28 記憶

「体を失った者は記憶も失うのが殆どだが、稀に君のような人間もいる」

 アザゼルがリアに言った。

 リアは答えず、アザゼルの顔を見ようとはしない。

「望むのなら他の星に飛ばしてもいいが、おそらく君たちが戻ることになる星は火星だ。今は戻らないほうがいい」

「なんで」

「火星はエル家が管理しているが、管理に問題がある可能性がある」

「何でもいいから、早くここから出たい。康太郎も一緒に行こう」 

 康太郎に向き直って説得しようとするリア。

「だから、俺はここに残るって」

 

 リアと康太郎は互いに目を逸らさない。

 互いの真意を探ろうと、視線が吸い寄せあっている。

「お前、何か覚えてるんだったら、話せよ」

 二人は互いの真実を捉えようと、視線を瞳の奥の何かに向けた。

「あなたは私と一緒に過ごすの。何事もなく幸せに。だから、こんなことに巻き込まれちゃいけないの」

「勝手だな。お前が俺の何だって言うんだ」

「本当に忘れちゃったのね。私たち恋人同士だったのよ。昔は。魂の匂いでわかるもの。きっと昔の名前は私がマリナで、あなたがフュゼルよ」

「覚えてない。俺が覚えているのは、自分の名前が康太郎だっていうことだ」

「それはきっと、あなたが持っていた、たくさんある名前のうちの一つよ。フュゼルの時のことを思い出して、お願い」

「わからない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る