84 懸念

「既にシステムは上手く機能しております。そう焦らずとも、よろしいのではないでしょうか。肉体を失った者はここへ出頭し記憶を消され、またあの星へ送り返されます。そこで新たな身体を得て人間として生きるのです。

 記憶の制約を越えて私たちの存在を脅かす可能性について、ミカエル様は懸念しておられるのでしょう。

 まあ、その時はまた滅ぼせばいいだけのことです。次の滅びまでには、ミカエル様の手を煩わせぬよう、私目が術の練度と精度を上げましょう。これで、いかがでしょうか」


「ふむ」


 ミカエルは顎に手を当て視線を落とした。

「魂を消す術の開発は不可能と申すか」

「はい」





§§§





『でもどうやって倒すんだ?』

『月に行くんだよ』

『どうやって?』

『身体から抜け出すんだ』


 アザゼルとのやり取りを、何度も頭の中で繰り返す公寿郎。

 乃希がクミコだと分かってから、「もう二度と失いたくない」という気持ちが強くなっている。もう戦いたくない。乃希を危険にさらしたくない。ただその思いだけが、日に日に強さを増していく。


 何事もなく平凡に乃希と暮らせたらそれだけでいいのにな。


 あの空間の出来事と、これからのことを考えながら、自宅の台所で何の気なしにTVを眺めていた。


「月離着陸船と、月軌道プラットフォームゲートウェイとの通信が途絶えました」

 ニュースキャスターが画面越しに語り掛ける。


「2月5日、日本時間4時過ぎにフロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げられ、8日にゲートウェイとのドッキングに成功した宇宙船タイタンですが、月面着陸の連絡を最後に、月離着陸船、ゲートウェイ共に通信が途絶えたということです。

 

 乗員二名が乗り込んだ月離着陸船は9日に月面に着陸し、資源調査、月面のサンプル収集作業を行っていましたが、通信が途絶えたということです。ゲートウェイの乗員二名、離着陸船の乗員二名の安否は確認できておりません」

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