37 遊夢
駅ビルの八階にその店はあった。
店の入り口には、ピンクやライムグリーン、コバルトブルーの丸文字で彩られた手書き看板。
『1時間7000円 ⇒ 初回1000円! 得々(*^-^*) 春のスタートアップきゃんぺ~ん!! (学割あり) おいでませぇー学生さん!』
「面白そうだね…ちょっと、イメージしてたのと違うけど…」
ルーシェの手を引くクミコ。
”カラン”と入口の扉につり下がった、アンティーク風のドアベルが来客を知らせる。暖色の照明が店内を照らしている。壁にかかった円形の鏡が連なったオブジェが、照明を柔らかく照り返していた。
「いらっしゃいませ」
予約なしでも、突然訪れた二人に微笑む黒髪の女性。
「すみません。予約してないんですけど大丈夫ですよね?」
「大丈夫ですよねって…最初から決めつけて…」
ルーシェは溜息をつきながら言葉をつづけた。
「我がまま、すぎるだろ」
クミコの肘がルーシェの脇腹をつついた。軽く咳き込むルーシェ。
「ちょうど先ほど、お客様が帰られたばかりなので、大丈夫ですよ」
「学割効くんですよね?」
「ごめんなさい。初回はもともと割引価格なので、二回目以降は効きます。1時間5980円で受けられますよ。学生証を忘れないでくださいね」
簡単に料金システムや、サービスの説明を受けた後、二人は受付のすぐ先にある待合室に通された。ソファに腰かけ、勧められたアンケートに記入する二人。
「こちらへどうぞ」
受付にいた女性が二人に声をかける。その女性のすぐ後ろには、ショートカットの金髪の女性がいた。
「ソミロキ・アマナです。アキモトルーシェさんは私が担当しますね。よろしくお願いします」
そう言いながら奥の部屋に案内するアマナ。クミコは、その後アガタミユキと名乗った、受付の女性に別室へと通された。
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