怖い話12【デス・オア・トリート】1200字以内

雨間一晴

デス・オア・トリート

 ピンポーン


 玄関を開けると少女が立っていた。


「……」


 小学生くらいの少女は、何も喋らずに両手を差し出している。ボサボサなオカッパヘアーに目が隠れていて表情が分からない。腕には無数の傷があり、血が白いワンピースにも滲んでいた。


 俺は、幽霊かと身構えてしまったが、なるほど、そうかハロウィンか。


「ちょっと待っててね」


 台所からアーモンドチョコレートの箱を持って玄関に戻ると、玄関に少女が入ってきていた。両手を差し出している。


「あはは、入ってきちゃだめだよ。これ、ごめん少し食べちゃってるけど、どうぞ」


 少女はチョコレートを黙って受け取ると、静かに出て行った。

 隣の子だろうか、うちのマンションに、あんな子は居なかった気がするけど。


 俺は気になって、玄関の向こうが見える、インターホンカメラのモニターを点けた。

 玄関を出てすぐの所に、少女は立ったまま、チョコレートを食べていて、その手は震えていた。


 ふと、エレベーターの階数が点滅して、誰かが登ってくるのを確認すると、少女は急いで向かいの部屋の中に入って行った。

 隣人のお子さんか、初めて見たな。


 到着したエレベーターから、男女が降りてきた、隣人だ。歳は四十ぐらいだろうか、ドラキュラと魔女の仮装をしている。緑色の妖精の格好をした男の子と、手を繋いで楽しそうに部屋に入っていった。


 おかしい、隣人が子供を連れているのは見た事がなかった。


 翌日、ゴミを捨てる際に、隣人の奥さんがいたので、探るように話しかけてみた。


「あの、すみません。先日、子供の声が聞こえたのですが。うちのマンションに、お子さん連れの方とか引っ越して来られましたっけ?」


 隣人の奥さんは、少し目を開いて、驚いた顔をしてから、隠すように淡々と答えた。


「いえ、知りません。テレビの音が漏れたのではないですか。失礼します」


 足早に帰っていく隣人の置いたゴミ袋に、緑色の妖精の衣装が、切り刻まれて捨てられていた。


 どうもおかしい、警察に連絡するべきかと、部屋で考えていると。


 ピンポーン


 またあの少女が立っていた。


「また来たのかい?君はそこの、お子さんだよね?」


「……」


 少女は何も答えずに、首を横に振った。


「本当かい?ちょっと中に入って、話を聞かせて」


 少女を玄関に迎え入れると同時に、隣人のドアが開く音が聞こえた。少女が靴を履いていないのに、初めて気づいた。足の爪が割れて血が出ている、これは仮装じゃない。急いで鍵をかけた。


「まずい、中に入って静かにしてて、またお菓子あげるから」


 ピンポーン ドンドンドン


「おい!開けろ!そこにいるんだろ!」


 ドア越しに隣人の男女の悲鳴に近い絶叫が響いている。俺は急いで警察に電話した。


 少女はリビングで付いたままのテレビを見ていた、いつの間にか特別番組が流れている。半年前から行方不明で捜索中の、子供の写真が公開されている。白いワンピース姿の少女だった。

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怖い話12【デス・オア・トリート】1200字以内 雨間一晴 @AmemaHitoharu

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