164 アンドロメダの使い

「いない」


 アザゼル様がいない。


 魂の匂いがしない。


 この恒星系の住人達もどこかへ逃れてしまったようだ。


「しかし彼を取り戻したところで何になるんでしょう。それはあなたの個人的な感情、個人的な問題ですよね。もう終わりにしましょうよ。あなたの虚無感を埋めるためにアザゼル様を必要とし、殺戮と洗脳に耽溺する。あなた病気ですよ」

 索嗅術師のシュボラ・ウナが言った。

 ガビラ・ウルスは引き攣った笑みを浮かべてシュボラを見た。

 ガビラの目は涙で潤んでいた。

「空っぽな私。何をしたらいいのか。どう生きて行けばいいのか。この何もない宇宙で、独りぼっちだった私を見つけてくれた。そんな私に生きる意味を与えてくれた。

 私に何をすればいいか教えてくれた。殺す方法と、破壊する方法、消す方法を教えてくれた。

 私にはそれが必要だった。何を求め、何がしたいのかわからない私に、指示と命令を与えてくれる存在がどれだけ重要なのか。あなたにはわかるの? アザゼル様以外、誰も私を必要としないじゃない」

「その人格に逃げるのは止めろ。卑怯だ。そろそろ、真実に向き合う時だ。俺たちは騙されていた。利用されていたんだ」

 ガビラを窘めるアガス・ティア。

「彼の気紛れな狂気に、付き合わされてきただけだ」

「それじゃ私、消えてしまう。私、必要のない存在なのね」

「面倒臭い奴だ。お前には俺たちがいる。俺たちがお前を守る。それに気づいているはずだ。自分が何者なのか。何をするべきなのか。何をしたいのか。その答えは自分自身の中に既に存在している。徒にアザゼルに頼るのはもう止めろ。

 どれだけの永遠が、俺たちを待ち受けているかはわからない。でも、きっとまたいつか会える日が必ず来る。その時は、お前もアザゼルも自然に笑いあえるようになっている。俺はそう思うよ」

 ガビラは頬を赤らめて、アガスの頬に軽くキスをした。


 三人の目の前には、彼らが指揮した無数の宇宙戦艦と、太陽系惑星の残骸、その背後に煌めく宇宙の星々と太陽が輝いていた。

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