83 悩み
薄暗い玉座の間で漏れる深い溜息。
微かな溜息の音ですら反響するほど、その空間はだだっ広く、障害物もない殺風景な部屋だった。目が慣れてくると、微かな明暗の差で巨大な柱がいくつもあるのが認識できた。
「人は何故生まれてくるのか、考えたことがあるか」
溜息の主の近くで佇むその男は、答えずにしばし思案した。
「何故このような無価値で見るだけで、吐き気を催すような不快で不可解なものを神は作ったのか。最近そのようなことをよく考える。何度滅ぼしても生まれ増殖し、ついにはあの星すら抜けだし、このルナへと手をのばさんとする愚行。
自らの下等性を認識せぬ愚かさ。そのすべてに虫唾が走るのだ。
我も最初のうちは積極的に滅ぼしていたが、飽きた。何度滅ぼしても蛆のように湧く。それでここまで放置してきたわけだが、ふと妙案を思いついたのだ。魂ごと消し去ればいいのだと。しかし、そのような術を我は知らぬ」
「魂それ自体が何かしらの影響で消え去る、という現象は私が知る限り一つもありません。この宇宙がいつから始まったのかわかりませんが、おそらく宇宙が始まって以来一度もそのようなことは起こっていないでしょう。そのような宇宙の理に反した術を開発することは不可能です。
せいぜい忘却の彼方に葬り、肉体を与え、人間として生きさせるか、あなた方を捕らえていた永遠体なるものに類似したものに縛り付けるしかないでしょう」
「我に下等種族のために一体一体、細工人形を作れと抜かすか」
吹き飛ばされ柱に体がめり込んだ男。溜息の主の放った蹴りと拳が、さらに男を襲う。
柱は砕け、轟音が響いた。
溜息の主が振り返り玉座を見ると先ほど攻撃を受けた男は、何事もなかったかのように跪き、主が玉座に座るのを待っていた。
哄笑が玉座の間に響き渡る。
「面白い」
何度も声に出し笑い続けた。
「良い。良い。ますます気にいった。もとよりお主がいなければ、今の我はおらぬ。お主の意見を聞いてやろうではないか。申してみよ」
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