112 応報

「覚えてる。私のこと」

 乃希はポコを睨んだ。

「殺しても殺しても殺し足りないくらいよ」

 乃希はポコの胸ぐらをつかんだ。

「ご、ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃないわよ。この卑怯者」

 胸ぐらをつかんだまま壁にポコを押し付ける乃希。咳き込むポコ。


「あんただけ、部下を差し置いて、記憶を消して人間になるなんて、どういうつもり」

「ご、ごめんなさい」

「あんたそれしか言えないの」

「乃希、まだ記憶が完全じゃないの」

 アマナが割って入った。

 ポコはただひたすら床に頭をこすりつけ謝るしかなかった。

 殺されても仕方がないと思った。まだ記憶が完璧ではないと言っても、おぼろげながら自分の犯した罪の輪郭を捉え始めていた。


「何でもします」

 ポコは土下座したまま言った。

「ふん。当然でしょ。なんでもやりなさいよ」


 長い沈黙が続いた。空気を震わす僅かな振動が時折、静かな音を発した。

 乃希が深い溜息をつくと、そばにいた公寿郎も溜息をついた。


「なあ、お前一体何なんだよ。お前一体何だんだよ!!」

 ポコは答えず、代わりに泣きわめくポコの嗚咽がこだました。

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