72 許可

 火柱が上がる。


 無数の氷の粒が宙を飛び回っていている。


 ある一角では時が静止し、人々が微動だにせず表情を凍り付かせていた。


 その場所では、あらゆる種類の魔法が飛び交っていた。


「ここいらへんでいいかいの」


 老人が指さした方向には、本棚柱を中心に、誰もいない広く開けたスペースがあった。


 床に着地した老人の後に続くメネド。

 老人が本棚柱に向かって両手を広げると、何冊かの本が飛び出し、近くにあった長机の上に積み重なった。


「お主も知っておるじゃろうが、魔力を増幅させる魔術自体は昔からある」

 メネドが頷く。

「魔力増幅術を扱えるたくさんの魔術師を集めればええ」

「ええ、それは私も考えました。しかし、先ほども説明した通り、惑星創造に必要な魔力量を推定した際、火星の魔術師では足りません。そもそもエアと違って、この魔術を使える魔術師が多くありません。そこで、エアの考古魔術学者に知恵をお借りしたいと思ったのです。

 この術に長けた魔術師が恐らく1万人は必要でしょう。それは現実的な数字ではありませんでした」


 老人は机に積まれた本の中から一冊を選び出すと読み始めた。

「あった。あった」

 老人が指でページを叩く。

「ここじゃ」

 開いたページをメネドがのぞき込むと、そこには時間魔法と書かれてあった。

「これを使えば、造作もないわい」

 メネドの目が輝いた。

「しかし、この術の使用には法術省の許可がいる。火星のトップからの指示とあらば許可もすぐ下りるじゃろうが、一応決まりじゃからな、必要な書類を提出せにゃならん」

 メネドの表情が暗くなる。

「どうしたんじゃ」

「いえ、何でもありません。いろいろとありがとうございます。書類の準備を進めてみます」

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