34 戦闘

 ミカエルがイピテル達に向かって手をかざす。手の平から放たれる複数の光線。


 瞬時に移動し、ロボルガリ達の前に立ちはだかったアザゼルは、彼らに直進する光線を弾き返した。


 アザゼルが腕を振り払い、突風を引き起こすと、ロボルガリ達四人は彼方へと吹き飛ばされた。


 ミカエルの背後には、ラファエル、ウリエル、ガブリエルが控えていた。


 イピテルに一瞬視線を合わせた後、姿を消すアザゼル。


 イピテルの咆哮と全身からの衝撃波が大気を震わせる。光輪から放たれた光の渦は重なり合い、太い帯となってミカエルら四人を襲った。


 ガブリエルの背後に回ったアザゼルは、拳の一撃でガブリエルの胸を貫いた。


 ガブリエルは倒れ、胸に空いた穴からは血が流れ出している。


 左後方から気配…身を翻すが振り切れない。


 左腕をウリエルに掴まれたアザゼル。右側頭上から来た衝撃波をアザゼルは右手で受け止めた。衝撃波を放った構えで宙に浮くラファエル。

 両腕の完璧な防御を妨げられ、アザゼルの右前腕部は黒煙を吐きながら焼き焦げていた。


 アザゼルに気を取られたウリエルとラファエルを、イピテルの放った光の渦が直撃した。横たわったガブリエルにも命中したそれは、ガブリエルを跡形もなく消し去った。


 直撃する瞬間、気で自らを反射的に覆ったラファエルとウリエルは、焼け焦げた全身を引きずりながらも、戦う意志を失ってはいない。


 ミカエルはイピテルが放った光の渦を、両腕から放射した衝撃波で打ち消し、そのままイピテルの元へ飛んだ。


 ミカエルの全身から黒い光が溢れ出し、自らの体とラファエル、ウリエルを包み込む。


 三人は黒い炎をまとった巨人と化し、巨人の体から外へ外へと広がる黒い炎の津波がアザゼルとイピテルを襲った。


 イピテルの張った障壁がアザゼルとイピテルを守った。

 イピテルは全身を震わせ肩で息をしている。全身が赤く光り、体がポロポロと崩れ落ち始めている。



 イピテルの体を中心に、巨大な光円が作り出され、それは光の柱となって、ミカエルたちを襲った。


 直撃を受けた三人は元の姿に戻り地に伏した。地に膝をつき跪きながらも、ミカエルだけが意識を保っていた。


 ウリエル、ラファエルは焼け焦げた体を横たえ意識を失っている。


 イピテルも残り僅かに残った意識をかろうじて保つばかりで、視界は徐々に霞み死の気配を感じていた。



 渾身の力を託し、衝撃波を放つ構えを取るアザゼル。



 ミカエルの両眼から赤い涙が流れ目が赤く染まる。



 アザゼルの元を離れた衝撃波は、迷うことなくミカエルに照準を絞っていた。



 衝撃波が自らに接触する刹那、口から血を吐きながらも最後の力を振り絞ると、ミカエルは口と目から黒い光を放った。



 上空に巨大な魔方陣を描くそれらの黒光。



 魔法陣が高速で回転し始めると、地響きが鳴り、雷鳴が轟いた。


「我の勝ちだ…この星諸共、消し去ってくれるわ…」

 体を衝撃波に焼かれながら訪れる死の中でミカエルが呟いた。



 空に吸い上げられるミカエルら四人と、イピテル、アザゼルの体。


 山々の木々や土壌も、上空に吸い上げられていく。


 そこから遠く離れた古代都市。この地上でかつては栄華を極めた文明の残骸が残るその場所で、鉄筋をむき出しにしてそびえる高層ビル群。


 渋滞を作ったまま、持ち主を失った無人の乗用車の列。朽ち果てた高速道路。


 それらを構築する灰色の構造体、コンクリートもボロボロと崩れ落ちながら重力に逆らって、空へと舞いあがっていった。


 幾つかの活火山が噴火し、溢れ出したマグマも空へと昇っていく。


 紅く巨大な竜が空へと帰っていくようだ。


 海も飛沫を上げ空へと吸い上げられていった。海神かと見まごう青黒いそれらは、巨大な渦となって天を目指した。


 二十四時間後、全ての海水が成層圏に集まると、それらは奔流となり地上を洗い流した。


 超高水圧で地表をえぐられた火星は、僅かに残っていた文明の痕跡を微塵も残すことはなかった。

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