106 絶望
「妻を!娘を!返してくれえ!!うああ!!!」
クロノス飛行士ラヴィンガ・オルコスは、セラフィス・ラキアとキッシュ・ゴールドマンに掴まれた腕と体を振りほどこうと、何度ももがき身をよじった。
オルコスを取り押さえているラキアとゴールドマンの眼からも止めどなく涙が溢れていた。
「なんのために戦ったんだ。何のためにあいつを倒した? 手遅れじゃないか。無駄じゃないか! 何もかもが無意味だ。私は今まで一体何をしてきたんだ!」
力の限り泣き叫び身をよじれども、絶望的な光景を変えることはできず、行き場のない悔しさと怒りだけがオルコスを支配していた。
時間が経つにつれ、徐々に二人への抵抗の力は弱まり、泣き疲れ項垂れるとその場に崩れるようにオルコスはしゃがみこんだ。
「これからどうすればいい。どうしたらいいんだ。帰るべき星を失った私たちは」
独り言のように呟くオルコス。
「すまない」
三人の頭の中に声が響いた。
「アザゼルか」
「君たちには伝えていなかったが、最悪の状況を想定してこの10年間、火星への緊急脱出システムの開発をしていた。
エア時代の記憶を取り戻したエンジニアと科学者達によって開発された、超大型神粒子衝突型加速器によって、光子以外の質量を持たない粒子を発見した。
この粒子は無であると同時に無限でもある性質を兼ね備えており、無でありながらすべての可能性とすべての存在を内包する粒子だった。
これを科学者たちは魂粒子と名付け、さらなる研究を続けた。
最終的にこの魂粒子を波動状に照射する技術を開発し、それは魂波と呼ばれる通信技術を確立させた。
魂波を媒体として送り受け取られるのは、人間の魂そのものだ。
そして、魂波の技術を魔法へと応用した魂波術の確立と術師の育成も早急に推し進められた。
ナシェエルの魔力を感知してから術の発動までにかかった時間はほんのわずかではあったが、地球のエンジニアと術師が可能な限り火星の地下都市にある魂波通信基地局へ地球の人間を非難させてくれたはずだ。
まだ希望は捨てないでほしい」
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