セイ!ユウ!

ポストーク

告白代行!?

「——やぁみんな!オレは作家を目指す、

 読家どっか高校2年生、

 矢鎌やかまセイ!ここはいつもの教室。

 今日も楽しくサブカルクソ3人組で

 しゃべってるトコなんだ!」


「…いきなりナレーション始めるの、

 やめてもらえる?」


「いまエラソーに口を挟んできた女子は

 浅村あさむらハナコ!

 最初はメガネっ娘の超美少女かと思ったけど、

 ひとたび口を開けば声優、声優、声優!

 吐き気を催すほどの腐女子でございました!

 オマケにうるさい、騒々しい、かまびすしい!」


「その1パラグラフ、

 そっくりそのままお前に返すわ!」


「好きな男性のタイプは声のイイ男!

 …オレじゃあダメなのかい?」


「勝手にアタシのセリフ創らないで。

 アタシが欲しいのは

 伝説の老兵みたいなシブい声よ!

 アンタみたいなポケ〇ン映画で

 ナレーションしてそうなボイスじゃないわ!

 大体やかましいのよペチャクチャとぉ!」


「ハナコは廊下へ駆け出した。

 ああっ!待って!別に怒んなくたって!

 …こりゃあジュース一本

 おごらないと治んないな。」


「…」


「…ボクは持知もちユウ。

 メカクレ無口少年さ。

 ほら、今もセイに声をつけてもらわないと

 喋れない人見知り。

 …いやお前、人見知りってレベルじゃないよな?

 何年の仲だよ!?

 …なになに? ”セイ、実はボク、

 最近気になってるコがいるんだ”…?」


「…」


「いつも顔を下に向けたユウが、

 さらに背を丸めて縮こまる。

 ——どうやら本気らしい…

 どこで盗み聞きしていたのか、

 クラスメイト全員の視線がユウに向けられる!」


「…」


「”お前が全部喋ってるせいだろ”?

 あ、ほんとだ。ごめんなさい。」


「…」


「まあまあ、誰にも言わないから、

 オレだけに聞かせてくれよ。」


「…」


「ごにょごにょ。え!?嘘だろ!?ハナ…!?

 教室中にザワメキが広がる!わ、やべ。」


「…」


「…え?ハナが詰まって声がでない?なぁんだ。

 みんなため息をついて解散ムードになった。

 ふぅ、危なかった。」


「放課後、オレとユウは

 ひそひそと話しながら廊下を歩いていた。

 おい、さっきのハナシ、本当なのか?」


「…」


「わぁ…マジで大好きなんだな、ハナコが。」


「…」


「…え!?今日告白する!?どうやって!?

 だってお前今日まで一回も

 声出したことなかったじゃん!?」


「…!」


「”今日ならいけそうな気がする”じゃないよ!」


「…!…!」


「ええっ!

 もう体育館裏まで来るよう手紙渡しちゃった!?

 どうすんのよ!…ん?待てよ…おお!

 こうすればいいじゃないか!

 オレが一連のセリフを言うから、

 お前はそれに口パクを合わせるんだ!」


「…!?…!」


「いやいや、心配すんなって。

 声もなるべくアイツの好きな

 シブいヤツにしてやる。」


「…」


———————————————————————


「ついに体育館裏まで来た。

 ユウは緊張しているのだろう。

 度々身震いをして、

 顔中から汗を吹き出していた。

 おい、カタくなりすぎんなよ。これで汗ふけ。」


「…」


「ユウは受け取ったティッシュで

 思いきり鼻をかんだ。

 そうじゃないだろ、ばっちぃなぁ。

 あ、ハナコがやってきた。

 オレは急いで柱に身を隠す。」


「(”オレは急いで柱に身を隠す。”

 じゃないわよ、全部バレバレよ)」


「…」


「で、何?」


「オレはこの4分間で必死に身につけた

 イケボをだそうと息を整えた。」


「…俺と付き合ってくれキミに伝えたいことがあ…」


「…何が起こったんだ!?

 今のはオレの声じゃない。

 こんな唐突に言わないし、

 そもそもこんなシブい声は出ない。」


「…え?ウソ…なにその世界最大のイケボ…」


「…ありがとう、セイ。

 君のティッシュのおかげで

 俺の10年来の鼻づまりが治ったよ。」


「そんなバカな。」


「さ、改めて、俺と付き合ってくれ、ハナコ。」


「えぇ、もちろん、最高!」


「2人は早速手をつないで、

 校門の方へ歩いて行った。

 2人を失ったオレは、

 ただ柱に向かって喋り続ける孤独な変人だった。

 …でも話すことはやめられなかった。

 やめたくなかった。

 オレはひたすら、

 喋り続けることを選んだんだ。」






「…ということがあって、

 オレは作家になったんだよ。」

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