27 お願い

「ねえ、もう帰ろうよ」

 イピテルとスパーリングをしている康太郎に呼び掛けるリア。康太郎は気を取られ、イピテルの放った回し蹴りを顔面に食らい、その場に倒れた。

 起き上がろうと手足を動かすが、思ったように体が動かず、床の上でピクピクと康太郎は悶えている。


 しばらくすると、康太郎は上体だけ起こして頭を抱えた。


「大丈夫か」

 イピテルがしゃがんで、康太郎の顔を覗き込み肩を揺すった。

「ああ…何とか」

 康太郎は頭を振りながら答える。

「危ねえな…何だよ。帰るってどこに」

 まだ視線が定まらない中、ようやくリアの姿を捉えると康太郎が言った。

「あの、白いところに」

「嫌だよ。誰もいなくて、なんにもなくて、ただ広いだけの場所だ。つまんねえよ。どっから来たのか、なんで来たのか、その理由を知るまでは何処にもいかねえ。あいつにも、一発返してやらなきゃ気が済ま…」

「戦ったり、人が死んだり、こんなの普通じゃないよ。私たちには、関係ないんだから帰ろうよ」

 リアが康太郎の言葉を遮った。

「こんなことに、巻き込んでしまって本当に申し訳ない」

 イピテルが二人に謝った。

「気にすんなよ」

「気にするよ!」

 スパーリングのための、四角いスペースの外側で二人を見ていたリアだったが、走り寄ると康太郎の肩をつかんだ。 

「私、こんなのもう嫌だ! 早く!帰ろうよ!」


 訓練場の扉が開く音がすると、ルフレル、イリシス、アザゼルが中に入ってきた。




§§§




「申し訳ない。引き留めるつもりはなかったんだ。こんなところまで、付き合わせてしまって、本当に申し訳ない」

 アザゼルが歩きながら言った。

「転生堂に行かなくても、君たちを他の星に飛ばすことは、私にもできる」

「他の星…よくわからないけど、私たちをもっと普通の場所に帰してください!」

 リアの声は上ずっていた。

「いいよ! 俺はここに残る! 稽古だって俺が頼んだんだぜ!」

 康太郎はリアを睨んだ。

「やっぱり、変わってないのね」

「何を言ってんのか、わからねえよ。とにかく俺はここに残る」

「もしかして、記憶が残っているのか」

 アザゼルがリアに尋ねた。


 リアを見つめるアザゼル。

 リアは目を逸らした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る