29 正論

「アズコフスル大聖堂のことを思い出して。ラベンダー畑にいつも連れてってくれたじゃない」

 リアが康太郎の肩を掴んで話すが、康太郎は眉間にしわを寄せて首をかしげる。

「私の力で康太郎の記憶を引き出すこともできるが」

 アザゼルが二人の会話に割って入った。

「できるんですか?! お願いします!」

 何となく、先ほどまで自分を避けていたようなリアの態度の変容ぶりに、アザゼルは違和感を持った。

「嫌だ」

 康太郎が首を振る。

「なんで!」

 リアは目を潤ませた。

「何故かわからない。でも嫌だ。思い出したくない。何か嫌な予感がする」

「本当は覚えてるんじゃない?! ずるいわよ! そんなの!」

「覚えていない。それは本当だ」

「お願いします。康太郎の記憶を取り戻させてください!」

 リアはアザゼルに向き直って頼んだ。

「しかし、本人が嫌がっている…それは無理だ。無理やり記憶を引き出すこともでるがそれはしたくない。何か正当な理由があるのかもしれない」

「でも、覚えていない記憶を覚えていないままにする正当な理由なんてあるの!? 言ってる事おかしいわよ! 覚えていない事を、覚えていないままにする根拠になる記憶自体がないんだから」

 リアの正論にアザゼルは閉口した。

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