第3話

「雅音先輩!誕生日おめでとうございます!」


 久しぶりに剣道場へ遊びに行くと、ドリンクボトルを運んでいた可愛いマネージャーがこちらへと笑顔で駆け寄ってきた。

「一葉!仕事も板についたなあ、久しぶりやね!」

「お久しぶりです!ごめんなさい、朝と昼に先生に呼ばれてて…」

「全然気にせんといて!うちが勝手に遊びに来ただけやし!」

 Tシャツの背中に『桜楼剣道部』の文字を背負った後輩と話していると、不意に聞こえて来る「夢咲」という気だるげな声。

「あと少しで休憩に入る。ボトル早く…って」

「あ…悠馬先輩」

「…久しぶりやね、悠馬」

「…お久しぶりです、雅音さん」

 剣道場の照明を背負う、背の高い濃紺のシルエット。

 …佐伯悠馬。桜楼剣道部の現在の主将で…私の前で戸惑うように慌てるマネージャー、夢咲一葉の恋人。

「悠馬、ちゃんと主将しとるんやね。うち、ちょっと心配しとったさかい。元気そうで一安心や」

「…剣道部はもう大丈夫ですよ。部員は全員一人前ですし、優秀なマネージャーだっているんですから。雅音さんは心置きなく受験勉強に励んで下さい」

「大丈夫やで、うち剣道で推薦来とるさかい。…宮城屈指の剣道の強豪に行くつもりやさかい、まだ剣道出来るんやで」

「…やっぱり雅音さんらしいですね。俺が今まで出会って来た中で、雅音さんほど剣道が好きな人はいませんでしたから。…でも、少しは他の事に目を向けたらどうでしょうか。例えば…『ソレ』とか」

「?」


 悠馬が指差した先…制服のポケットを見ると、はみ出していたiphoneの画面がメッセージの着信を通知していた。内容は一行だけの短いもの。そして、差出人は…。


「……ッ!?」

「…早く行ってあげたらどうですか。悔しいですけど、雅音さんが一番生き生きしているのは、剣道をしている時でも、ここにいる時でもなくて…『その人』といる時なんですから。…雅音さん、今日誕生日ですよね。おめでとうございます。…そして、今日くらい最後まで笑っていて下さい」


「…うん…おおきにな、悠馬…!」



 無愛想な後輩に精一杯の笑顔を浮かべると、私は『彼』の元へと走り出した。


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