26 大広間

「相変わらず無茶をしますね。いつも冷静沈着なのに時々、誰も思いつかないような行動を起こして、こっちはいつもヒヤヒヤですよ」

 執事のイリシスが言った。アザゼルは何も言わず微笑みながら、イリシスの肩を軽くたたいた。


 白金色を基調とした、飾り柄が施された遮光カーテンの間から、日光が部屋の中に降り注いでいる。骨子は赤みを帯びた木目調、背面と座面にはシルクのクッションがあしらわれた椅子に、アザゼルとイリシス、ルフレルが座っている。ここは大広間だ。


 ルフレルが無造作に椅子を引き寄せ、前後ろ逆にして座っているのを、イリシスが尻目に見ていた。

「ルフレル様…」

「はあーい。何を言いたいのかは、わかってまーす」

 ルフレルは椅子から降りると、椅子の向きを正して座りなおした。まだ背丈が小さいルフレルにはこの椅子は大きく、椅子をよじ登って座っている感がある。

「ルフレルありがとう。よくやってくれた。転生堂に向かった時、警備の隙をついて瓦礫の陰に印を設置してくれた」

「いっつも、アザさんとイリに鍛えてもらってるからね。これくらい、楽勝! 楽勝!」

 ルフレルは嬉しそうに、椅子の上で飛び跳ねた。

 部屋の隅に、青く浮かび上がった呪印は、時間が経つにつれ、その光彩を徐々に失っている。

「イピテル達は何処だ? 審議会の方はどうなっている?」

 アザゼルがイリシスに聞いた。

「イピテル様、リア様、康太郎様は、訓練場で稽古しております。審議会は一週間後です」

 

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