っ込めて隠した。
破壊した手枷はつけてると魔法の発動を阻害して筋力を低下させる機能があるらしい。
さて、助けたはいいが彼らは戦力としてどの程度のものなんだろうか?
確認してみると、お父さんは弓と風魔法が得意らしい。
奥さんは弓と地魔法、娘は戦力外。
食事は定期的に出てたらしくそこまで衰弱していないため戦闘は問題なくこなせると言っているので少し当てにしておこう。
宝物庫に弓はなかったので二人は魔法で頑張ってもらおう。
娘は――まあ、邪魔にならないならいいか。
とりあえず、丸腰はよろしくないのでお父さんは宝物庫から装飾付きの剣を奥さんは――いいか。
準備もできたので出口へ向かう。
陣形としては俺が先頭、その後ろにお父さん。更に後ろに奥さんと娘。
基本、俺が前に出てお父さんが援護。奥さんは娘を見つつフォロー担当。
頭数もいないし俺に指揮や連携なんて芸当は不可能だ。
どうせ短い付き合いだろうし、せめて足を引っ張りあわないように役割分担だけはしておこう。
お父さんの方は俺の魔法やら素性やらに興味があるみたいだけど「お互いのため知らない方がいいですよ」と言って煙に巻いておいた。その後は、上の階層に上がるまでの流れを打ち合わせしておいた。
通路を抜けてラプトルと死闘を繰り広げた広場に戻ると、弓矢と木製の弩(クロスボウ)を構えたゴブリンが包囲していた。
人数は弓十、弩六、その後ろに剣八、槍五、残りは指揮官っぽい鎧と装飾剣装備が1。
『お前らは包囲されている。おとなしく武器を捨てるなら命だけは助けてやる…そっちのハイ・エルフは俺と一緒に来てもらうぞ?』
そんな事を言いながら、指揮官ゴブリンが奥さんの方見ながら舌なめずりしている。
他に言う事はないのかこいつは? 何するか顔に書いてるぞ。
亜人語なので何言ってるか分かってないけど奥さんは身の危険を感じたようだ。
娘を抱きしめて少し後ろに下がる。
指揮官が前に出るとかこいつら正気なんだろうか?
話を聞いてやる必要もないので手をかざして<
巨大な岩の塊が指揮官の方へ飛んでいく。
『な!?』
指揮官とその近くにいた奴が岩に潰された。
生き残りが弩や弓で矢を射かけてくるが、お父さんが魔法で風の障壁を出して防ぐ。
話には聞いてたが便利だな。一回解いてしまうと詠唱に時間がかかるのでそのまま維持してもらう。
俺は指輪を別の指に付け直し、前に出て手近に居た弓を持ったゴブリンの頭にハンマーを叩きつけて頭を陥没させてやった。
弓と矢筒を奪って奥さんへ投げ渡す。お父さんは障壁を操作して弓矢を通す。
奥さんは受け取ると慣れた手つきで矢を引き抜いて弓を構えて射る。
構えて撃つまでの時間が恐ろしく短い。
しかも早い。放ったと思ったらもう次の標的に矢を打ち込んでいた。
喰らった弩持ち二体は額と片目を射抜かれて崩れ落ちた。
俺も負けじと槍持ちに掬いあげるようにハンマーを振りぬいた。槍持ちの頭が弾け飛んだ。
他を仕留めようとしたところで手元に違和感。
ハンマーがいきなり重くなった。
無視して体を回転させて振りぬいた。
弩持ちの頭が飛んでいった。
最初の<地Ⅰ>で指揮官と剣三、槍二が潰れた。
俺が弓一、弩一、槍一。
奥さんが弩二。あ、弓一人仕留めた。
これで残りは剣五、槍四、弩三、弓八。
飛び道具持ちを早めに仕留めないとお父さんが動きづらい。
剣持ちが三人同時に切りかかってくる。正面をハンマーで叩き潰した。
そろそろ持てない重さになってきた。これは振れば振るほど重くなるらしい。
何だこれ使えないにもほどがあるぞ。
残り二人は体を回転して遠心力を乗せたハンマーで叩き潰した。
回転は止めずにハンマーを弓でお父さんを狙ってる奴にぶん投げて撃破。
残り剣二、弓七。
奥さんは追加で弓を二人射殺したところで矢が尽きたらしい。弓残り5。
お父さんはさっきから風の盾を維持していて動けない。
弓持ち共はお父さんを仕留めれば勝ちと理解したのか矢を射かけてくる。
風の壁に阻まれて届いていないが。
俺は剣を抜いて、槍と剣持ちの前に立ちふさがる。
風の障壁は飛び道具に対しては効果が高いが近接には弱いのでこいつらを通すわけにはいかない。
前衛のゴブリン共は先に俺を排除する事に決めたらしい。
残りの槍が一斉に突きを放ってきた。
体で受ける。四本の槍が俺の腹に突き刺さる。
残りの剣が俺の首を狙って剣を振りかぶる。
俺は冷静に片方の首を剣で刈り取り、もう片方の剣を肩で受け止めた後、頭を掴んで喉を喰いちぎった。
剣残ゼロ。
槍持ちは、槍を引き抜こうとしてるが抜けない。
さっき思いついた手を使うか。
腹の再生を促進させて傷に癒着させた。
槍持ちは槍を手放して下がる。手放したタイミングで再生を更に促進、槍を押し出した。
抜けた槍を投げつけて持ち主に返した。大した距離でもなかったので面白いように命中した。
肩や腹に槍が刺さって悶絶してる連中の首を片端から刈り取った。
槍残ゼロ。
前衛が居なくなったので残りの後衛は逃げ出そうと出口に殺到した。
出口に入ろうと固まったところで<風Ⅰ>をぶち込んだ。
残った連中は纏めて血煙になった。
お父さんは俺の戦い方に驚いていたが、思い直して無事な弓と矢を奥さんと一緒に回収していた。
ハンマーはもう駄目だな。持てなくはないが重すぎる。
呪いで黒くなった部分をお父さんたちに見えないように喰いちぎっておく。後は治るに任せよう。
お父さんたちは弓矢の回収を終えたようだ。
俺は頷いて外への道へ足を向けた。
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