46 最上階へ

 二人の目の前に浮かぶ、光の鎖で全身を覆われたそれ。頭から爪先まで完全に覆われ全く露出のない状態だ。


「罠かもしれない。いったんこちらで調べる。お前は待っててくれ。ミカエルと互角以上に渡り合える戦力は貴重だからな」


 アザゼルはルーシェを制すると、待機している部隊の方へと引き換えし、隊員数名を引き連れ戻ってきた。棺型の拘束機に入れられ、宙に浮いていたそれも回収された。





 怒りを押し殺すアザゼル。


 ルーシェに気付かれてはならない。


 しかし、顔が引きつるのを抑えられない。今にも叫びだし、拘束機の中のそれに殴りかかりたい衝動を抑える。


 ここに来る前に見た、監視カメラの映像はホテルの惨劇以外も捉えていた。


 交差点で無理やりタクシーに押し込まれる少女。


 そこに映っていたのは、ルーシェと一緒に遊夢に来ていたクミコの姿だった。



 報道機関は完全に規制している。ニュース等でこの事件の詳細が流れることはない。しかし、モバイル端末であの動画を撮影した一般人がいたとしたら、星の数ほどある、動画投稿サイトを完全に規制することはできない。


 いずれ、ルーシェは知ることになるだろう。

 それは時間の問題だ。

 しかし、今このタイミングでそれを知らせるわけにはいかない。


 できるだけ長く気付かせず、時機を見て伝えるしかない。



 アザゼルは、行き場のない怒りをどうすることもできず、平静を装うことしかできなかった。部隊を引き連れ、おそらくミカエルと思われる、それが示唆したホテルの最上階の寝室に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る