153 侵略者
家の中のランプから洩れた光が、仄暗い夕闇に僅かな灯りを投じた。
その男は被っていたフードを外すと、何も言わず山小屋の主の顔を見た。
山小屋の主も言葉を発する様子はない。
「お前がいつか言っていた侵略者の話を聞かせてほしい」
その男は口を開いた。
男を家の中に招き入れる山小屋の主。
二人は木のテーブルを挟んで椅子に座った。
「侵略者の何を知りたい」
「知っている限りのことを」
山小屋の主は、壁の向こうを見透かすように遠くを見た。
「人間に邪魔されず、恒久的な平和を享受できるだろうと、当時その考えを疑うことはなかった。この恒星系もそうであったように、私がいたアンタレスも、最初は肉体を持たない種族が平和に暮らしていた」
§§§
アンタレス
姿を持たない存在が宇宙空間に漂い、星々の輝きを眺めていた。
突然、アンタレスを公転する惑星と、宇宙空間に漂う存在を襲う閃光。
アンタレス恒星系の外周に浮かぶ無数の宇宙船。
間を開けず次々と放たれる光線は、肉体を持たない種族を捕らえ、宇宙船へと吸い込んでいった。
衝撃波で応戦する肉体を持たない種族。
アンタレスからはプロミネンスと、小規模なガンマ線バーストが放たれ、宇宙船団を薙ぎ払った。見えない壁でそれらに応じる宇宙船団。
戦闘は100日間に及び、人間の科学の力が勝利を掴むかに思えた。
長大な距離こそが最大の防御である。
肉体を持たない種族たちは、人間たちの宇宙船と自分たちの居住している領域との間に空間を造り続けることで、人間の侵略と攻撃を無効化した。
人間たちの科学力では、超高速で生み出される空間を克服することはできなかった。
そして平和が訪れた。
いつ侵略が開始されるかわからない。常に術者がアンタレス系外周を取り囲み、空間創造魔法を発動させ続けた。
§§§
「大体そんなところだ」
山小屋の主は壁の向こうに視線を注いだまま目を細めた。
「二足歩行の生物いわゆる肉体と柱が、アンタレスに蔓延し始めたのはいつからだ」
男の問いに眉間にしわを寄せる山小屋の主。
「侵略と何か関係があるのか」
男は黙ってテーブルの木目を睨んだ。
「あれはある領域を侵略するための常套手段であると同時に、人間が肉体を持たない種族と結託した結果生み出されたものである可能性が高い」
山小屋の主は目を見張り男の顔を凝視した。
「あの頃は、お前が最後の敵で、私たちの戦いはようやく終わりを迎えたのだと喜んでいたが、それは間違いだったようだ」
身動ぎもせずに二人の視線は強く結び合った。
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