第4話
「魁斗ッ!」
息も絶え絶えに3年2組教室に駆け込むと、夕焼け色に染まる景色を眺めていた青年が
「…良かった。来てくれたんだね、雅音」
と振り返って小さく微笑んだ。
緩い黒髪、眠そうな瞳、息を呑むほどに白い肌…。
…ああ、魁斗だ。今日一日ずっと会いたくて仕方が無かった、私の最愛の人。
「ごめんね、今日は一回も会えなくて。言い訳すると、来週の選挙の関係で生徒会が立て込んでたんだ」
「…せやったん…」
「…紫織から聞いたよ。僕が何もしなかったせいで、折角の一日を落ち込んで過ごしてたって。…恋人として失格かなあ。本当は一番に言わなくちゃいけない立場なのに…こんな後に回って、情けないよね」
切なげに眉を寄せて、魁斗は寂しげな微笑を零した。茜色の西日が俯いた彼を照らして、真っ白な顔に微かな陰影を映す。
…こんな時なのに、綺麗だなんて思ってしまった。まるで満月の夜の桜だな、なんてぼんやりと思っていると、不意に彼は「でも」とこちらへ歩み寄って来る。
「…誰に何を言われたって、僕は雅音を離す気は無いよ。こんなにも遅れて都合が良すぎるかもしれないけど…それでも、僕は雅音の隣にいたいから」
「……っ」
首元に手を伸ばした魁斗に思わず目を閉じると、擽ったい感触の後に掛けられる「目、開けて良いよ」という優しい声。携帯カバーについた鏡で確認してみれば、首に巻かれていたのは黒い…。
「…チョーカー?」
「ん。雅音、『黒い色のチョーカーに憧れてる』って夢咲ちゃんに言ってたんでしょ?この間話した時に聞いたよ。…本当はこの間の一年記念に渡そうかと思ってたんだけど、流石に重いかなって」
「…そんな訳あらへん。うちは…魁斗からのものなら、何だって嬉しいで」
「?…そっか」
チョーカーにあしらわれた黒い薔薇に触れながら、魁斗は「…雅音、誕生日おめでとう」とはにかみながら囁く。
いつも通りのその笑顔は、きっとこれ以上にないくらい優しくて。「おおきにな」なんて微笑んだ私は、愛しい人の緩やかな黒髪にそっと手を伸ばした。
#神楽雅音誕生祭 槻坂凪桜 @CalmCherry
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