38 診断
「夢を見るんです」
部屋の隅に置かれた、ランタンを模した照明が、二人の姿を照らしていた。アロマの香りのせいか、少しずつ心が穏やかになっていく。
薄暗がりの中で輪郭が少しぼやけたアマナに、ルーシェは一つ一つ言葉を繋いでいった。
「眩しい光。上下さかさまになった世界。上と下がわからなくて、息苦しくて、上から見下ろしながら、海に落ちて行っているのに、なぜか浮上しているような感覚。そんな夢を最近よく見るんです」
「不思議な夢ね」
「これで何がわかるんですか」
「私は、わからないわよ。あなたが見つけるの」
ルーシェは『やっぱり騙されたのか? まあでも1000円くらいしょうがない』と腹をくくった。
「夢はそれだけ?」
「はい」
「そうなのね」
自分が座っている一人掛けのソファを、グイッと引いてルーシェに近づくアマナ。右の手の平をルーシェの額に当てて何かを呟く。
夢の光景が脳裏に広がる。振動しながら空に高速で吸い上げられていく、土や草、小石や砂利、木の根、山が細長くなって空に持ち上げられていく光景。
近くに誰かがいる。悔しさ、怒り、恐怖、憤怒、何と呼べばいいのかわからない感情が、ルーシェの中を駆け巡った。
気が付くとルーシェは息を切らして椅子の上でうずくまっていた。
「…何ですか? これは」
「夢の続きみたいなものよきっと。これを全部出し切ると楽になれるわよ」
「まだやるんですか?」
「何言ってんの? これくらいでへこたれちゃって!? 大丈夫。皆、最後にはスッキリして帰っていくから」
ルーシェは、言われるがままに続きの夢を見た。アマナが手を額に当てると、イメージが止めどなく溢れてくる。
何か闘いがあって、きっと敵は倒せたのだろうが、相手の強力な技に最後はやられてしまった。仲間が一人と敵は四人。リアルな夢だ。
「なんか体が軽くなって、気持ちも少し楽になった気がします」
「そう。じゃ、もっと続けましょ」
何度か夢の中を通り抜けると、気持ちが晴れやかになって来た。
「ふうぅ… 言われた通り、清々しい気分です。これでもう夜も、あの夢に悩まされなくなるんでしょうか」
「それは、何とも言えないけど… またなんかあったら、またいつでもいらっしゃい」
腕時計に視線を落とすアマナ。
「ちょっと、時間オーバーしちゃったけど。今回は特別サービスにしてあげる。よかったら友達紹介してね」
クミコはすでに診断を受け終わって待合室で待っていた。
「また来ようね」
クミコが笑った。
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