73 光明
提出に必要な書類の中にはメモリーリーダーや、記憶魔法で抽出した過去500年間の記憶のコピーが含まれていた。該当する計画に携わる者は必ず提出せよと記載がある。
メネドは両手を握り締め机を叩いた。これではすべての計画が台無しになってしまう。
天井を見上げ泳いだ視線を漂わせるメネド。
深い溜息をつくと部屋を出てエア中央公文書館へ向かった。
§§§
『エア中央公文書館』
三階まで吹き抜けになった広々とした造り。三階部分は吹き抜けを囲んで蔵書やフリースペースのインテリアテーブルに椅子が置かれていた。
三階の蔵書検索機の椅子に腰かけるメネド。「記憶操作術」の文字を入力する。
モニターに検索結果が表示される。
『エル家に代々伝わる術。抑圧的性質が強く、健全な惑星の運営に支障をきたす可能性が高いため、ロ二オス家、ファー家、ゼル家により、A.D.1年禁術に指定。現在その使用は、いかなる魔術師にも認められていない…
‥‥‥このキーワードを含む書籍の閲覧には、法術省の承認コードが必要です‥‥』
メネドは声にならない笑いを口に含んだ。
§§§
『地球 死海南部 サダム区』
乾燥したこの大地に緑はちらほらと見えるだけで、木々のまばらな乳白色の山肌が連なっていたが、ヌビ山脈の西南にある居住区には、ナツメヤシや緑色の粒上の花弁をつけたトウダイグサなどの緑が溢れていた。
山脈を越えた先には広大な砂漠が広がっている。
居住区の野営テントに並ぶ奇形体の長蛇の列。それらを手際よくさばく転生術者達。
「ここいらで一息入れよう」
オフェストロが、額の汗をぬぐいながらムトに声をかけた。
ムトは野営テントから少し離れたレンガ台に腰かけ、皮革水筒に入った水を飲んだ。ナツメヤシがちょうどよく日陰を作っているおかげで、暑さが和らいでいる。
「やあ、久しぶり調子はどうだい」
声のした方を見ると、そこにはいつのまにかメネドが立っていた。ムトに向かって手を振るメネド。
「あれ? どうしたんですか。連絡もなく。来られるなんて珍しいですね」
メネドはムトに向かって、輝く人差し指を一本立てて見せた。手招きするメネドに、何も言わずムトはついていく。
転生院管理局の施術室に二人きりになると、「では想起術を頼む」とメネドは言った。
忘却の彼方に追いやられた自らの記憶と力の中に、記憶操作術を使える自分がいるのではないか、でなければ、記憶操作術者につながる何かしらの糸口があるのではないか。そんな想いがメネドの中にはあった。
自分の記憶をもっと遡る必要がある。
メネドは確信していた。
地下召喚室に召喚された主とその家臣達。
彼らを送り出すメネド。
その頃の名は…
ナシェ・エル
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