第5章 性的強調表現と広告使用

5-1 性的強調表現とはなにか

 第4章では、性暴力表現の範囲を拡張した。第5章では、その拡張の最終的な範囲である、性的強調表現を取り上げる。


 なぜ性的強調表現が問題なのかという点は後に譲り、とりあえずここでは、まず何をもって性的強調表現と見なすべきなのかについて確認する。


 性的強調表現とは、主に女性について、その外見を「性的」に「強調する」ものである。重要なのは括弧でくくった2つの要素になる。


 まず重要なのは、当然だが、強調が「性的」に解される部分に対するものであるという点である。典型例は乳房や臀部だが、表情や姿勢など間接的に性的な仄めかしを発するように強調される場合もある。


 では「強調」とは何だろうか。これは、通常ではあまり考えられないように表現することだと理解すればいいだろう。


 性的強調表現の最たる例は、いわゆる「乳袋」という、服の上からでもはっきりと乳房の形が視認できるかのような表現である。

 通常、薄手の服を着ていたとしても、服の上から乳房の形がわかることは滅多にない。ゆえに、これは強調表現と考えることができるのである。


 もっとも、何が性的強調表現に当たるのかは、具体的な表現技法を取り上げることができず、抽象的に定義するほかない。理由は2つある。


 まず、表現は常に進歩し、斬新な表現技法が生まれる余地があるためである。定義を策定した当時に想定されていない技法であっても、性的強調表現と解釈できるのであれば、それは従来の表現と同様の問題を内包することは自明である。まったく新しい技法であれば性的強調表現でも従来の表現にみられた問題を回避できる、などということはあり得ない。


 2つ目の理由は、表面上同様の表現でも、文脈によってその意味するところが変わりうるからである。ある表現を取り上げ、実際の意味を無視して杓子定規に判断するのは明らかに馬鹿らしい行為である。表現は相対的に理解され、その意味を解釈される必要がある。


 このような理由から、本論では何が性的強調表現なのかについて、具体的な定義はしない。ただし、抽象的な定義があればその表現が性的強調表現であるかどうかは個々で判断することができるし、そうでなくとも、大半の表現は性的強調表現かどうか自明に判断できると考えられる。


 念のため付言しておけば、性的強調表現は、それに該当するか否かの二値的な判断ではなく、ある程度強度に幅のあるものである。ゆえに、この程度の強調ならセーフだがこれ以上はアウト、といった判断もありうる。

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