2.再びの王都で①
カノニア教会を後にした僕たちは、時刻も昼の一時を過ぎていたので、近くのレストランで昼食をとることにした。
二人一緒での食事というだけでも、久しぶりで心が温かくなるものだ。
入った後で気付いたのだが、このレストランは以前利用したことがあるところだった。確かそう、ここで突然隣の席から声をかけられたのだ。
騎士団の隊長、ギリー=ノールさんに。
「セントグランに戻ってきたわけだし、お世話になった人に挨拶しておくのも悪くはないかもなあ」
「騎士団の人たちに、ギルドの人たち。それに、ヘイスティさんもいたわね」
ヘイスティさんは今、どこに住んでいるだろうな。流石にもうギルドの一室を使っているわけもないし、街はずれで隠居していそうだが。
ザックス商会とのいざこざも、結局鍛冶屋そのものが火事で焼失した以上、片が付いたのだろう。今はきっと、鍛冶屋のあった場所はザックス商会のものになっていそうだ。
「それにしても、ご飯が美味しくて嬉しいわー」
「あはは……大丈夫だった? 監禁生活」
「大丈夫じゃないわよ。大事な役割とかで、痛いことはされてないけど……環境は最低だったもの。ベッドは硬いし食事はまずいし……」
「ま、まあ予想はつくよ……。でも、酷いことはされてなくてよかった」
「すぐ助けに来てくれるって信じてたし。ちょーっと遅かったけどね?」
「それはすいません」
攫われたときは、まさかセリアが狙われるとも思っていなかったし、裏で糸を引いているのがヒューだということも分かっていなかった。
そこから奴の足取りを何とか掴んで……割合早く救出はできた方だと思っているが。
まあ、そこはほとんどナギちゃんのおかげだな。
「全く、ナギちゃんには頭が上がらないわ。明日詳しく聞くけど、あの子も色々と事情を知ってるのね」
「で、僕たちのサポートをしてくれる。世界を変えていくために」
「私が男だったら惚れちゃってるかも。今でも格好良いーって思っちゃってるし」
「はは、格好良いのは僕も同感」
思い返せばセントグランから始まり、リューズ、ダグリンとナギちゃんにはお世話になりっぱなしだ。
そしてこれからもなっていくのだろう。
セリアとはまた違った意味で、長い付き合いになればいいなとは思っている。
頼りになる子だ。
「あっれー? 何や見覚えある背中やと思ったら……」
「面白い偶然もあるもんだ」
談笑していると、背後からそんな声が聞こえてきた。
なるほど、面白い偶然だ。
きっとこのレストランは、隊長たちの行きつけの店だったりするのだろう。
それで、二人して腹を満たしに来たわけだ。
「……ギリーさん、それにニーナさんも」
「お久しぶりー。大変なことになっとったって聞いたけど、まさかセントグランに戻ってきてたとは」
グランウェールで僕たちと仲良くしてくれた、ニーナ=リゼッタさん。それに少ししか関わらなかったけれど、気さくな態度で接してくれたギリーさん。比較的話しやすい二人と会えたのはラッキーだったかもしれない。
「セリアちゃん、ヒューとかいう司祭に拉致られてたんだって? 大丈夫かい」
「トウマとナギちゃんが助けてくれたんで。ヒューも捕まえました」
「おー、流石は勇者ってとこやな。でも、ナギちゃんてギルドの子やろ? 何でまた」
「行きがかり上、協力してもらったというか」
「ふうん……面白そうだが、あんま突っ込んで聞くのも悪いかね」
「えー、ギリーってそういうとこ紳士やなあ」
というか、ギリーさんも秘密主義な人間だから、他人に対しても突っ込んだ質問をして迷惑がられたくないのだろう。
ニーナさんはそのあたり、裏表がないのでストレートに聞いてくるタイプなのだろうが。
「……ヒュー=アルベインってヤツは結局、以前セントグランで起きた事件を企てた組織のリーダーだったのかね」
国王の所在を気にしていたギリーさんのことだ、暗殺事件のこともずっと気にかかっていたに違いない。ニーナさんもその件ではグランドブリッジの視察だったり、色々動き回っていたわけだし、一応知り得た情報は伝えておく。
「結構大きな組織があるみたいです。ヒューはリーダーの一人だったみたいですけど、他にも何人かリーダーがいるようで」
「……なるほど。騎士団の隊長みたいなもんかね」
そういう例えが分かりやすいのかもしれない。ヒューのような力を持った者があと何人か、世界のどこかで今も暗躍しているのだ。
それに付き従う者たちも。
「ただ、ヒューを捕まえてワイズさんに引き渡したんで、これから大掛かりな捜査が始まっていくと思います。ワイズさんも、騎士団と協力していくって言ってましたし、そのうち皆さんにも声がかかるかと」
「よっしゃ、そんときは張り切って捜査せんとなあ」
「任せた」
「アンタも道連れやで」
「うん……まあそうだわな」
元気なニーナさんと気怠そうなギリーさん。二人のやりとりは見てて面白いな。
彼ら自身も、互いを分かった上での受け答えなんだろう。
「魔王城も出てきたんやし、二人はいよいよ最終決戦ってとこやね」
「こっから船か何かで城へ特攻するって感じか」
「そうなりますね。しっかり準備を整えてから行こうと思ってます」
「魔王なあ……ウチらも手伝えることあったら手伝うし、遠慮なく頼ってきてな」
「ありがと、ニーナさん」
魔王城に勇者と従士以外の者が向かったという史実はないが、グレン=ファルザーの遺体はヒュー、或いは星見会の誰かが魔王城から盗み出している。入ることができないわけではないわけだ。
剣を持たない僕には、誰かの協力が不可欠かもしれない。可能ならば、頼らせてもらうのもありだな。
「そや、せっかくセントグランまで戻って来てるんやし、他のメンバーにも挨拶してく?」
「あ、時間があればそうしようと思ってたんですけど」
「ほほう、やっぱトウマくんは礼儀正しいなあ。今日はちょうど予定もガラガラやし、挨拶するなら今がチャンスやと思うで」
「あ、そうなんだ? トウマ、ついでだから行ってみる?」
「ん、そうしようか」
これからナギちゃんと話すこと次第で、セントグランの滞在期間も変わってきそうだし、できるうちに挨拶は済ませておいた方がいいだろう。僕とセリアはすぐに挨拶しにいくことを決めた。
「決まりだな。じゃ、メシ食い終わったら行くことにしますかね」
「そのまま行っても大丈夫? 二人とも」
「私たちは全然オッケーですよー。ね、トウマ」
「ええ、大丈夫です。よろしくお願いしますね」
「うんうん。任せとき」
というわけで、僕たちは食事を終えてからすぐ、セントグランの王城へ向かうことになった。
セシルさんやアリエットさん、それにライノさん。騎士団の隊長たちにまた会えるのは嬉しいし、励みになる。
イヴさんは秘書として忙しく活動していそうだが、彼女にも挨拶くらいはしていけるだろうか。
あれこれ考えてしまうけれど、行ってみないと分からないな。
僕たちは、ニーナさんとギリーさんに先導されて王城を目指す。
長い街路だったが、談笑しながらの道のりは決して長時間には感じられなかった。
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