163 アンドロメダ

 アザゼルがいなくなった。我々の神が失踪した。

 あれだけのことをしたのだ。数多の恒星系から恨みを買い、自らの欲望の赴くまま人々を傷つけてきた。

 その代償だ。いつかこうなることはわかっていた。


 崇める対象を失った我々は何に縋り生きて行けばいいのか。

 その答えは出ない。


 彼の能力を工学的に模倣した様々な武器、兵器。これらも今では用済みだ。

 彼がいなくなった今、我々の存在意義もなくなる。


 帰って来てくれアザゼルよ。


 救いに行くべきか。


 遥かなる天の川銀河へと。




§§§




 太陽系外周を無数の宇宙戦艦が取り囲んだ。

「我らの主を返せ」

 船首に搭載された主砲が光り始める。億の恒星が太陽系を四方八方から、照らしているようだ。


「来たか」


 新しい世界線のこの時点では、科学は興っていない。しかし、用意はできていた。以前の世界線で開いた異次元の扉で避難すればいい。

 エア、火星、地球の三惑星の住人たちは異次元の扉で、扉の向こう側にある惑星へと非難していった。

 以前、光球がガンマ線バーストで三個の惑星を攻撃した時、予め攻撃を予測していたADCOは、十分な時間をもって対処した。公寿郎とポコがアンタレスに到達するまでの500年の間で魂粒子の研究は進み、対象の魂紋保持者に探知機を同調させることで、魂紋保持者の五感を探知機側で再現することが可能になっていた。

 魂粒子は時間の制約を受けない。それが、リアルタイムでポコと公寿郎の動向を察知することを可能にし、実際の光球の攻撃は光速を越えることができなかった。これがアンタレスからガンマ線バーストが発せられ太陽系に到達するまでの間に、異次元の扉と魂の絆を完成させ、居住可能な惑星の発見を可能にした。

 異次元の扉の技術はアザゼルの裏切りによる結界の封じ込めをも打破した。


 アザゼルの狂気的悦楽主義によって、同じ世界線の創造と破壊が繰り返されることになったが、ルシファー、ミカエル、ルフレルらは、この異次元の扉の技術を使い、アザゼルを欺くためのフェイクのレジスタンス惑星群を幾つも創り出し、それとは別に本命のレジスタンス惑星を巧妙に紛れ込ませていた。


 新たな世界線の開始と同時に、そこに住まう者たちの記憶をリセットする機能が働く中で、本命のレジスタンス惑星に保管していた真記憶がそのシステム全体を打ち破ったのだ。

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